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牧之原の地で35年、自然とともにお茶づくりに励む農家〈杉田製茶〉さんと、それを支えるお茶問屋の〈小栗農園〉さんへ、会いに行ってきました。

わたしたちが普段飲んでいるお茶が、どんな風に作られているのか、生産者の方々がどんな思いで作っているのか。そして、実際に販売の手助けをする問屋さんとどのような連携を取っているのか。

実際に育てている畑を見せていただき、お茶づくりにかける思いをお聞きしました。

私自身、お茶農家さんとお話しをするのは初めてでしたが、お茶づくりへの情熱や、自然との調和を大切にしながらお茶を作っていることを実感しました。おいしいお茶が生まれる理由が、ここにつまっています。

その様子を前編・後編に分けてお届けします。

創業大正5年。牧之原台地から海外までお茶を届ける〈小栗農園〉

静岡県牧之原市の小栗農園

〈小栗農園〉は、大正5年から静岡県牧之原でお茶の栽培を行なっていた元・お茶農園さん。現在では、お茶の栽培は専門の農家さんに一任し、ご自身は牧之原や川根にある契約農家さんが生産したお茶の販売や、ティーバッグの加工を中心とした茶葉の加工など、幅広い事業を行なっている会社です。

今年で103年目を迎える〈小栗農園〉の取締役社長 小栗久智さんにお話をお聞きしました 静岡県牧之原は、徳川慶喜についていた武士が明治2年の版籍奉還によって職を失ったため、牧之原台地に茶畑を開墾したことが、現在まで続くお茶産業の始まりだったそう。

参照: http://www.city.makinohara.shizuoka.jp/

1913年に創業した〈小栗農園〉では現在、日本全国から海外まで、上質な牧之原茶を届けています。

新茶の体験イベントを通じ、地域に根ざした活動も

〈小栗農園〉は、地域に根ざした活動にも力を入れており、毎年3月の第3週の日曜日には、契約農家さんやJAと一緒に地域の方々にお茶を身近に感じてもらうための新茶の体験イベントを市のイベントとして開催しています。

参照:http://www.makinoha.com/p_27.html

そのイベントにかける思いもひとしお。

社長の小栗さんは、正月早々から準備を始め、毎年参加される農家さんたちと一緒になって、ビニールハウスを作って畑の保温を始めるそうです。

小栗久智さんと杉田素之さん
左:杉田さん 右:小栗さん

「まわりはみんな農家の人しかいないのに、正月明けから、ひとりで手伝ってくれる(笑)」と話すのは、契約農家のうちのおひとり、〈杉田製茶〉の杉田素之さん。

本来ならば新茶を摘む時期は5月上旬ですが、その時期は農家さんが茶摘みのシーズンで、一年で一番忙しい時期。なので、ハウス栽培で温度などをコントロールし、通常の新茶の時期よりも早い3月中旬に開催しています。

イベントでは新茶の手摘みや、現在ではほとんど行われていない、お茶の手もみ体験ができ、イベントでは、新茶を摘むところからお茶をいただけるまでの過程を体験できます。実際に茶摘みをし、現在ではほとんど行われていないお茶の手もみ体験などを通じ、生産から加工までを自分で体験した上で、いち早く新茶を味わえる内容になっています。

また、周辺の小学校などでお茶の出張授業を農家さんと一緒に行っており、地域の方々と密接なコミュニケーションをとった活動をされています。

海外への展開や、農家をサポートする活動も

牧之原台地でお茶の栽培が始まった当初、イギリスやアメリカへの紅茶の輸出が多く、今は緑茶を中心に作っている農家さんも、昔は紅茶を作っていた方が多かったそうです。

〈小栗農園〉では現在、海外への輸出にも力を入れていて、有機栽培の紅茶を作っています。特にアジア圏の販売が中心で、日本茶が注目されているようです。

また、通常のお茶栽培には不利になる土地の農家さんをサポートする活動も行なっています。

小栗農園で扱っているのは、主に大井川水域にある牧之原台地のお茶。上流にある川根(かわね)地域の農家さんと一緒に、オーガニックの抹茶の生産にも取り組んでいます。

オーガニックの抹茶工場を作った理由は、その地域の農家さんの所得や生産量を上げたかったから、とお話しする小栗さん。

桜前線が南から上昇するように、山の中に畑が点在するような地域では、標高が高く気温が低いため、お茶の生産も南側の地域にある茶畑に比べて成長が遅くなります。

遅くなればなるほど、他の地域で需要が賄えてしまい、茶葉の価格の面でも不利なため、価格が左右されず、土地の特性を生かしたオーガニックの畑や工場を作ることにしたそうです。

