栽培から抽出まで。LIGHT UP COFFEE・川野優馬さんが考えるコーヒーのこと。(後半)

March 24, 2021

BEHIND THE SIP

コーヒーとお茶という、どこか似ているようで異なる二つのドリンクを両側面から見つめるLIGHT UP COFFEE代表・川野優馬さんとの対談記事。

前半ではLIGHT UP COFFEEがハンドドリップを選んだ理由や、豆を選ぶ基準についてお話ししていただきました。

後半は彼が考える焙煎のプロセスや、唯一無二の取組とも言える栽培への携わり方について聞いていきました。


焙煎で作るLIGHT UPの味わい。毎日飲めるバランスと、違いを感じる個性。

Q.今の話を聞きながら、コーヒーとお茶の違いに「焙煎」があるなって思ったんですよ。お茶の場合は生産者が作ったところから僕らが手を加えることはできない。厳密には仕上げの火入れを自分たちでやるお茶屋さんもいるにはいるけど、本当にごく一部。でもコーヒーには焙煎っていう、お店が味を左右する余地が残っている。生産が一番大事とした上で、そこからバトンを受け取ったLIGHT UPが考える焙煎ってどういうプロセスってなんなんですかね?

焙煎の美味しさの基準は2個あって、矛盾する二つの概念なんだけど、一つは個性が際立っていること。

豆の個性って品種・精製方法・環境の三つの要因からくるんだけど、今飲んでいるケニアだと、フルーティーな味がして、ジューシー、みずみずしいっていう個性。これが焙煎でこもった感じとか、苦くしちゃうと、個性が消えちゃうよねっていう。

もう一個の軸はバランス。

バランスがいいってことは尖りがなくて、個性はバランスが崩れてるから個性を感じるっていう、一見矛盾してるんだけど、それを同時に叶えようとしてる焙煎。

うちのコーヒーは、バランスがいいから冷めても甘くて、尖りすぎてないから毎日でも飲んでもらえるようなコーヒーになってる。

僕としては、個性あるコーヒーを作った生産者が報われるため、その生産が持続するためには、量を持って流通させる必要があると思ってて。だから、月一回のスペシャルドリンク専門店じゃなくて、毎日に馴染むような、明日も飲みたいって思えるようなバランスの中で、違いが感じられることを大事にしてる。



Q.確かに毎日飲みたいのはどんなお茶かって聞かれたら、バランスの取れた味わいの煎茶を選びます。ちなみにLIGHT UPのコーヒーはどれも浅煎りだと思うんですが、そこにはどんな理由があるんですか?

深煎りも浅煎りも、どっちも焙煎で味を生み出してるのは間違いない。ただ、うちの求める一番はクリアであること。軽くてクリアで飲みやすくて、透き通ってるからその奥の味がわかる。これは深煎りにはない浅煎りだけの味かなって。

じゃあその、クリアだから分かるその先の味が面白いかどうかは、素材によって違うよね。

ーなるほど、そこで素材のポテンシャルが出てくる。

一回僕らも手抜きのロットを作ったことがあって。あえて熟してない豆だけを摘んで、それだけをプロセスしてテイスティングしたら、先の味が無かったんだよね。

これは浅煎りでクリアにしても、物足りないコーヒーになるなと。ガッツリ火を通して、飲んだ瞬間にインパクトのある味わいにした方が良いだろうなってことがわかった。

それは、深煎りの人たちがダメな素材を使っているって訳では絶対にない。ただ僕らの感覚として、浅煎りでその先の味を見た時に美味しいコーヒーは、現地での精製とか環境が素晴らしいコーヒーであることが多い。



ー求めるゴールが「クリア」だからこそ、そのために取れるアプローチが結果として浅煎りになっているってことなんですね。

そうそう。

そういう豆の良さが一番感じられるのは、浅煎りだっていうだけの話。

栽培、収穫、発酵。現地の生産者とゼロから作るコーヒー豆。

この日淹れてもらったのはケニア産。優馬さん曰く「ギュインギュイン」な味

Q.少し豆選びの話に戻ろうと思います。選ぶ軸はさっき聞いたんですけど、実際にはどうやって探されてるんですか?

