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お茶の品種|いずみ
「幻の品種」とも呼ばれ、滅多に出会うことのない希少な品種”いずみ”。
ですがその味わいは抜群。他の品種とは明らかに異なる香りを持ち、一度飲めば忘れられない。そんな品種”いずみ”についてご紹介します。
ごく希少な「幻の品種」
母に紅茶用品種である”べにほまれ”を持ち、元々は釜炒り茶用の品種として生まれた”いずみ”。この品種は「幻の品種」とも呼ばれ、現在では”いずみ”を育てている生産者はごく稀だと言われています。
その理由は、品種が誕生したその直後、輸出向けの釜炒り茶の需要自体が激減してしまった結果、生産者に広まり切らず、日の目を浴びないまま半ば忘れ去られてしまったからなんです。
ですが、その味わいは格別。一度飲んだら忘れられないほど、抜群に華やかなその香りは、人々の心を惹き付けて離しません。
そんな品種だからこそ私たちも”いずみ”に出会うことは本当に稀で、もし飲める機会があれば、思わず期待に胸が高鳴ってしまう。そんな希少で抜群に美味しい品種です。
”いずみ”の特徴
ごく珍しい釜炒り茶用品種
前述の通り、元々は輸出用の釜炒り茶用品種として育種された”いずみ”。釜炒り茶用の品種は、登録されている全119種の中でも6種のみと、非常にレア。
釜炒り茶用の品種が積極的に作られていた1950〜60年台は、お茶の輸出が非常に盛んで、海外向けのお茶が多く作られていたため、”いずみ”もそのニーズに合わせて作られた品種でした。
現在では紅茶がメイン
そんな釜炒り茶用に作られた”いずみ”ですが、開発から長い時を経て、現在では紅茶に加工されたものを非常によく見かけます。
それも当然。”いずみ”のルーツには紅茶用品種である”べにほまれ”があり、となれば紅茶にも適性が高い理由がよくわかります。
紅茶に加工された”いずみ”はコンテストでも高い評価を得ており、その味わいのレベルの高さが広く知られています。
寒さに弱い
そんな抜群の香りを持つ”いずみ”ですが、寒さに弱いという欠点があります。
山間部や北部などでは栽培が難しく、私たちが知っている生産者も、静岡県の温暖な南部や、九州の生産者がほとんどです。
そんな、とにかく希少さが際立つ”いずみ”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”いずみ”の味わい
南国のフルーツのようなトロピカルな香り
私が”いずみ”の紅茶を初めて飲んだ時、その香りの豊かさに驚きました。マンゴーやオレンジ、パインといった南国のフルーツの香りがいっぱいに広がり、その後をミントの様な清涼感のある香りが吹き抜けます。
もちろん産地や生産者によってその味わいは変わりますが、その華やかな香りは共通。他の品種では味わったことのないような芳醇な香りが魅力的です。
渋味は薄く、すっきりとした飲み口も魅力の一つです。
”いずみ”を育てている生産者は、私たちも国内で数軒のみ。その生産量もかなり限られており、文字通り「幻」のお茶となっている”いずみ”。もし出会うことがあれば、真っ先に飲んでみてください。
お茶の品種|べにふうき
近年、世界的に注目が高まりつつある「和紅茶」の中でも、最も多く目にするであろう品種が、この”べにふうき”。
花粉症対策としても有名な、”べにふうき”という品種について紹介します。
日本で初めての紅茶・半発酵茶用品種
普段から日本中の和紅茶を飲む私たちですが、その中でも最も多く出会うのがこの”べにふうき”です。
そもそも日本では、紅茶用の品種はその数自体が少なく、登録されている全119品種の内、紅茶用はたったの13品種のみ。釜炒り茶用の品種や、緑茶用ではあるものの紅茶としての品質が高いものを含めても、20品種ほどしか存在していません。
そんな中でも、紅茶としての品質に優れ、和紅茶の品質向上にも大きく貢献しているこの”べにふうき”。日本で最も人気な紅茶用品種であるこの”べにふうき”の特徴をご紹介します。
”べにふうき”の特徴
アッサム種の血を持つ品種
”べにふうき”は、母に同じく国産の紅茶用品種である”べにほまれ”を。父にインド原産の品種を持つ、紅茶・半発酵茶用の茶品種です。
日本で作られるほぼ全ての茶品種が中国種である中、アッサム種の血が流れるこの品種は、やはり紅茶に加工した際の品質が非常に高いのが特徴的です。
日本の気候に合わせて作られた耐寒性・耐病性
日本で初めて作られた紅茶用品種であるこの品種は、当然、日本の気候でも育てやすいように作られています。
元々温暖な地域で作られるアッサム種の特徴があるため、耐寒性こそ若干低いものの、東海以西の大部分の地域では栽培が可能。耐病性が高いため、無農薬でも育てやすい品種です。
