日本の茶栽培には、農薬を使う防除体系があります。これは隠された事実ではなく、農薬取締法や食品衛生法という法的枠組みのなかで、規制として管理されていることです。問題は農薬を使っているかどうかではなく、どのような規制があり、どんな検査が行われているかです。そこを理解することで、日本茶をより正確に見られます。
農薬が必要な理由、日本の規制がどう機能するのか、有機栽培との違いを、順を追って整理します。
なぜ茶の栽培に農薬が必要なのか
茶の木にはおよそ100種類の害虫と、複数の病害が知られています。必要な防除は、害虫の種類や栽培条件によって異なります。日本の茶栽培で使われる農薬は大きく三種類です。
- 殺虫剤 — チャノキイロアザミウマ、カンザワハダニ、チャノミドリヒメヨコバイなどの虫を対象とする
- 殺菌剤 — 炭疽病、もち病、赤焼病など茶の病気を予防または治療する。薬剤ごとの適用病害と使用条件を確認する
- 除草剤 — 畝間の雑草を抑え、茶樹が必要な養分を確保できるようにする
特に炭疽病(たんそびょう)は、「やぶきた」で感染しやすい病気として知られています。やぶきたは令和7年度(2025年度)の全国の茶園面積の64%を占めています(農林水産省調べ)。農研機構の温暖地での品種比較では、やぶきたは抵抗性品種より炭疽病の防除を必要とする例が示されています。
害虫の種類ごとに被害のメカニズムは異なります。チャノキイロアザミウマは新芽から汁を吸い、葉の変形や品質低下を引き起こします。カンザワハダニの被害が深刻になると、一番茶の収量が大きく減ることがあります。チャノミドリヒメヨコバイは新芽を加害し、新梢の伸育を止めたり製茶品質を低下させたりします。幹から汁を吸う害虫もいれば、新芽を直接食べる害虫もいます。
病害も複数のメカニズムで茶の品質を落とします。
除草剤も重要な役割を担っています。雑草が増えると、茶樹の成長に必要な養分が奪われます。除草の作業量は、どのように雑草を管理するかによって変わります。農研機構の「総合的病害虫管理(IPM)」技術集では、地域別の茶園について、抵抗性品種の選択や害虫の発生に応じた散布時期の調整を組み合わせた防除体系が紹介されています。
日本の農薬規制:残留基準はどう定められているか
農薬の使用は、農薬取締法・食品衛生法・水質汚濁防止法によって使用時期・使用方法・残留基準が厳しく定められています。茶の残留基準と公定試験法は、対象となる農薬ごとに確認する必要があります。食品安全委員会のサイトに掲載された2020年のペルメトリン基準設定資料では、茶の浸出液の作物残留試験結果を使って食事からの暴露量を試算しています。
ポジティブリスト制度の重要な点は、リストに掲載されていない農薬には乾燥茶葉換算で原則0.01ppmの一律基準が適用されることです。ここでいう一律基準は、対象外物質などを除き、個別の残留基準がない場合に適用されるものです。2012年度の研究報告では、水溶性の高い農薬ほど茶の浸出液への移行率が高かったと報告されています。
検査は生産・流通の複数の段階で行われており、基準値を超えた茶葉は出荷・販売できません。食品衛生基準行政は2024年4月1日に厚生労働省から消費者庁へ移管されました。農林水産省は農薬登録と農場での使用基準を管理しています。
| 観点 | 日本の規制 |
|---|---|
| 主な法令 | 農薬取締法・食品衛生法・水質汚濁防止法 |
| 残留基準の対象 | 農薬ごとの基準と公定試験法を確認。一部の暴露評価では浸出液の試験結果を使用 |
| 検査機関 | 厚生労働省・都道府県の食品衛生機関 |
| 有機認証 | JAS(日本農林規格)による第三者認証 |
| 「農薬不使用」の農産物 | JAS有機とは異なる概念。農林水産省の自主表示ガイドラインでは「農薬:栽培期間中不使用」などの限定した表示を用いる |
農薬を使わないお茶と「有機(JAS認証)」は、日本では別の概念です。農林水産省の自主表示ガイドラインでは、「無農薬」という限定のない表現ではなく、「農薬:栽培期間中不使用」などの表示を用います。茶の有機JAS規格では、通常、最初の収穫前3年以上にわたって禁止資材を使わないこと、土壌管理、生産行程について登録認証機関の審査を受けることが求められます。有機JASでも、規格が認める農薬を定められた条件で使用できる場合があります。有機認証の詳細は有機栽培の記事でまとめています。
輸出向けの日本茶は輸出先国の基準も満たす必要があります。
農薬のメリットとデメリット、そして選択肢
農薬を使う慣行栽培には、生産が安定するという利点があります。防除は収量の損失を抑えるために行われますが、作業の負担は農場や栽培条件によって異なります。WHOは、農薬ごとに物性と毒性作用が異なると説明しています。
