Far East Tea Company 編集チーム 約 8 分
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湯のみに顔を近づけると、まず磯の香りが立ち上がります。海苔や枝豆を思わせる、落ち着いた深みのある香り。口に含むと渋味はほとんどなく、代わりに旨味が広がります。これが玉露の一煎目の体験で、初めて飲む方の多くが「お茶でこんな味がするとは思わなかった」と口にされます。

玉露は日本茶の中でもっとも格の高い煎茶系の茶。栽培から収穫まで、ひとつの判断がすべての風味を決定づけます――それが「20日以上の被覆」です。光を遮ることでテアニン(旨味の源泉)が葉に保存され、渋味の原因となるカテキンへの変換が抑えられる。その結果生まれる甘さと旨味の豊かさが、玉露を他のどの日本茶とも異なる存在にしています。

玉露とは — 20日以上の被覆が生む最高級茶

玉露は、収穫前に20日以上にわたって日光を遮断する「被覆栽培」で育てた日本茶です。農林水産省の定義では、収穫の20日以上前から茶園に覆いをかけ、日光を遮ることが玉露の必要条件とされています。

同じ「緑茶」でも、煎茶は露地栽培(被覆なし)、かぶせ茶は7〜14日の短期被覆。玉露の20日以上という期間は、茶葉の化学組成を大きく変えるのに十分な時間です。光合成が抑制されると、葉はより多くのクロロフィルを合成しようとする一方、通常ならカテキンへと変わるテアニンがそのまま蓄積されていきます。この蓄積こそが、玉露独特の旨味の正体です。

生産量は日本全体の茶生産量のわずか0.2〜0.3%程度(農林水産省作物統計)。その希少性と手間のかかる栽培が、煎茶の数倍から数十倍という価格を支えています。

玉露の製法 — 被覆がテアニンを守る理由

被覆によって光合成が制限されると、テアニンのカテキンへの変換が遅れ、葉に旨味成分が蓄積します。これが玉露の製法の核心です。被覆の方法は大きく2種類あります。「棚掛け(たながけ)」は茶園の上に木や支柱で棚を組み、葦簀(よしず)や遮光布を張る方式。「直掛け(じかがけ)」は茶樹に直接布をかける方式で、かぶせ茶にも使われます。玉露では棚掛けが伝統的で、光の均一な遮断と適度な通気性を確保できるとされています。

被覆期間中、葉の内側では光合成が制限されることで、アミノ酸(特にテアニン)からカテキンへの変換が緩やかになります。カテキンは渋味の主原因。つまり被覆は、渋味を減らしながら旨味を増やすという二重の効果を生み出しているのです。被覆栽培のメカニズムについては、被覆栽培の科学でさらに詳しく解説しています。

収穫後の製造工程は、基本的に煎茶と同じです。蒸し(酸化を止める)、揉み(水分を飛ばしながら針状に成形)、乾燥という流れ。詳細な製造工程は不発酵茶の製造工程をご覧ください。玉露の真価は収穫前の被覆にあり、収穫後の工程は煎茶とほぼ変わりません。

玉露の種類と産地 — 宇治・八女・岡部

玉露の産地は限られています。宇治(京都)、八女(福岡)、岡部(静岡)の三地域が国内生産の大半を占めており、それぞれに特徴があります。

産地 特徴 備考
宇治(京都府) 上品でバランスのとれた旨味。わずかに花のような香り 被覆栽培発祥の地とされる。「宇治玉露」は最高級茶の代名詞
八女(福岡県) 濃厚でどっしりとした旨味。自然の霧が光を和らげる 全国茶品評会の玉露部門で連続受賞歴を誇る高評価産地
岡部(静岡県) 丸みのある旨味。磯の風味よりも甘さが前に出る 玉露の入門として手に取りやすい価格帯

八女は際立った産地です。山間部に朝霧が立ちやすいため、被覆前から自然に光が和らぎます。地元の生産者はこれを「自然玉露」と呼び、人工的な棚掛けに頼らずとも高品質な茶が育つ環境が整っています。宇治は歴史的な権威と品種の豊富さで知られ、岡部は比較的手が届きやすい価格帯で質の高い玉露が揃っています。