花粉症対策になるお茶
”べにふうき”が一躍有名になった背景の一つに、花粉症対策があります。
”べにふうき”には、「メチル化カテキン」という抗アレルギー作用を持つ成分が非常に多く含まれており、この成分を定期的に摂取することで、花粉症などのアレルギー症状が抑えられることがわかりました。
根本的な治療法のない花粉症の症状を改善できると知り、2000年代に”べにふうき”が一躍有名な品種となりました。
ただし、この「メチル化カテキン」は、茶葉を発酵させてしまうと成分が変化してしまうため、茶葉を発酵させない緑茶の状態で飲むことが推奨されています。紅茶用品種である”べにふうき”を、あえて緑茶で飲まなければ、花粉症対策にならないことには注意してください。
”べにふうき”の味わい
紅茶に適した豊かな香り
アッサム種の特徴を持つこの品種は、加工の過程で発酵を進めることで、非常に多くの香気成分が生まれます。
インドールやリナロール、ゲラニオールなど、大半の緑茶用品種が持ち得ない華やかな香気成分が生まれることで、紅茶としての芳醇で複雑な香りが作り出されるのです。
そのため”べにふうき”の紅茶は、ライチや青リンゴに例えられる爽やかなフルーツの香りや、さつまいものような甘やかな香り、柑橘の酸味を感じる香りなど、産地や生産者によって様々な香りを持っています。
また、アッサム種の特徴としては渋味(カテキン)が強いことも挙げられます。
紅茶ならではの強めの渋味
本来紅茶に加工されることが前提のこの品種。お茶の渋味成分であるカテキン(タンニンとも呼ばれる)の含有量が、通常の緑茶用品種と比べて多い傾向があります。
紅茶として飲むのであれば、あまり渋味は気にならないのですが、花粉症対策として緑茶で飲む場合、通常の緑茶よりも強い渋味に驚かれるかもしれません。
”べにふうき”は品質の高い紅茶!
以上のように、”べにふうき”は紅茶として高い品質を誇る、日本で最初の紅茶用品種です。美味しい和紅茶をお探しの方は、ぜひこの”べにふうき”のものを試してみてはいかがでしょうか?
お茶の品種|あさつゆ
根強い人気を持つ優秀な緑茶用品種
”あさつゆ”は、”やぶきた”と同時期に登録された、非常に古い品種でありながら、現在においても根強い人気のある品種です。年間何百種類ものお茶を飲む私たちも、”あさつゆ”と聞くと期待感がグッと高まるほど、安定感のある美味しい品種です。
”あさつゆ”の特徴
通称「天然玉露」
”あさつゆ”はその強い旨味から、「天然玉露」と喩えられます。「玉露」とは20日以上の被覆栽培を経て作られる、緑茶の中でも最高級のお茶のことで、通常の煎茶にはない、格別に濃厚な旨味が特徴的なお茶。
通常手間暇をかけて作られるこの玉露と同じくらいの旨味が、ただ自然に作るだけで実現することから付いた異名で、それだけ強い旨味を持った品種であることがよく分かります。
寒さに弱い早生品種
”あさつゆ”は”やぶきた”と比べて7日ほど早く摘むことができる早生品種で、摘採時期を広く取ることができるため、農作業の負荷軽減にも役立つ品種です。
ただし、その分寒い時期に新芽が出てしまうため、霜の被害を受けやすく、寒冷な地域や山間部にはあまり向いていません。
耐寒性や耐病性も低いため、九州や静岡県の一部の地域でしか作られておらず、人気はあるものの希少な品種なんです。
そんな、温暖な地域の特権とも言えるような”あさつゆ”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”あさつゆ”の味わい
「天然玉露」と喩えられるだけあり、やはり”あさつゆ”の一番の特徴はその旨味にあります。
滋味深く優しい煎茶
元来テアニン(アミノ酸)の含有量が多く、渋味成分であるカテキンが少ない品種なので、旨味をしっかりを感じられるまろやかな味わいが魅力的です。
その旨味を活かすために、被せや深蒸しで作る場合もあり、その場合は香りが弱まってしまうため、強めに火を入れることで火香を付け、インパクトのある味わいに仕上げる”あさつゆ”も非常に美味しいんです。
香りにもクセがなく、穀物のような柔らかい甘やかな香りが万人に愛されています。
以上のように、”あさつゆ”は「天然玉露」と呼ばれるだけのポテンシャルを持った品種です。もし”あさつゆ”に出会うことがあれば、ぜひ飲んでみてください。
お茶の品種|香駿
FETCのコンセプトでもある「シングルオリジン」。それぞれの品種や生産者の個性を楽しむことができるこのシングルオリジン茶に、ぴったりの個性を持っているのがこの”香駿”という品種です。
今回はこの”香駿”について解説します。
静岡生まれの香りの注目品種!