今後、こちらの川根地域のオーガニックで作る抹茶の工場についてもレポートする予定なので、楽しみにお待ちください。

淹れ方で、うまみが変わる!「つゆひかり」を飲み比べ

小栗農園のつゆひかり

お茶の味わいは、淹れ方によって驚くほど変化します。その鍵を握るのは、湯の温度。

煎茶の場合、入れる湯の温度が高いと、カテキンが多く出て渋みが強くなります。

うま味を感じるアミノ酸は50度あたりから溶け出し、渋みの原因となるカテキンは、温度が高くなればなるほど出やすくなるため、それぞれのお茶に合う適温で淹れるのが、おいしいお茶を飲むコツです。

今回は、小栗農園さんで作っている「つゆひかり」を2つの方法で飲み比べました。

「つゆひかり」は牧之原地域の推奨品種であり、通常より早い時期に芽が出る品種とのこと。鮮やかな緑が美しく、うまみが出やすいのが特徴です。

この「つゆひかり」は小栗農園さんが特別に作っているもの。収穫の1週間前から、お茶に遮光ネットを被せてうまみ成分を引き出し、新茶の柔らかい部分(みる芽)を摘むことで、「つゆひかり」は生まれます。通常のお茶の製法に、さらにひと手間をかけて栽培する、まさに特別なお茶です。

お茶を摘む1週間前に、遮光ネットをかぶせてうまみ成分を引き出し、新茶の柔らかい部分(みる芽)を摘むことで、「つゆひかり」は生まれます。

すすり茶と80度で淹れたつゆひかり
左:すすり茶 右:80度で淹れたもの

まずは、80度で淹れた「つゆひかり」をいただきます。

80度で淹れたつゆひかりの水色

この「つゆひかり」という品種は、甘味と旨味がものすごくしっかりした品種で、お茶の香りや飲み口もとてもまろやか。口に含むと、お茶の旨味がたっぷりと広がって、これまで飲んできた他のお茶とは一線を画す美味しさ。

私も実際に家で試したところ、旨味と甘さのバランスが素晴らしく、「つゆひかり」の虜になってしまいました…!

「つゆひかり」のうまみを贅沢に味わう、「すすり茶」とは

つゆひかりのすすり茶

次に「すすり茶(「しずく茶」とも呼ばれています)」と呼ばれる、1滴だけ飲むという飲み方を試します。

水は、お茶と同じく大井川水域の軟水を。

小さな角皿に茶葉1,2g程度と、人肌くらいの温度の水を茶葉がひたる量を入れます。茶葉が広がって成分が抽出されるまで、2分程度待ちます。

お茶が抽出されているかどうかは、じっくりと茶葉を観察してみましょう。小さな茶葉(みる芽)が少しずつ開いていくのが見えるはずです。

茶葉が開いたら、角皿の角に口をつけてすするように飲みます。

小栗さん「これくらいの茶葉だと、もっと抽出はできるのですが、あえて1,2滴だけ飲むと、凝縮されたうまみを贅沢に感じられます。100度の熱湯で入れてしまうと、カテキンの作用で苦味が出てしまうので、茶葉のうまみを一番感じる温度帯で飲むのがおすすめですよ。」

水のしずくにお茶の色が移ってきたら、飲みごろの合図。お茶のうまみを存分に味わうには、すぐに飲み込まず、舌の上で転がせて香りを味わいます。

すすり茶は、驚くほど濃厚な「つゆひかり」のうまみを感じられる飲み方!

これは本当にお茶なのかと思うほど、お出汁のようなしみじみ体に染み込む味わいを感じられます。80度で淹れた「つゆひかり」はもちろん美味しいのですが、そのうまみを凝縮して味わえるのがすすり茶という飲み方です。

すすり茶は、まさに贅沢飲みですが、お茶のうまみ成分が染み込んだしずく1滴だけで、「お茶を飲んだ!」という満足感が充分に得られる飲み方。時間をかけて抽出するので、しばらく余韻を楽しめるのが特徴です。

今回は水をたらして抽出しましたが、茶葉の上に氷を置いて溶けるのを待ちながら抽出する「氷出し」もおすすめだそうです。自宅で試したところ、うっとりするような甘みのある味わいに魅了されました…!

すすり茶は2煎目、3煎目も楽しめるので、ぜひ何度か抽出して味の違いを試してみてください。抽出後の茶葉はそのまま食べることもできますよ。

後編では茶畑や工場見学の様子をお届けします

畑で話す小栗さんと杉田さん

前編では、牧之原台地のお茶問屋〈小栗農園〉さんの取り組みや、お茶の飲み比べについて特集しました。後半では実際にお茶を育てている〈杉田製茶〉さんの畑を見せていただきながら、お茶への熱い想いを伺った様子をレポートします。

2020年, 12月 25日
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