二つルートがあって、一つは専門商社から買うパターン。もう一つはすごく特殊で、うちでは生産者と協業して一緒に作っていくってことをやっている。

現地の生産者と一緒に、僕らから味のフィードバックをしたり、生産のプロセスを一緒に作ったりして、できたコーヒーを僕らが買い取るっていうのを、台湾・ベトナム・バリ島・ジャワ島・スマトラ島でやっている。

ーかなり抜本的ですね…

農園からやってるとか、精製所から作ったコーヒー屋さんは僕も聞いたことないかな。精製所の作り方知ってるコーヒー屋さんってあんまりいないと思う。

ー確かに聞いたことないですね。シングルオリジンもトレーサビリティが担保されてるってだけで、基本的には仕入れてますもんね。

生産地行く人は多いけど皆視察だよね。

僕らみたいに精製所立てて、農家組合作って30の生産者束ねて、チェリーの熟度の選別とか発酵のプロセス作ったりしてるコーヒー屋は、周りでは見たことない。

ーということは、コーヒー豆の収穫から発酵・乾燥、その後の流通までを一貫して、生産者と一緒に取り組んでいるってことですよね。LIGHT UPってそんな生産の段階からガッツリ関わってるんですね。

そうそう、バリ島はもう農業革命起こってるよ!笑

ー笑

去年『DRIFT』っていうコーヒーのカルチャー誌のタイトルが、『It’s time for farmers to drink speciallity coffee』だったの。激アツじゃん。遂に農家がスペシャリティコーヒーを飲む時代がきたって。



Q.確かにコーヒーやカカオの生産者は最終加工されたコーヒーやチョコレートを知らない、みたいな話聞きますもんね。ちなみになんでバリを選んだんですか?

僕が人生最初に行ったコーヒー農園がバリだったから。アジアでのコーヒー生産の課題に気づいたのがそのバリの農園でだったんだよね。

バリにはスマトラ式っていう作り方がある。これははっきり言っちゃうと「生乾きで売るコーヒー」。

コーヒーは乾燥させる時、水分量を10%台まで乾燥させるのが一般的なんだけど、スマトラ式は20%とかで売っちゃう。その分出荷が早くなるから、農家的には早くキャッシュが回る生産方法なんだけど、それに慣れてしまうと、それを遅らせてでも美味しいコーヒーを作ろうって思うことはなくて。

さっき話したクリアさの先にある味わいを考えた時に、ここで行われてた作り方(乾燥の時間や豆の熟度や発酵時間)って、ワクワクする味が出せる作り方じゃない。そのことに、バリ島行った時に気づいたんだよね。

それ見た時に、お金先に全部渡して何百キロ僕が買うんで、言った通りのレシピで一回作ってみてくれない?マジで美味しくなると思うんだよねって熱く語ったら、彼らも乗ってくれて、実際にそれで作ってみたら本当に美味しくなって。それで初めて、バリのコーヒーが美味しくないって言われてたのは、精製が原因だったってことがわかった。

そこからこれを生産者に伝えていこう。バリ産でも世界レベルのコーヒーを作ってみようぜっていう取り組みを始めた。

バリ島のバトゥール山という火山の麓の森の中に作った精製所(写真は優馬さんのnoteから)

Q.それっていつ頃の話ですか?

初めて行ったのが、リクルートに新卒で入った年。7月に有給が付与されて、8月に全部使った笑

ー笑 6年前のその時から、ずっと続けてるんですね。

2015年に初めて行って衝撃受けて、美味くなるんじゃねって熱くなって。2016年に実行して美味いやんってなった。2017年にはクラファンやって、精製を変えるために機械導入したりして、2018年から現地で生産活動を始めて、2019年にはツアーを始めて、2020年からオーナー制度始めたって感じ。

LIGHT UP COFFEEが運営する農園オーナー制度(2021年度分は募集終了)

Q.ここ数年の取り組みはそういう経緯で成り立ってたんですね。ということは、今はもうLIGHT UPとして理想のコーヒーを作るために、生産の部分からプロセスが出来上がっている?

