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お茶の作り方は、無限に広がっています。

同じ茶葉でも、酸化発酵が進めば紅茶に、途中で止めれば烏龍茶に、酸化発酵をさせなければ緑茶になります。最近では少しだけ茶葉を萎らせ、少しだけ酸化させてから作る、萎凋煎茶を作っている生産者さんもいます。

もちろん、緑茶に向いている品種、紅茶に向いている品種などそれぞれ適性はありますが、物理的には全ての品種であらゆる茶種を作ることは可能なのです。

茨城県猿島でお茶作りを行う石山さんは、その無限の組み合わせを模索するチャレンジャーです。

個性的な作り手が揃う、茨城県猿島郡

茨城県は、決してお茶作りが盛んな地域ではありません。その地理的な特性からあらゆる農作物が育つ茨城県では、米や野菜からフルーツまで、本当に多種多様な作物の畑が見受けられたのをよく覚えています。

そんな中で敢えてお茶作りを選んだ猿島エリアの生産者は、実はかなりの個性派揃い。

ざっくりと僕らの所感を述べるなら、猿島の緑茶の一番の特徴は「苦味」です。ジュワッと広がる旨味に寄り添うように残るお茶の苦味。この苦味がお茶の味を適度に引き締め、より陰影のくっきりとしたパンチのある味わいとなるのです。

静岡県や鹿児島県とは違い、茶商との結びつきがあまり強くない猿島エリアでは、香りや水色について茶商の意向を大きく気にすることなく、生産者がそれぞれの個性を活かしたお茶づくりができているんだそう。

そんな中でも、石山製茶のお茶作りはかなり独特です。

18種もの品種を育てる変わり者。石山製茶のお茶づくり

僕らが考える、お茶の味を最も大きく変化させる要因はやはり品種です。

品種によってカテキン(渋味)・カフェイン(苦味)・テアニン(旨味)のバランスは違い、生まれ持った香気成分も異なるため、品種が違えば全く違うお茶になると言っても過言ではありません。

味わいだけでなく、葉の色・形・芽の伸び方・収穫量・樹勢 etc… 品種が変われば育て方や加工法も全く変わってくるのです。

石山さんは現在、18種類もの品種を作っています。

「何やってんだってよく言われます笑 けど、最終的には25種くらい作りたいなと思ってますよ」

20種近い品種を作っている生産者は、全国的にも非常にレア。通常は4〜5品種、多くても10品種ほどの生産者が多い中、決して生産規模が大きくはない猿島エリアではかなりの変わり者です。

面白いお茶を求めて。毎年増える品種の数

毎年のように新しい品種を植えるという石山さん。

通常新たに改植を行った茶樹は、収穫ができるようになるまで5年ほどかかり、生産者はその間に適した栽培法や加工法を模索していきます。その品種が本当に気候や土質に適しているのか、緑茶に向いているのか紅茶に向いているのか、2〜3年目から少し収穫ができるようになれば実際にその茶葉を揉んでみて味を確かめるんだそう。

新しい品種の畑。1〜2年目の茶樹はこんなに小さい。

20種近い品種を、それぞれの個性を把握しながら、適した栽培法や加工法を模索していくのは想像するだけでも気が遠くなるような作業です。

「めちゃくちゃ大変すよ!今からどうしようかなって思ってるとこです。でも父がまだ現役で、自由にやらせもらえるタイミングなので、今のうちにいろいろ試しておきたいんですよね。」

その苦労について尋ねたところ、笑ってそう答える石山さん。元々はお父様が県立の試験場で育種について熱心に勉強されていて、石山さんが畑に立ち始めた頃から品種の数は多かったそう。

そして石山さんの研究心はそこから更にもう一歩進み、その数多い品種の中で緑茶・紅茶・烏龍茶など、いろんな茶種を試し続けています。

緑茶・紅茶・烏龍茶。無限の組み合わせを模索し続ける。

緑茶向け品種「かなやみどり」の烏龍茶(荒茶)

緑茶と紅茶・烏龍茶の一番の違いは、その香りにあります。

緑茶の香りが200種類の香気成分から構成されているのに対し、紅茶や烏龍茶の香りを構成する成分は600種類以上。花やフルーツ、スパイスなどに例えられる豊かな香りは、無数の香気成分によって作られています。

ここで思い出して欲しいのが、緑茶も紅茶も烏龍茶も茶葉自体は全く同じものから作られているということ。香気成分や水色は本来全く同じものなのに、加工次第で全く違うものへと変化するのです。

そんなお茶の香り・味・水色を左右するのは、収穫後の茶葉を萎れさせる「萎凋」と呼ばれる酸化発酵のプロセス。

石山さんは、この「萎凋」のプロセスで実験を重ね、紅茶・烏龍茶だけではなく萎凋煎茶に至るまで、何十種類というお茶の試作を続けているんです。

紅茶・烏龍茶の製法自体は既に確立されていますが、石山さんが取り組んでいるのは緑茶向きの品種で紅茶・烏龍茶を作ること。僕らも「やぶきた」や「つゆひかり」を使って紅茶を作っている生産者さんを何名か知っていますが、石山さんの場合はその試作のバリエーションが尋常ではありません。

「意見はいただいたりするんですけど、作り方は完全に我流ですね。教わったとしても、作り方も機械も違うんで、同じやり方でやってもできない。そこはまあ自分で見つけていくしかないって思うので。」

無数の組み合わせの中から美味しいお茶を探すその作業には終わりがありません。「猿島の異端児」と呼ばれることもある石山さんは、その可能性に手を伸ばし続けています。

萎凋だけでなく釜炒りまで。飽くなきチャレンジスピリット。

そんな無数のお茶を試作し続ける石山さんは、昨年釜炒り製法も試したそう。日本で釜炒り茶といえば宮崎県や佐賀県など、ごく一部でのみ作られているイメージですが、稀に個人的に釜炒り機を購入して作る生産者もいらっしゃいます。

石山さんも紅茶や烏龍茶を作るにあたり、釜炒りでしか出せない独特の香りを求めてこの釜を購入したんだとか。けれども、その釜も生産量の観点から今は使っていないそう。

「こうやっていろんなことを試すのは面白いところではあるんですけど、最近はいろいろやりすぎたんで、何を軸にしてどうしていくかなっていうのを悩んでいて。味は良いけど、量産するにはこの釜じゃどうしても無理だなって」

発酵茶から釜炒りまで、様々な製法・品種を試し続ける石山さん。途方もない広大なお茶の世界に対し、まだまだ若い生産者である石山さんは日々考え、壁にぶつかりながらもその探究を続けています。

進化し続けるお茶の変化も楽しみながら。

飲ませていただいた「かなやみどり」の烏龍茶。茶葉の形と色が美しい。

「これから絶対大変なんですけど、楽しいかなって思ってて。品種いっぱいあるんで、これまで煎茶だと評価されなかった品種が、実は紅茶とか発酵茶にしてみると美味しいって可能性が眠ってると思うんで、発掘したいんですよね。」

そう意気揚々と語る石山さんが作るお茶は、どれもアイディアと面白さ、そして新しさに満ち満ちていて、飲み手を飽きさせません。

お茶の味はその年の気候に大きく左右されます。通常は合組(ブレンド)をすることで味を一定に保つのですが、単一品種のみで仕上げを行うシングルオリジン茶の場合、毎年全く同じ味わいのお茶を作り続けることができません。

毎年少しずつ変わる味わいを楽しみながら飲む。石山さんのお茶は、そんな楽しみ方もお勧めしたくなるようなお茶です。

2020年, 12月 06日