静岡(駿河の国)で作られた香り高い品種であることから名付けられた”香駿”。
”くらさわ”と”かなやみどり”を交配して生まれたこの品種は、独特の魅力的な香りを持ち、新しいジャンルの日本茶として注目されている品種です。
後述しますが、個性的な香りや加工の幅広さ、そして育てやすさから、2001年に静岡県の奨励品種に採用された上、日本中の生産者から期待を寄せられている、期待の品種なんです。
”香駿”の特徴
個性豊かなシングルオリジン向きの品種
“香駿”は2000年に品種登録され、それ以来静岡県を中心にシェアを伸ばしてきました。
“やぶきた”などのスタンダードな緑茶とは全く異なる香りを持っているため、合組(ブレンド)には不向きという欠点もありますが、裏を返せばシングルオリジン(単一品種)で、魅力的な個性を楽しむのに適した品種です。
産地や生産者によって全く違う味わいのお茶に仕上がるので、それぞれの違いを楽しむのもおすすめです。
煎茶だけでなく紅茶にも
香りに特徴のある“香駿”は、煎茶だけでなく、半醗酵茶や紅茶にも適しています。
煎茶に加工する際も、「萎凋」という工程を経ることで、その華やかな香りが引き出されるこの品種。一般的に煎茶は萎凋をせずに作るのですが、この品種は萎凋香に魅力がある品種なので、煎茶でも萎凋をして作られるケースが多いのも特徴的です。
もちろん、煎茶よりも発酵を進ませて作る半発酵茶や紅茶の場合、“香駿”が持つ独特の香気がより引き出され、素晴らしい香りのお茶に仕上がります。
特に近年、和紅茶の作り手からの注目も高まっており、“香駿”の紅茶が色んな産地で作られるようになりました。
高い耐寒性
“香駿”は、その高い耐寒性から、日本中の多くの茶産地に適性のある品種です。
その香りを活かしたお茶作りができる山間部や、シングルオリジン茶としての販路を持っている生産者には、より適した品種だと言えるでしょう。
以上のように、独特の香気と育てやすさから、日本中から期待を寄せられている“香駿”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”香駿”の味わい
1にも2にも、とにかく香り!
これまでも何度も話した通り、“香駿”の魅力はやはりその香り。
ハーブやジャスミンの様な爽やかな香りを持ち、温度の変化とともにその香りも少しずつ変化していきます。一杯の中で様々な表情を見せてくれるお茶なので、何度でも飲みたくなるような魅力に溢れた品種です。
旨味と渋味のバランスも良く、舌当たりがまろやかな味わいも万人に愛される所以です。
香駿の紅茶は?
紅茶に加工された“香駿”は、前述の爽やかな香りの他に、マンゴーの様なフルーティーな香りや、スイカや野菜のような青さのある香りを持っています。
元々渋味が多くない品種なので、紅茶に加工してもタンニンが薄めの、すっきりと飲める紅茶が多いです。
紅茶は、春・夏・秋と、摘む時期によって味わいが大きく異なるので、時期によって変わる香りと味わいを楽しむのもおすすめです。
以上の様に、煎茶に紅茶に半発酵茶にと、幅広く活躍する“香駿”。これからの茶業界で、間違いなく活躍の場が広がっていく品種ですので、注目しておいてください!