そうだね。

実際に自分でやってるから、どのプロセスがどれくらい味への影響があるかっていうのが分かる。何十回も行って土からやってると、どこが大事ってのもわかるし。

赤く熟したコーヒーチェリー(写真は優馬さんのnoteから)

Q.なるほどなぁ。例えば摘むのは色で判断できると思うんですけど、発酵とかってどうやってレシピ作ったんですか?

発酵って基本的には置いとくだけなんだけど、それをレシピにするためにはPDCA回しまくってたな。

台湾行った時とかは、分岐を作りまくった。パターンAはこの温度、パターンBはもっと冷ましてこの温度みたいに、温度とか時間とか思いつく限りの発酵の環境を試して、それを何十種類もテイスティングして、条件によって味わいがどう変わるかっていうのを確かめてた。

ーめちゃくちゃトライ&エラー…

そう、死ぬほどロジックを詰めて、レシピを作った。

ーそういう風に生産からやれたら、めちゃめちゃ面白いコーヒー屋になりますよね

そうなんだよ、その面白さを伝えたいんだよね。

熱意と品質が還元される世界に。生産者とお店、それぞれの役割。

Q.そろそろ最後の質問になると思うんですけど、一番アツい生産者の話を聞かせてくれませんか?

なにそれ笑

ー例えば、僕らの場合だとある鹿児島の生産者さんがいるんですけど、この人がアツくて。

日本で作られてる緑茶の品種って、70%は同じ品種なんです。「やぶきた」っていう品種で、品質も高いし耐寒性も強くて、一定育てやすい。買い手も付きやすいってことで、1940年代に爆発的に広まって、今でも圧倒的1位の超定番品種です。

要はこの品種、日本中のほぼ全ての生産者が作ってる品種なんですよ。で、その生産者さんは「この品種極めたら、日本で一番の生産者になれるでしょ」って言って、全力で「やぶきた」を作り続けてる。お茶づくりに対する愛情も情熱もめちゃくちゃ大きくて、この人の「やぶきた」はとにかく美味しいし、すごく誠実な味がする。お茶も、お茶作りへの姿勢も含めて、大好きな生産者さんのうちの一人なんです。

生産者とも距離の近い優馬さんに、そういう印象深い生産者のエピソードとか聞いてみたいです。

それでいうと自分も生産者だから僕ら自身になるんだけど笑

ー確かにそれもそうですね笑

それはさておき、生産者側で面白いなって思ったのは、ベトナムのダラットの山1700mのところでやってるローランさんっていう、4代目の女性農園主さん。

右の女性がローランさん(写真は優馬さんのnoteから)

元々彼らは少数民族で、ちょっと前までは服とか織物を作ってる民族だったんだよね。その人たちは自然なやり方にこだわってて、機械を全然使わない。桶と水さえあればコーヒーはどこでも作れる、って言ってて。で実際に手洗いの作業が狂ってて、何トンっていう豆を桶で手洗いする。

エチオピアとかは水路に流して棒で洗ったり、もっとお金持ってる中南米だとウォッシングマシーンがあったり、ジェット水流で汚れを落とす技術とかがあるんだけど、そこはひたすらでっかい桶に発酵したコーヒーをいれて、ホースで水を入れて、お米を研ぐののハードなやつをやってる。手でジャラジャラって。透明になるまで水を3回変えて、何トンっていうコーヒーを手作業で作る。

ーやば笑

そのやり方が良い悪いってことじゃなくて、そこまで自分の手で管理して、美味しいコーヒーを作ろうって想いがあるんだなって。それで実際めちゃくちゃ美味しくなってるし、自分のコミュニティのコーヒーをどうやって美味しくするかに神経を研ぎ澄ましてる。

