October 14, 2020
情熱と努力のお茶づくり。知覧のトップランナー|鹿児島県南九州市 下窪勲製茶

45ha。これは、下窪さんが管理する茶畑の面積。

東京ドーム約10個分、600m×900mの大きさの茶畑と言うと、イメージもしやすいでしょうか。僕らの知っている生産者さんは4〜10ha程の規模の方が多いのですが、その中でも下窪さんの生産量は群を抜いています。

そんな下窪勲製茶の5代目・健一郎さんは、本当にお茶のことばかり考えています。お茶の話は尽きず、近隣の生産者と飲みに行くと朝までお茶の話をしているんだとか。

今回は、鹿児島県南九州市の頴娃でお茶作りを行う、下窪勲製茶を訪ねました。

鹿児島県のスピードスター、下窪勲製茶

「今度また畑増やすんですよ。早いところ見つけまして。はると34っていう早生の品種が良さそうなんで、試してみようかと。」

先日も電話で話した際に、こんな話をしてくれた下窪さん。既に45haもの畑を管理していながら、常に拡大することばかり考えてるんです。

お茶の収穫は温暖な南の地域から始まり、ちょうど桜の開花前線のように、北部や山間部など、次第に涼しい地域へと進んでいきます。日本でお茶の収穫が最も早いのは、最南端の種子島。種子島のお茶は「大走り新茶」と呼ばれ、日本一早く市場に出回るお茶として有名です。

そして種子島のお茶の後、鹿児島本土から最も早く出荷されるのは、なんと下窪さんが作ったお茶。45haの畑の内、日当たりがよく、生育の早い畑に「茂2号」という早生品種を植え、鹿児島県で最も早く収穫・加工を行い出荷するんだとか。

鹿児島の三月の茶畑

下窪さんの元を訪れたのは3月23日のことでしたが、この時点で畑には黄金色の新芽が伸び始めていて、既にこんなに芽が出ていました。

茂2号の新芽

鹿児島のように収穫が早い地域の場合、他の生産者よりも早く出荷することで、市場での値段が高くつくようになります。そのため鹿児島では、「ゆたかみどり」や「さえみどり」などの早生品種の生産が非常に盛んです。

その中でも下窪さんの「茂2号」は圧倒的に早い、まさにスピードスターなんだそう。

実は全国2位のお茶どころ・鹿児島県のお茶作り

あまり知られていませんが、実は鹿児島県のお茶の生産量は、静岡県に次いで第二位。日本で二番目のお茶どころです。さらには、都道府県ではなく市区町村で見た場合、鹿児島県の南九州市は全国一位。日本で最も生産量が多い市区町村なんです。

鹿児島県は生産量が多いだけでなく、茶の生産者一人あたりの農耕面積が最も大きい地域でもあります。南九州市の一戸当たりの農耕面積は5.1ha。他の地域の平均が2〜3haであることを考えるとその倍近い畑を管理している計算です。

下窪勲製茶はその中でも、45haもの農地を管理する一大生産者です。

鹿児島の茶畑の風景

さらにはその中で20種以上の品種を育てている下窪さん。通常の農作業に加えて畑の開拓、研究にも精力的に励み、営業で全国各地を飛び回り、時には海外にまで足を伸ばすことも。

いつ休んでいるのか不思議になるほど、1年中お茶のことを考えているんです。

「ずーっと勉強。」

「生産者は一番茶取れるのって年に1回しかないでしょ。結局僕も20年間お茶作りして、20回しか一番茶取れないんですよ。今年失敗して、また来年だ。来年もまたダメだ、ってなったらもうずーっと勉強ですよね。」

その言葉通り、下窪さんと話しているとその情熱とひたむきさに驚かされます。土づくり、栽培、加工、流通。その全てに妥協なく取り組むその姿には、近隣の生産者さんも影響を受けているんだとか。

「永山和博とかね、あいつと飲むと4時くらいまでお茶の話しますよ」

永山和博さんは、同じく頴娃でお茶作りを行う、僕らも大好きなやぶきたの名手。永山さんも非常に熱い方で、僕らもお伺いする度に数時間は話し込んでしまうほど、お茶に対する情熱がすごい生産者さんです。

お二人の間ではさぞかし熱いお茶トークが繰り広げられているのでしょう。

20種以上の品種を、精魂込めて

やぶきたの畑

「20種は確実にあるんですけど、完全には把握してないんですよね。毎年増えたり減ったりするもんだから。台帳見ないと。」

「つゆひかり」「おくみどり」「あさのか」「はるもえぎ」「茂2号」etc...