お茶の品種|つゆひかり
近年、その人気がグングンと高まっている緑茶用品種である”つゆひかり”。
あらゆる面で優秀な”つゆひかり”についてご紹介いたします。
”つゆひかり”の特徴
”あさつゆ”と”静7132”を親に持つ、静岡の星
「天然玉露」とも呼ばれ、旨味が豊かな”あさつゆ”と、桜葉のような香りが特徴的な”静7132”を親にもつ”つゆひかり”は、まさに両者のいいとこ取りを実現したハイブリッド品種。
一般的に華やかな香りを持つ品種は、苦渋味が強い傾向にあるのですが、”つゆひかり”はその定説を覆し、旨味と香りを両立させた超優秀な品種なんです!
静岡県で生まれたこの品種は、新たな緑茶の1ページとして生産者の期待を背負い、2001年には県の奨励品種にも採用され、静岡県内で大きく広がりました。
その味わいが評価され、今では全国的に人気の高い、まさに日本茶の未来を担う品種です。
煎茶だけでなく紅茶にも
その香りを生かして、”つゆひかり”は煎茶だけでなく、釜炒り茶や半発酵茶、紅茶に加工されることもあります。
「萎凋」のプロセスを経ることで、華やかな香りが引き出され、ほのかな甘味を感じるお茶に仕上がります。
元来苦渋味が少ない品種なので、紅茶に加工しても渋味が薄く、すっきりと飲みやすい味わいのものが多く見られます。
高い耐病性と耐寒性
”つゆひかり”は病気や害虫、さらには寒さにも強く、日本中のあらゆる茶産地に適応し得る品種です。
寒さに強いので、山間部や北部でも作ることができ、その育てやすさと味わいの優秀さから、採用する生産者が非常に多い品種なんです。
以上のように、どこを取っても長所しか見つからない”つゆひかり”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”つゆひかり”の味わい
育て方によって味わいが大きく異なる
お茶の味わいは、その育て方や加工法によって大きく変化します。特に旨味と香り、2つの個性を持つ”つゆひかり”は、そのどちらの特性を伸ばすか、という生産者のコンセプトが分かれる品種でもあり、人によって大きく味わいが違うのが特徴的です。
①旨味豊かな滋味深い煎茶
その旨味を最大限に引き出すため、被せや深蒸しで作られた”つゆひかり”は、実に旨味が豊かな煎茶に仕上がります。
“やぶきた”と比べると、清涼感のあるすっきりした香りを持つため、旨味は強いのにすっきりと飲めるお茶になるんです。
明るく綺麗な水色のお茶なので、被せ深蒸しにすると、明るい濃緑の美しい水色になることも魅力の一つです。
②甘やかな桜の香りの煎茶
「クマリン」という桜葉を思わせる華やかな香気成分を持つ”つゆひかり”。その香りを生かして作られた煎茶は、透き通るような旨味の中に、ふわっと広がる桜の甘い香りが魅力的です。
山間部では、新芽が柔らかく育つため、香りを活かしやすい浅蒸しで作られる場合が多く、この香りのタイプの”つゆひかり”が多い傾向にあります。
以上のように、どの側面を切り取っても優秀なこの”つゆひかり”。お茶が好きな方には絶対に一度味わってみてほしいお茶です。
お茶の品種|さやまかおり
シングルオリジン茶を探していると、度々見かけるこの”さやまかおり”という品種。
今回は、煎茶向け品種でありながら、その特徴的な香りから、時には紅茶に加工されることもあるこの”さやまかおり”についてご紹介します。
「狭山」で作られた「香り」高い緑茶向け品種
読んで字の如く、埼玉県狭山地区で作られた品種である”さやまかおり”。
品種名の由来は様々ありますが、”藤枝かおり”、”むさしかおり”、”ゆめかおり”など、名前に「かおり」と付く品種は、特徴的な香りを持つ傾向があります。
”さやまかおり”も、青さのあるフレッシュな香りを持つことから、この名前が付けられました。
”さやまかおり”の特徴
”さやまかおり”には、以下のような特徴があります。
圧倒的な収量の生産者の味方!
