目次
瀬川さんは、茶生産者さんの中ではすごく珍しい考えを持った生産者さんです。ユーザーのニーズに合わせたお茶作りを模索した結果、「ゆたかみどり」と「あさつゆ」の2品種を主軸の製品として選んだのだそう。
彼の感覚はすごくマーケティング寄りで、ユーザーがどんな淹れ方をするのか、どんなお茶がユーザーに求められているのか、そういったことを考えてお茶作りを行う稀有な生産者です。
今回は鹿児島県南九州市、頴娃でお茶づくりを営む瀬川農園さんを訪ねました。
どんな飲み方でも美味しく。選び抜いた2つの品種。
瀬川さんが品種茶として作っているのは「あさつゆ」と「ゆたかみどり」の2品種のみ。
他にも「やぶきた」「おくみどり」「かなやみどり」などの品種を作っている中、2品種のみを選んだのには、瀬川さんなりのこだわりがありました。
お茶は、淹れ方によって味が大きく変わる飲み物です。温度・抽出時間・お湯の量など、望むような味で淹れられるようになるには、気にすべき点は無数にあります。そう考えると生産者が緻密に作り上げたお茶の味わいは、飲み手の淹れ方一つでいくらでも変化してしまう。であれば、どんな淹れ方でも美味しいお茶を作ればいいんじゃないか、というのが瀬川さんの考えです。
瀬川農園の「あさつゆ」と「ゆたかみどり」
「あさつゆ」は天然玉露とも呼ばれ、豊かな旨味と品の良い香りを持つ品種。「ゆたかみどり」は鹿児島で生産が盛んな、しっかりとした渋味を持つ品種です。
お茶の味がダメになってしまう最も大きな要因は、お湯の温度が高すぎること。お茶の苦味・渋味物質であるカフェインやカテキンは、低温よりも高温で抽出が進むので、60℃で淹れたお茶と80℃で淹れたお茶を比べると、後者の方が圧倒的に苦渋味が強いのがはっきりとわかります。
ところが、そのことを理解してお茶を飲むユーザーは決して多くはありません。基本的に60〜80℃で淹れるのが推奨される煎茶ですが、グラグラに沸いたお湯を使うシーンを見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。
そこで瀬川さんが選んだのが「あさつゆ」と「ゆたかみどり」の2つでした。
「どんなお茶が好きなのかアンケート取ってみると、大体甘いか渋いかに意見が割れるんですよ。で渋味と甘味だったら、僕が作ってる中だとこれとこれかなって。」
「あさつゆ」は苦渋味の薄い品種なので、高温で淹れても渋くなりにくく、「ゆたかみどり」は元々その豊かな渋味を楽しむ品種なので、高温でも楽しむことができるという、味のコントロールの余地が少ない2つの品種を選びました。
気が付けばエコファーマーに。
「エコファーマー」は土づくりや減化学肥料・減農薬など、人にも環境に優しい農業に取り組む農業者が認定される称号。瀬川さんもエコファーマーの認定を受けていますが、その背景は他の生産者さんとは少し違いました。
「経営改善です。無駄が多いなって感じたんですよ。一番茶の前にこの薬をかけましょう、二番茶にはこの薬って決まってるんですけど、それ全部やってると物凄いんですよ。金額的にも物凄いし、気分も悪くなるし、本当に必要なのかなって思って」
お茶の生産は、その方法がある程度確立されています。枝の伸ばし方、農薬・肥料の使い方、加工の方法など、既に先人が作り上げたノウハウに沿った作り方があるんです。
ですが当然、農薬も化学肥料もタダではありません。使えば使うほど品質は安定しますが、その分お金もかかります。
「20代の頃にいろいろ試してみたんですよ。カウンター持って、葉っぱ全部見て、卵がいくつ、虫食いがいくつって。そうやって統計を取ってみると化学肥料は削れないけど、農薬なら削れそうだっつって」
そうしてテストを繰り返した結果、今の方法に落ち着いたと語る瀬川さん。元々は経営改善のために減農薬を進めた結果、気付けばエコファーマーの認定を受けていたんだそう。
鹿児島らしくない、けれど美味しいお茶。
鹿児島はガツンとパンチの効いた、濃い旨味のお茶が評価を得やすい地域ですが、瀬川さんのお茶はそれとは真逆の、少しあっさりとした味わいのお茶です。
化学肥料を使うと茶葉中の旨味成分が増えるため、しっかりと濃厚な旨味を感じるのお茶となりますが、ゴクゴク飲むというよりも、少しずつ味わって飲むようなお茶です。それに対して瀬川さんのお茶は旨味や渋味のバランスを追求しています。
特に瀬川さんの「ゆたかみどり」は抜群。僕らも「ゆたかみどり」はいくつも飲んできましたが、瀬川さんのは渋味が抜群に美味しいんです。
「ゆたかみどり」は鹿児島で多く作られる早生品種。豊かな渋味と穀物様の香りが特徴的で、旨味もしっかりと感じさせながらその爽やかな渋味が後味を引き締める、普段使いにぴったりなキレのある品種です。
瀬川さんの「ゆたかみどり」には、どこか懐かしさを感じる安心感があります。ホッと一息つきたい時にも、食事やお菓子と一緒に楽しむのにもぴったりな、日常の中にスッと溶け込むお茶。気取らず手軽に淹れられる瀬川さんのお茶を、是非楽しんでみてください。