日本で最も早い新茶は、3月下旬に鹿児島から届きます。静岡の茶園がまだ数週間先の収穫を待つ中で、すでに市場に出回ります。その差は偶然ではなく、品種選択の結果です。早生品種(わせ)と晩生品種(おくて・ばんせい)を組み合わせることで、農家は摘採時期を10日以上に広げ、すべての新芽を最良のタイミングで摘み取れます。
早生・晩生という品種の性質を理解すると、日本茶がどのように畑から湯のみに届くか、そして産地ごとに異なる価格帯の背景が見えてきます。
摘採期が品種によって変わる理由
茶の新芽は摘採適期が非常に短いです。一日でも遅れると、葉が固くなり始め、風味が落ちます。一つの品種だけを栽培する農家は、収穫適期に作業が追いつかないか、品質に妥協するかという選択を迫られます。
解決策は品種の多様化です。早生・中生(やぶきたなどの標準品種)・晩生を組み合わせることで、一番茶の収穫を10日以上に分散できます。すべての新芽を最良の状態で摘み取れ、労力と農機具を効率的に使えます。経営の安定と品質向上の両立につながります。
摘採時期の早晩は、基準品種「やぶきた」との比較で表されます。「早生」はやぶきたより早く芽吹く品種、「晩生」は遅く芽吹く品種です。最も早い品種から最も遅い品種まで、同じ産地でも約3週間の差があります。鹿児島など温暖な地域と、静岡や奈良の標高の高い山間部を比べると、全国の収穫開始から終了までの期間は3月下旬から5月下旬まで広がります。
代表的な早生品種
早生品種は、やぶきたと同じ条件でより早く萌芽するよう育てられた品種です。鹿児島が早生品種を多く栽培する背景には、温暖な冬と早い春の気温上昇、そして「走り新茶(最も早く市場に出る茶)」の文化・経済的な価値があります。
| 品種名 | やぶきたとの比較 | 特徴的な風味 | 主産地 |
|---|---|---|---|
| くりたわせ | 極早生(特に早い) | キレのある苦味・フレッシュな甘味 | 種子島(鹿児島) |
| つゆひかり | 約2日早生 | 明るい緑色の葉・渋味の中に旨味と甘味が光る | 静岡 |
| さやまかおり | 0〜2日早生 | 濃厚な香り・カテキンが多く比較的渋め | 静岡・埼玉・三重 |
| ゆたかみどり | 早生 | 収量が多く・苦味が少なく甘さとコクが深い | 鹿児島(主要) |
| さえみどり | 早生 | やぶきた×あさつゆ。上品な甘味と旨味 | 鹿児島・全国各地 |
ゆたかみどりは、日本で2番目に作付面積が大きい品種です。鹿児島での栽培が多い理由は、走り新茶としての市場価値と直結しています。他産地の2〜3週間前に市場に出せるお茶には通常より高い市場価格がつく傾向があり、ゆたかみどりの早い摘採時期と安定した収量はその条件に合っています。
さえみどりは、育てやすく味のバランスが良い「やぶきた」と、甘味と旨味の強い「あさつゆ(天然玉露とも呼ばれる)」を掛け合わせた品種。やぶきたの扱いやすさにあさつゆのアミノ酸が豊富な性質が加わり、丁寧に栽培・製造されたときに上品で甘味のある一杯になります。
代表的な晩生品種
晩生品種は収穫時期を遅らせます。その価値は、一つは作業段取りの理由(早い収穫の加工が終わってから次の収穫に移れる)、もう一つは栽培上の理由でもあります。一部の晩生品種は、早生品種が育たない寒冷な高標高地でも生育できます。
| 品種名 | やぶきたとの比較 | 特徴的な風味 | 主産地 |
|---|---|---|---|
| かなやみどり | 約4日晩生 | ミルクのような独特の甘い香り | 鹿児島・静岡 |
| はるみどり | 約6日晩生 | かなやみどり由来・煎茶としての品質が極めて高い | 一部産地 |
| おくひかり | 晩生 | 山間部など寒い地域でも栽培可能・香り強く味がはっきり | 山間産地 |
| おくみどり | 晩生 | 自然な甘さ・マイルドな口当たり・爽やかな後味 | 鹿児島・三重・京都・静岡 |
| べにふうき | 晩生 | メチル化カテキンが多い・緑茶と和紅茶の両方に使われる | 全国各地 |
おくみどりは国内で広く栽培されている品種で、煎茶・抹茶原料(碾茶)・遮光栽培にも使われます。かなやみどりはブラインドテイスティングでも識別できる独自のミルク香が特徴です。
べにふうきは1993年品種登録と比較的歴史が浅いですが、メチル化カテキンの多さから、アレルギー症状の緩和に関する研究が進んでいます。和紅茶(国産紅茶)としても広く栽培されており、晩生の摘採時期と葉の成分が酸化加工に適しています。
摘採時期と風味——湯のみに広がる味わい
品種の摘採時期は、最終的な風味に深く影響を与えます。早生品種は、春の日照が最も強くなる前に収穫されるため、カテキンがやや少ない傾向があります。晩生品種は初夏の強い日差しの下で成熟するため、カテキンが蓄積されやすくなります。
ただし品種固有の特性による影響も大きいです。さえみどりが甘いのは早生だからというだけでなく、あさつゆの血統によります。べにふうきの渋味は遅い収穫だけでなく、品種固有のカテキンの含有バランスによるものです。品種を理解するには、摘採時期と品種そのものの特性を分けて考えることが大切です。
収穫時期と茶の品質の関係については、一番茶と二番茶の記事で成分と風味の違いをご紹介しています。
よくある質問
なぜ鹿児島には早生品種が多いのですか?
鹿児島の温暖な冬と早い春の気温上昇が、他産地より早い萌芽を可能にしています。加えて「走り新茶」の文化的・経済的な価値——一年で最も早く市場に出るお茶として高値がつきやすい——が早生品種の栽培を後押しします。ゆたかみどりとさえみどりが鹿児島の茶園に多い背景には、最も早く、安定して収穫できるという産地ならではの経済的な背景があります。
早生品種と晩生品種では味が違いますか?
摘採時期はいくつかある要因のひとつです。早生品種は夏の強い日差しが来る前に成熟するため、やや繊細で甘味が強い傾向があります。晩生品種は渋味が増しやすい傾向がありますが、品種ごとの個性は大きく、かなやみどりのミルク香とおくみどりの穏やかな甘味はどちらも晩生ながら全く異なる個性を持ちます。品種の遺伝と摘採時期を切り離して考えると、正確に判断できます。
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