”さやまかおり”の一番の特徴として挙げられるのが、その収量性の高さ。茶園を眺めていても、その芽数の多さは一眼で”さやまかおり”だとわかるほどです。
品種や育て方によって茶の芽の数は異なり、芽の数を重視する「芽数型」の生産者もいれば、芽の品質を重視する「芽重型」の生産者もおり、そのスタイルは様々なのですが、ごく一般的な話として、生産量が多すぎて困るということはほぼありません。
同じ面積で比較しても、他の品種よりも圧倒的に収穫量が多いこの品種は、生産量を安定させるのに一役買ってくれる、生産者にとってありがたい品種なんです。
優れた耐寒性
狭山は日本の茶産地の中でも比較的冷涼な地域で、そんな地域で作られた”さやまかおり”は、高い耐寒性を持っています。
よほどの高地でなければ、日本中の生産地で栽培することができ、炭疽病を除けば病気や害虫にも強く、全国的に非常に栽培しやすい品種だと言えます。
ただし、温暖な地域での品質は”やぶきた”よりも劣るため、南部の温暖な地域よりも、静岡県の山間部や狭山など、冷涼な地域でよく見られる品種です。
”やぶきた”よりも1〜2日早く摘める中生品種
”さやまかおり”は、”やぶきた”と同じ中生品種ですが、”やぶきた”よりも1〜2日早く摘採時期を迎えます。
お茶の摘採時期は非常に短く、一番茶の時期などは、毎日新芽を摘んでもベストなタイミングに間に合わないこともあるほど。そんな多忙な生産者にとって、たった1日でも摘採時期をずらすことができるというのは、農作業の負荷を軽減する意味でも非常に重要なんです。
収穫量・耐寒性・摘採時期、生産者にとって非常に魅力的な特徴を兼ね備えたこの”さやまかおり”。その味わいは、どんなものなのでしょうか?
”さやまかおり”の味わい
きな粉やゴマのようなドライな香り
香りに特徴のある”さやまかおり”。その香りは”やぶきた”と比較するととても力強く、少しクセがあると感じる人も。
特に「萎凋」させて作られた”さやまかおり”の煎茶は、その香りがより強く引き出され、きな粉のような少し甘さのある香りや、炒りゴマのような香ばしさを伴う香りを持っていて、どこかドライな印象が魅力的なお茶です。
産地によっては、爽やかなハーブ様の香りを持つこともあり、清涼感のある香りに仕上がる場合もあります。
キレのある爽やかな渋味
”さやまかおり”は、”やぶきた”と比べると渋味がやや強い品種です。
一般的に「渋味」と聞くと、ネガティブな印象を持ちがちですが、お茶における渋味は、その味わいを構成する大切な要素の一つ。渋味は味わいに奥行きを与え、余韻やキレを演出してくれるのです。
上手く作られた”さやまかおり”の煎茶は、爽やかな渋味を持っており、適した温度帯で淹れることで、渋味の美味しさを楽しむことができます。
煎茶だけでなく紅茶にも
「萎凋」に適した品種である”さやまかおり”は、煎茶だけでなく紅茶に加工されることもあります。
”さやまかおり”で作られた紅茶は、品種の持つ香りが最大限に引き出され、清涼感のある爽やかな印象に仕上がります。
アッサムやセイロンの紅茶のような、華やかさのある芳醇な香りとは違い、和紅茶らしいすっきりとした味わいの紅茶なので、興味がある方は是非一度試してみてください。
”さやまかおり”はとても優秀!
以上のように、生産者にとっても消費者にとっても良い側面が多いこの”さやまかおり”。
シングルオリジン茶を探す中で出会うことも多い品種だと思うので、気になったからはぜひお試しください!
お茶の品種|おくみどり
日本で四番目に多く作られる緑茶向け品種である”おくみどり”。
今回は旨味の強いパワフルな味わいと、クセのないストレートな香りが人気のこの品種をご紹介します。
日本第4位のシェアを持つ優等生品種!
