新茶・一番茶・二番茶って?
日本茶の品種|ゆたかみどり
この記事では、日本で二番目に作付面積が多い品種”ゆたかみどり”についてご紹介します。
日本で2番目に多く作られる早生品種”ゆたかみどり”
2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの6.5%を占める”ゆたかみどり”は、”やぶきた”に次いで2番目に多く作られている品種です。
穀物やハーブ例えられる独特の香りを持ち、強い渋味と旨味を持ち合わせる緑茶用品種”ゆたかみどり”とは、どんな品種なのでしょう。
“ゆたかみどり”の特徴
“ゆたかみどり”には以下のような特徴があります。
産地は主に鹿児島県、耐病性はあるが寒さに弱い
ゆたかみどりは日本全国の生産量の内、6.5%にしかすぎないのにも関わらず、鹿児島県内では30%近くを占める、大変人気が高い品種です。南国で栽培されることが多く、鹿児島県以外だと宮崎県でもよく栽培されています。
その理由はその耐病性と耐寒性。
“ゆたかみどり”は、カビによる病気「炭そ病」に強いなどの耐病性はあるものの、霜の被害を受けやすく寒さにも弱いため、主に九州の暖かい地域で栽培されています。
繁殖力が強い上に収穫量が多いので、温暖で霜が降りにくい地域の生産者にとっては収入につながりやい品種です。
「被せ深蒸し」に適した品種
“ゆたかみどり”は1966年、鹿児島県の奨励品種に登録されました。
強い旨味を持ちながら、同時に渋味も強いという特徴を持つ”ゆたかみどり”ですが、被覆栽培で「カテキン(渋味成分)」の生成を抑えながら濃厚な旨味を乗せ、「深蒸し」にすることで渋味を抑えてマイルドなコクのある味わいを作り出すのにぴったりな品種だったのです。
今でこそ「美味しい」と評判の鹿児島県のお茶ですが、実は昔「鹿児島のお茶は安かろう、まずかろう」と悪評が立っていた時代がありました。そのイメージを覆し、鹿児島県をお茶の名産地にまで引っ張り上げたのが”ゆたかみどり”だといわれています。
摘採期が早い早生品種
摘採期が早い早生品種で、”やぶきた”より5〜7日以上早く収穫します。
“やぶきた”は立春から数えて八十八夜で新茶を摘みますが、ゆたかみどりは七十七夜で摘むため、他地域・他品種と比べて一足早く全国に流通させることができます。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
日本の南端、温暖な気候と長い日照時間に恵まれた鹿児島県の新茶は、その早さで値が決まるという側面もあります。そのため鹿児島県では、”ゆたかみどり”を始めとし、”さえみどり”や”あさつゆ”などの早生品種の栽培が盛んです。
特に毎年最も早く市場に出回る新茶は「走り新茶」とも呼ばれ、他のお茶よりも一足早く市場を賑わします。
“ゆたかみどり”の味わい
「被せ深蒸し」の旨味と香り
前述の通り”ゆたかみどり”は、強い旨味と渋味を持ち、ハーブや穀物に例えられる独特の香りがあります。この”ゆたかみどり”ですが、そのほとんどが「被せ深蒸し」で作られています。
鹿児島県をはじめ、”ゆたかみどり”を栽培している南の地域は日照時間が長いため、苦味や渋味が強くなる傾向にあります。それを防ぐために、被覆栽培で苦渋味を抑えながら、旨味をより強く育てているのです。
また、被覆栽培を行うことで「覆い香」が付加され、”ゆたかみどり”の独特な香気がマスキングされ、爽やかな香りを作り上げることもできます。
また、煎茶の製造工程である「蒸熱」の時間を長く、深蒸しにすることによっても渋味が抑えられ、濃くまろやかな味わいになります。
バランスの良い渋味と甘味、コクがある深い味わい、美しい水色が魅力的な品種です。
日本茶の品種|やぶきた
“やぶきた”という名称を聞いたことがないあなたでも、知らないうちに必ず飲んでいるお茶。それが日本一生産されている緑茶の品種、”やぶきた”です。
ここでは日本で最もメジャーなお茶の品種、”やぶきた”をご紹介します。
“やぶきた”は緑茶のスタンダード
日本で登録がされているお茶の品種は、2019年時点で119品種。その中でも国内で作られる緑茶の75%以上は”やぶきた”です。(2020年現在)
“やぶきた”の発祥地であり、日本全国に広まるきっかけとなった静岡県ではそのシェアはさらに大きく、90%にものぼります。