一方でデメリットも存在します。農薬は対象となる害虫だけでなく、益虫や土壌微生物、周辺の水環境にも影響を与えることがあります。散布する農家が職業的な曝露リスクを抱えることも課題です。微量の残留農薬を長年にわたって摂取することへの懸念を持つ消費者も少なくありません。
有機JASでは、指定された農薬に限り、規格が定める条件で使用できる場合があります。代わりに、土壌づくり・天敵の活用・手作業による除草を中心に据えます。有機認証が示すのは生産規格への適合性であり、個人にとってそのお茶がより安全だと証明するものではありません。肥料と農薬の関係については肥料の記事も参考になります。
お茶を選ぶ視点として
食品の残留農薬の監視には計画に基づく抽出検査が含まれますが、これは茶葉の全ロットが検査済みという保証とは異なります。毎日日本茶を飲む多くの方にとって、残留基準をクリアした慣行農業のお茶は、規制の枠組みの中で管理されています。JAS有機認証のお茶は、どの生産規格に沿って作られたかを確認するための選択肢です。登録認証機関は、生産行程や記録などの規格適合性を審査します。
私たちFETCの調達方針は、何をいつ使ったかを説明できる農家を探すことです。認証の有無よりも、その姿勢がお茶の信頼につながると考えています。消費者の立場からも、パッケージに記載された栽培情報や産地の問い合わせ対応を確認することが、信頼できるお茶を選ぶうえでの手がかりになります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスの代替となるものではありません。農薬への暴露や食の安全に関する具体的な健康上の懸念がある場合は、医師または医療専門家にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省 残留農薬 — 食品中の農薬残留基準に関する日本国内の行政資料です。
- 農林水産省 農薬コーナー — 農薬取締法に関する行政情報です。
- 農林水産省 有機食品の検査認証制度 — 登録認証機関による有機認証の制度を説明する行政資料です。
- 食品中残留農薬等の急性暴露評価及び汚染実態把握に関する研究 — 茶の浸出液への移行について記載した2012年度の研究報告です。
FETCの茶葉コレクションを見る:Far East Tea Company の茶葉一覧
よくある質問
農薬を使って栽培された日本茶は、安全に飲めますか?
販売される日本茶は適用される残留基準を満たす必要がありますが、監視は検査計画に基づく抽出検査で行われ、茶葉の全ロットを検査するものではありません。残留基準と公定試験法は農薬ごとに確認する必要があり、一部の暴露評価では茶の浸出液の試験結果が用いられます。JAS有機認証は生産規格を示すもので、個人にとってそのお茶がより安全だと証明するものではありません。個人の健康上の懸念がある場合は、医師または医療専門家にご相談ください。
日本では「無農薬」のお茶と有機栽培のお茶はどう違いますか?
日本では、栽培中の農薬使用についての表示と有機認証は別です。農林水産省の自主表示ガイドラインでは、限定のない「無農薬」という表現ではなく、「農薬:栽培期間中不使用」などの表示を用います。茶の有機JAS規格では、通常、最初の収穫前3年以上にわたって禁止資材を使わないこと、土壌管理の要件を満たすこと、登録認証機関の審査を受けることが求められます。規格が指定する農薬は定められた条件で限定的に使用できます。両者の基準には重なる部分がありますが、同一ではありません。
日本茶の残留農薬検査はどのように行われますか?
日本茶の残留基準と公定試験法は、対象となる農薬ごとに確認する必要があります。一部の暴露評価では茶の浸出液の試験結果が用いられます。日本では、消費者庁が食品衛生基準行政を担当し、農林水産省が農薬登録と農場での使用基準を管理しています。
日本茶の有機認証から何がわかりますか?
有機認証は、お茶がどの生産規格に沿って作られたかを確認する手がかりになり得ます。生産規格への適合性を示すもので、個人にとってそのお茶がより安全だと証明するものではありません。栽培中にどの資材を使ったか、記録を確認できるかを尋ねられます。
農薬が気になる場合、子どもや妊娠中の方が日本茶を飲んでも大丈夫ですか?
市販の日本茶は適用される残留基準を満たす必要がありますが、監視は抽出検査で行われ、茶葉の全ロットを検査するものではありません。有機認証は生産規格への適合性を示すもので、個人にとってそのお茶がより安全だと証明するものではありません。個人の健康上の懸念がある場合は、医師または医療専門家にご相談ください。