”やぶきた”、”ゆたかみどり”、”さえみどり”に次いで、日本で四番目に多く作られる緑茶用品種である”おくみどり”。私たちもこの品種を見かける機会は非常に多く、”おくみどり”を作っていない生産者の方が珍しいほどです。
何故ならば、この品種は味・香り・作りやすさ等、あらゆる面でとにかく優秀で、生産者にも消費者にも非常に愛されている品種だからなんです。
それでは、”おくみどり”のどんな点が優秀なのか、一つずつ説明していきます。
”おくみどり”の特徴
優秀な晩生品種
“おくみどり”は、”やぶきた”と比べて摘採期が7日も遅い晩生品種です。遅い品種の中でも後半に摘まれるこの品種。一番茶は”おくみどり”を摘んで終える生産者も非常に多いほどです。
お茶の摘採時期は非常に短く、一番茶の時期などは、毎日新芽を摘んでもベストなタイミングに間に合わないこともあるほど。そんな多忙な生産者にとって、1週間も余裕を持って摘むことができるこの品種は、農作業の負荷を軽減する意味でも、非常に重宝される品種なんです。
ちなみに、「晩生(おくて)」と読む通り、”おくゆたか”、”おくはるか”など、名前に”おく”が付く品種は全て晩生品種です。
高い耐寒性で、全国的に育てやすい
“おくみどり”は高い耐寒性を持ち、日本中のほぼ全ての茶産地で育てることができます。
一部の病気や害虫には弱いため、農薬を使用するなど、その点に注意さえしていれば、日本中で作ることができる品種です。
以上のように全国的に育てやすく、貴重な晩生品種である”おくみどり”が、生産者に愛される理由がよく分かります。
それでは“おくみどり”の味わいはどうでしょうか。
”おくみどり”の味わい
濃厚な旨味とクセのない香り
“おくみどり”の一番の特徴は、その濃厚な旨味です。渋味や苦味が強くなく、アミノ酸(テアニン)の含有量が多いため、まろやかな味わいが魅力的です。
香りにはクセがなく、青葉のすっきりとした香りがあります。火入れによって甘味を引き出し、火香を加えることで、パンチのある力強い味わいの煎茶に仕上げることも。
全体的にクセがないため、”やぶきた”との相性が良く、シングルオリジンでも合組でも重宝されるお茶の一つです。
濃緑の美しい水色
水色の美しさも“おくみどり”の特徴の一つ。被せや深蒸しにすることでその美しさはさらに際立ち、煎茶として抜群に美しい色味のお茶に仕上がります。
色味が重視される茶市場において、高い評価を受けやすい品種なんです。
以上のように、日本各地で作られ、作り手の個性や実力によって様々な味わいを見せてくれる“おくみどり”。
本当に多くの生産者が作っている品種なので、産地や生産者によって飲み比べをしてみるのもおすすめです。
日本のお茶の産地
世界の中で、第10位のお茶の生産量を誇る日本。生産量自体はそこまで大きくはないものの、日本の緑茶は世界中に愛好家がおり、「日本茶」のブランド力は世界に健在です。
国内の各所には、「お茶の名産地」と呼ばれる場所が多々あります。ここでは、都道府県のお茶の生産量や、それぞれの産地の特徴などをご紹介します。
日本のお茶の産地
日本には、静岡県をはじめとするお茶の名産地が多々あります。
ここでは日本全体のお茶の生産量や、都道府県別の生産量などを見ていきましょう。
日本のお茶の生産量
2020年、天候の影響で一番茶の生産量が伸び悩んだり、新型コロナウイルスの影響で二番茶の生産が行われない地域が多かったりと、荒茶生産量が激減しました。
新茶関連のイベントが中止になったり、茶市場での価格の下落が原因で二番茶を作っても赤字になってしまう生産者が多かったりと、新型コロナウイルスが茶業に与えた影響は計り知れません。
都道府県別の生産量
2020年現在、日本では41の都府県でお茶が作られています。
ただし、お茶は寒冷地では育ちにくい農作物なので、新潟県や茨城県より北の地域では商用での栽培はほとんどされていません。
中でも最も生産量が多いのは静岡県と鹿児島県で、それぞれ日本全国の生産量の約36%、34%を占めています。
長年生産量トップを誇っていた静岡県ですが、近年は鹿児島県がその生産量を大きく伸ばしており、2021年にはその順位は逆転するのではないかとも言われています。
ちなみに、2020年の茶の産出額では鹿児島県が静岡県を初めて上回り、鹿児島県の茶業がいかに成長しているかがよくわかります。
3位以降には、三重県、宮崎県、京都府、福岡県が続きます。
都道府県別の作付け面積