もちろん同じ品種でも栽培する土地、育て方、加工法などで多少味が変わるので、「同じ品種=全く同じ味」というわけではありません。
“やぶきた”の特徴
ここまで”やぶきた”が日本中で栽培されるようになった理由は、数々の優れた特徴にあります。
煎茶、碾茶、玉露。あらゆる茶種に適した「品質の高さ」
“やぶきた”は非常に品質が高いことが何よりの特徴です。
肥料や被覆栽培で旨味が乗りやすく、煎茶、碾茶(抹茶の原料茶)、玉露、釜炒り茶など、あらゆる茶種に適性がありました。特に煎茶としての品質は「極めて優れている」と評価されています。
クセがなく青青しいフレッシュな香りを持ち、味は旨味・渋味・苦味のバランスが良く、万人に好かれる味わいです。
強い耐寒性からくる「育てやすさ」
煎茶としての品質に優れた”やぶきた”ですが、非常に育てやすい品種でもあります。
広域適応性品種なので地域を選ばず全国どこでも栽培することができ、南は沖縄から北は新潟まで、日本のあらゆる地域で栽培されています。
お茶は一番茶萌芽後の寒さや霜害に最も警戒しなければならないほか、寒さの厳しい地域では冬季に枯れてしまうこともありますが、”やぶきた”は寒さにも強く、寒さで葉の色が変わったり、枯れたりする凍害を受けにくいのも強みです。
病気や虫害に弱いという特徴はありますが、農薬や畑を作る場所によって克服できるため、日本全国どこでも安定して作れる品種なのです。
安定した品質
今でこそお茶は挿し木で育てるのが普通になっていますが、昔は種を植えて1から育てていました。これを「実生」といいます。
実生の茶樹は育て方などによって品質にばらつきが出てしまい、茶農家が頭を抱えていたところに登場したのが、安定して高品質のお茶が育つ”やぶきた”でした。
お茶は収穫まで3〜10年、植え替えは30〜50年に1度程度とされています。
作物として非常に長いリードタイムを要するお茶の場合、品種選びは茶園の運命を左右する大事な作業。そんな折、安定して高品質なお茶が採れる”やぶきた”に人気が集まったのは必然ともいえます。
生産者の収入に直結する「収量の多さ」
“やぶきた”はもともと収量が多い品種なうえ、凍霜害を受けにくい時期に萌芽するため、他の品種に比べ、安定して多くの収量を望むことができます。
育てやすく、品質も高くて、たくさん収穫できる。それがやぶきたの特徴であり、ここまで日本中に広まった理由です。
品質や収量が安定する分、茶商も仕入れがしやすく、買い手にも困らないことから、1970年代に爆発的に普及し、現在においても不動のトップシェアを誇る、緑茶の超王道品種なのです。
やぶきたの歴史
やぶきたの歴史は1908年(明治41年)に静岡で発見されたことで始まります。
やぶきたとやぶみなみ
当時お茶の研究家だった杉山彦三郎(1857年〜1941年)は、静岡県静岡市で竹やぶを開拓して茶園を作り、お茶に関する様々な研究を進めていました。
ある時、その茶園で優良な茶の木、2本が選抜されました。
選ばれた2本のうち、竹やぶの北側に植えられていた茶の木が「やぶきた」と名付けられ、竹やぶの南側に植えられていた茶の木は「やぶみなみ」と名付けられました。
観察と実験を続けた結果、”やぶみなみ”よりも優良だった”やぶきた”一本に絞り、そこから品種改良を重ねて出来たのが、”やぶきた”です。
一気に広がった昭和時代
何年もの研究の末に生まれた“やぶきた”ですが、実はこの品種、誕生後すぐに高い評価を得られたわけではありませんでした。
茶畑の改植はお金も時間もかかる作業ですし、”やぶきた”が誕生した当時、また「お茶の品種」という考え方は非常に新しく、先祖代々の畑で変わらずお茶を作る生産者が多かったのです。
杉山彦三郎の死後10年以上が経った戦後にやっと高い評価がつきはじめ、1945年に静岡県の奨励品種に指定されたり、1953年に農林水産省の登録品種になったりしたことで、一気に全国に広まり、972年には品種茶園の88%がやぶきたとなりました。
現在は静岡の天然記念物に
100年以上前に発見され、緑茶の歴史を作ったやぶきたの母樹は実は今も存在し、元気に青々とした葉をつけています。
静岡県の天然記念物に指定されたやぶきたの母樹は樹齢110年を超える老木となり、現在は地元の人やお茶好きの観光客などがこの母樹を見に集まっています。