コーヒー好きすぎて、森の中でコーヒーチェリーを食べすぎて病院に運ばれるのを2回するくらい笑

ベトナム ダラット山中のコーヒー農園(写真は優馬さんのnoteから)

それくらいコーヒー大好きで、コーヒーをどう美味しくしていくかを、自分の行き届く管理・手作業で全部やってる彼女はアツい。一緒に組んでてパッション感じるし、洗わせてもらう時にちょっと汚れ残ったまま次行こうとすると怒られる笑



Q.お茶も昔は手摘み・手揉みが主流で、今もごく一部ではそのやり方が残っている。ただ、手作業だとどうしても作れる量が小さくなってしまう。ローランさんのところって量の担保ってどうしてるんですか?

もう人海戦術。みんなで頑張る

ー価格上げるとかでもなく?

あ、価格は上げてる。頑張った分価格はもちろん上げてるし、さらに価格上げるために、自分たちで焙煎して街のコーヒー屋さんに卸したりもしてる。

美味しいコーヒーをもっと価値上げるためにいろんなことやるし、細かいとこまでこだわってやる。

ー素晴らしい。ちなみにコーヒー産業って、生産者のとこまで利益がいくような構造って、整ってきてるもんですか?

いや、微妙だと思う。植民地で生まれた文化だからね。先進国でようやく価値が上がって、生産国ではすごく安い単価で買われてるっていう現実はある。

1番の課題は流通だと思ってて。価値を認めて高い価格で買ってくれるバイヤー、エクスポーターと出会えてない。

だから、頑張ったところで誰が買うの?どうやったらそもそも美味しくなるの?ってのがわからないんだよね。

彼らからしたら代々引き継がれてきたやり方を守るのが基本。 それはそれで続くけど一回雨が降りすぎて豆がダメになったら、それでキャッシュフロー崩れて農園が潰れちゃう。それを防ぐためにも、価値を高めるような繋がりとかノウハウを持って来れる仕組みがないといけないなって思う。



ー優馬さんがコーヒーの生産の部分から取り組んでいるのもそういう想いからですよね。

そうそうそう。

農業って将来を憂いて「守る」仕事だと思ってて。今年は雨大丈夫かなとか、気候大丈夫かなって不安になりながら、ひたすら守っていく仕事。

リスク張って、新しいことやって失敗した瞬間、全部終わっちゃう。自分らが生きていけなくなる。そんな仕事だから、新しいチャレンジをするような精神ではないと思う。それを僕らが保守的だって批判するのも間違ってる。

ーわかります。

僕らが生産者組合を作ってるのも、彼らは今までのやり方を守って、美味しいチェリーを摘めばいいだけ。僕らがリスク背負って、新しい発酵や精製をやって付加価値上げていくから、生産者はこれまでのやり方を守っていけばいいよって。

僕らが外向いてリスク取る存在にならないといけないなって思って、その形をとっている。

ー僕らもすごく思うのは、生産者が向き合ってるのは地球で、自然とか気候とか、自分の力ではどうにもならない、とてつもなく大きいものと戦っている。そこから来るのか、彼らには無常感みたいなものがあって、どうしようもない、みたいな感覚があるんですよね。

流れるままに行くしかない、みたいな感覚ね。

ーそのせいか、新しいことに対する腰はどうしても重いんですよ。

大変だよね。守りの部分を捨てていかないといけないもんね。

ーもちろんそこは僕らも理解できるし、新しい取り組みにチャレンジする生産者ももちろんいるけど、彼らの本分はあくまで生産に向き合うこと。であるからこそ、僕らがリスクをとって、彼らを守っていかなきゃならない。それはお茶もコーヒーも同じだなと感じました。

ー産地での栽培からお店での抽出のお話まで。LIGHT UP COFFEEが目指すコーヒーのことが今日ですごくわかったような気がします。貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

LIGHT UP COFFEE