2020年現在、都道府県別の作付け面積が最も大きいのは静岡県。
15,200ヘクタールもの土地でお茶が作られており、2位以降を大きく引き離しています。
2位以降は鹿児島、三重、京都、福岡がランクインするなど、基本的に生産量と作付け面積は相関しています。
鹿児島県の生産量が作付け面積に対して非常に大きいのは、その温暖な気候から二番茶・三番茶・秋冬番茶など、お茶が作れるシーズンが長いためです。
都道府県ごとの特徴
静岡県
静岡県は、上述した通りお茶の生産量・作付け面積が共に日本一の都道府県。
牧之原大地や愛鷹山、天竜川流域の山間部など、良質なお茶づくりに適した土地が多々あるのが特徴です。
ただし、茶業の経営の悪化や、後継者不足などの問題が起こってきているのもまた事実です。現在では、そのような状況を打開すべく、お茶を利用して観光客を呼び込む「グリーンツーリズム」などを展開しています。
鹿児島県
鹿児島県は、日本第2位のお茶の生産量を誇るお茶どころです。
南九州市や志布志市で行われる、温暖な気候と広大な平野部を利用し、後発地域としてのメリットを最大限享受した効率的なお茶作りが特徴的です。
それ以外にも、霧島市などの昼と夜の寒暖差が大きい山岳地帯の特性を生かした香り高いお茶など、県内のあらゆる地域で多様な味わいのお茶づくりを行なっています。
三重県
三重県で栽培されるお茶は「伊勢茶」とも呼ばれ、およそ1,000年もの長い歴史を持っています。
江戸末期から明治初期にかけて、お茶の輸出によって外貨を得るという重要な役割を担っていた地域でもありました。
現代では、茶園に覆いを被せて栽培する「かぶせ茶」の生産量が日本第1位の地域です。
宮崎県
宮崎県は、江戸時代からお茶の名産地として知られていた地域です。現在では日向市、都城市など、広大な土地を活かしたお茶作りが行われています。
また、五ヶ瀬や高千穂には山間部に作られた畑が多く、寒暖差を利用して作られる香り高いお茶が作られています。通常の煎茶とは違い、殺青を蒸しではなく釜炒りで行う「釜炒り茶」の製造が盛んな地域でもあります。
山間部の寒さにも耐えうる「きらり31」という品種のお茶の育成や、新型の製茶機の共同開発など、茶業の支援に積極的に取り組んでいます。
京都府
伝統的なお茶の産地として知られている京都府ですが、その基盤を作ったのは室町時代の3代将軍、足利義満。宇治茶のあまりの美味しさに惹かれた彼は、「宇治七名園」というお茶の名産地を切りひらいたと言います。
また、品質を重視する宇治茶の製法は現代の機械製茶にも受け継がれており、手揉みの工程をベースとして製造されているのが特徴です。
福岡県
福岡県のお茶は甘くて深みのある味わいが特徴的です。
八女で作られるの伝統本玉露は昔ながらの稲わらを使用して栽培されており、全国茶品評会で10年連続農林水産大臣賞を受賞している実績があります。
奈良県
奈良県は、「大和茶」というお茶の生産地です。大和茶は806年に始まったと言われており、およそ1,200年もの間受け継がれてきたことになります。
月ヶ瀬など、山間部に作られた畑が多く、厳しい寒さの中で作られる自然で優しい味わいのお茶が特徴的です。またその寒さから、国内でも最も一番茶の摘採が遅い地域の一つでもあります。
元々は煎茶やかぶせ茶、番茶などの生産が主でしたが、近年では抹茶の原料である「碾茶(てんちゃ)」の生産も行なっています。
佐賀県
佐賀県はお茶の名産地「嬉野」を擁する都道府県で、全国第8位の生産量を誇っています。
嬉野茶は、茶葉の香りや旨味が強いのが特徴のお茶。また、宮崎同様古くから釜炒り茶の製造が続いている地域でもあります。
幕末には輸出品として大量にイギリスに輸出されていた歴史があります。
埼玉県
埼玉県の狭山茶は、静岡茶・宇治茶と並んで日本三大銘茶に数えられる銘茶。
緑茶を栽培している中では北限に近い地域で、寒い冬を乗り越えることで力強く濃厚な味わいに仕上がることが特徴です。
寒冷な環境が原因で年2回しか収穫できないものの、品質や貯蔵性が非常に優れているのが魅力です。
岐阜県
岐阜県は、「美濃茶」と呼ばれるお茶の産地です。
3,000m級の山々を多く擁する恵まれた環境で、豊かな香りや味を持つお茶を栽培しているのが特徴です。
現代では、西美濃地域の「美濃いび茶」、美濃中央地域の「美濃白川茶」が二大銘柄として販売されています。
日本のお茶の産地|埼玉県