常に新しい品種に目を向ける下窪さんの畑では、まだ農林水産省に登録されていない品種を実験的に栽培することもあるとか。定番の品種から新興品種まで。味も違えば、最適な栽培法も加工法も違う20種を超える品種を、全てご自身で加工まで行う下窪さん。

「つゆひかりはあれ、いいでしょ。今年のやつはすごく出来が良くて、高くで評価されて。つゆひかりを作る生産者も増えてきたんですよ。」

「つゆひかり」は元々、静岡県を中心に作られていた品種。それを自身の畑に持ってきて、数年模索しながらようやく満足するものができたそう。下窪さんの作った「つゆひかり」の出来を見て、近頃は鹿児島でも生産者が増えてきたと嬉しそうに語ります。

そんな下窪さんの「つゆひかり」は、「つゆひかり」らしい濃厚な旨味を活かしつつ、鹿児島の雄大な大地を思わせるダイナミックな味わいのお茶に仕上がっていました。

こだわり抜いた土作り。ぼかし肥料と

肥料作りの倉庫

そんな下窪さんがお茶づくりで最も大切にしているのは土作り。下窪さんの畑では、土の状態やお茶の出来を見ながら、独自にブレンドした肥料を使って土作りを行っています。畑を見せてもらった後、肥料の保管場所にも案内していただきました。

窒素、リン酸、カリ、塩基飽和度、三層分布、石灰、苦土etc…

土の話をする下窪さんの話には耳慣れない単語ばかり。彼は自分で計算もしながら肥料をコントロールしているそうですが、生産者さんの中でも肥料の計算までできる人はすごく少ないんだとか。

「(農協の人が)数字の話ばっかするから、みんな眠くなってしまうんですよ。それを自分はノートに書いて、メモしたりして、計算の仕方教わったんですよ。」

美味しいお茶作りのためなら努力を惜しまない、勉強熱心な下窪さんの人柄が伝わります。

ここでは、米糠や竹を粉末状にしたものと堆肥を混ぜ合わせ、ぼかし肥料を作っています。

発酵が進んだ堆肥
発酵が進んだ堆肥。発酵により熱が生まれ、掘ると湯気が立ち上る。


堆肥と聞くとどうしても嫌な匂いを想像しがちですが、微生物による発酵が進み、肥料として完成した堆肥からは全く匂いがしません。

発酵が進んだ堆肥

こうして触ってみても、さらさらとした土のような質感で、鼻を近づけても匂いは一切なし。下窪さんはここで大量の肥料を作り、重機を使って畑まで運んでいくんだそうです。

こうして作られる下窪さんの畑は、成分のバランスや土の軽さなど、様々な要素を考慮しながら作られています。化学肥料を使っていると、次第に土が栄養分を吸いにくく変化してしまいます。そうなるとより多くの化学肥料を入れる必要があり、土が飽和状態になってしまうんだとか。

下窪さんは定期的に土壌分析を行い、有機肥料を中心に、より茶樹にストレスの無い土づくりを心がけているんだそうです。

パワフルな味わい。下窪勲製茶のお茶の魅力

下窪さんのエピソードは尽きず、ついつい色々と語りたくなってしまうのですが、僕らが思う下窪さんの一番の魅力は、やはりその味です。

品種の特性を活かし、それぞれにベストな方法で作られた下窪さんのお茶は、どれも個性豊かで、けれどもどこかに下窪さんらしさを感じる味わいです。

日射しの強い鹿児島県の南部で作られる知覧茶らしく、深蒸しで作られた茶の水色は実に色濃く、他地域ではなかなか見られないくらいの濃緑。その分深みが抑えられ、茶葉の力強い、濃厚な旨味が感じられるお茶です。

この力強く、一度飲んだら忘れないパンチのある印象的な味わいの裏には、下窪さんの情熱と努力が隠されています。FETCでは、下窪勲製茶のお茶を何種類か販売させていただく予定なので、是非いろんな品種茶を楽しんでみてください。