埼玉県のお茶の生産量は国内生産量の約1%ほど。決して生産量の多い都道府県ではありませんが、埼玉県で作られる「狭山茶」は、「静岡茶」「宇治茶」と並ぶ日本三大茶に数えられており、日本有数の銘茶の産地として知られています。
埼玉県のお茶、狭山茶の特徴
埼玉県、特に狭山は、私たちから見ても少し変わった茶産地です。
今回はそんな狭山茶の特徴を、毎年日本全国数十件の生産者とお会いする私たちの目線からご紹介します。
「味」の狭山茶
古くから歌われる歌に、「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という一説があります。
日本三大銘茶の静岡茶、宇治茶、狭山茶の特徴を表した歌で、ここで歌われる通り、狭山茶はその味わいが素晴らしいお茶です。
その理由は土質と寒冷な気候。
関東ローム層の水はけの悪い土が堆積した狭山エリアでは葉肉が厚く育つため、他地域のように、針のようにピンと伸びた美しいお茶は作りづらいというデメリットがあります。
ですが裏を返せば、葉肉が厚い分栄養もしっかりと蓄えられており、二煎目三煎目まで出してもしっかりと味が残るのが、狭山茶の特徴です。
土質から生まれる力強い味わいは、古くから評価されてきた狭山茶の1番の特徴なのです。
自製自園自販の生産者が多い
狭山の生産者は、自分たちで作った茶葉を自分たちで仕上げ、自分たちで販売までを行う、自製自園自販の生産者が多いのが特徴的です。
都心部に近い狭山では、茶園の面積が大きく取れないため小規模な生産者が多く、生産者一戸あたりの栽培面積は主要産地中で最も小さくなっています。そのため、店舗やネットショップを構えて自社で販売を行ったり、地元の直売所や商業施設で販売するなど、自身で販売までを完結する生産者が多いことが特徴です。
そして、自身で販売をするということは、茶商や茶市場のしがらみがなく、消費者のニーズを直接窺いながら自由なお茶作りができるということでもあります。
紅茶や烏龍茶を作る生産者もいれば、通常の煎茶の工程にはない「萎凋」を行い、香りを引き出した煎茶を作る生産者もいて、それぞれの個性を活かしたお茶が作られる地域なのです。
狭山茶の真髄、狭山火入れ
狭山茶について度々耳にするのは「狭山火入れ」という言葉。これは狭山茶に伝わる伝統的な火入れの技術のことで、狭山茶の味わいと香りはこの技法によって作られていました。
まだ火入れ機がなかった時代、火入れは「焙炉」でという機械を使い、手作業行われていました。通常は焙炉に山盛りにしたお茶を、天地返しにしながら火入れ(乾燥)をさせますが、葉肉が厚い狭山のお茶は乾燥がしづらいというデメリットがあります。そこで、焙炉にお茶を擦り付けなら、お茶の表面に傷をつけることで、水分が出やすいように火入れを行うのです。
そうして生まれたお茶は表面が白っぽくなり、しっかりと水分が抜けているため、長期輸送でも品質が変わらず、海外での評価も高かったそうです。
火入れ機を使うことが一般的な現在では、「火入れが強い」ことが狭山火入れだとも言われており、時代とともに言葉の意味合いも転じてきています。
埼玉県のお茶づくりの歴史
埼玉県のお茶づくりは比較的後発で、鎌倉時代、川越に明恵上人がお茶の木を植えたことがきっかけで始まったといわれています。
南北朝時代には、埼玉県のお茶は「河越茶」として親しまれており、この頃から東国のお茶の産地として知られていました。
埼玉県で本格的にお茶の栽培が行われるようになったのは、江戸時代後期。
入間市宮寺の吉川温恭、村野盛政が京都・宇治の製法を取り入れて、蒸製煎茶の量産に成功しました。次第に県の特産物としてお茶の栽培が盛んになり、栽培地域も広がっていきました。
明治時代には、輸出のために河越茶は「狭山茶」というブランドに統合され、現在も埼玉県を代表する農作物となりました。
埼玉県のお茶の産地
埼玉県のお茶の栽培地域は県全体に点在していますが、主な栽培地域は入間市周辺の狭山茶の栽培エリアです。
味でとどめさす日本三大銘茶「狭山茶」
埼玉県西部にある狭山市、入間市、所沢市を中心に作られているお茶が「狭山茶」です。
狭山茶という名称ではありますが、狭山市より入間市での栽培が盛んで、これは入間市の雨がおおく、水はけの良い立地がお茶の栽培に適しているためです。
「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という茶摘み歌もあるほど、その深い味わいが評価されています。