品種も風味を左右します。玉露に多用されるのは、ごこう、奥みどり、さえみどりなど、被覆下でのテアニン蓄積に優れた品種。国内茶の約75%を占めるやぶきたも使われますが、上記の品種と比べると旨味の深みで一歩譲ります。

玉露の味わい — 旨味を最大限に引き出す条件

玉露の核心は、テアニン由来の旨味です。海苔、枝豆、昆布だし——これらはすべて玉露の味を説明するときに使われる言葉で、いずれも「旨味」という感覚を別の角度から表現しています。渋味はごく少なく、苦味もほぼ感じません。代わりにコクのある甘さが舌の上に留まります。

この旨味を引き出す鍵は温度です。50〜60℃という低温で抽出すると、テアニンが支配的になり、甘くまろやかな一杯になります。同じ茶葉を80℃で淹れると、カテキン由来の渋味が前に出て、玉露の良さが半減します。被覆栽培で苦労して残したテアニンを、高温で台無しにしてしまうことになるからです。

香りも温度に敏感です。低温で淹れると、被覆由来の「覆い香(おおいか)」——草、潮風、わずかな甘味——がゆっくり立ち上がります。高温では揮発してしまい、この繊細な香りを楽しむことができません。

二煎目以降も楽しめるのが良質な玉露の特徴です。一煎目は旨味中心、二煎目はやや渋味とさっぱり感が出て、三煎目はより透明感のある味わいになります。

玉露のカフェインと栄養

玉露は日本茶の中でもっともカフェインが多い茶のひとつです。100mLあたりのカフェイン量は抽出条件によって大きく変わりますが、通常の淹れ方で約160mgとされています(文部科学省の食品成分データベースより)。ただし、玉露は少量(60〜70mL)を濃く淹れるスタイルなので、一回の飲用量としては煎茶と大きく変わらないこともあります。

カフェインについての詳細はカフェインの記事をご覧ください。テアニンとカフェインの関係についてはテアニンの記事でも解説しています。

テアニンはカフェインと拮抗する働きを持ち、覚醒作用を和らげながら集中力を高める効果があるとされています。玉露のテアニン含有量は煎茶の3倍以上とも言われており、カフェインが多いにもかかわらず「飲んでも落ち着く」と感じる方が多いのはこのためかもしれません。

おいしい玉露の淹れ方

低温・多め茶葉・少量・ゆっくり。これが玉露を淹れる四つの原則です。

パラメータ 玉露 煎茶(比較)
お湯の温度 50〜60℃ 70〜80℃
茶葉の量 5〜6g(60〜70mLに対して) 3g(200mLに対して)
抽出時間(一煎目) 90〜120秒 60〜90秒
サービング量 小さめ(60〜70mL) 標準(180〜200mL)

お湯の温度調整は、別の容器に2〜3回移し替えることで行えます。1回の移し替えでおよそ10℃下がるので、沸騰したお湯なら2〜3回の移し替えで50〜60℃に近づきます。

より詳しい淹れ方は玉露の淹れ方ガイドをご参照ください。温度と抽出の関係についてはお茶と温度の記事でも詳しく解説しています。

玉露の選び方 — 価格の違いは何で決まるか

玉露の価格を決める要因は主に三つあります。被覆方法、収穫グレード、品種です。

被覆方法。棚掛け(棚を使った被覆)は直掛けより手間とコストがかかりますが、光の均一な遮断と通気性の確保において優れているとされています。「本玉露」と呼ばれる最高級品は、多くが棚掛けで栽培されています。

収穫グレード。一番茶(春の一番摘み)の手摘み品が最高評価を受けます。手摘みは機械摘みと比べてはるかにコストがかかり、一部の生産者は年に一度しか収穫しません。二番茶以降の玉露も存在しますが、テアニン含有量や香りの複雑さで一番茶に劣ります。

品種。ごこうや奥みどりなど、玉露適性の高い品種を使ったものは価格が上がる傾向にあります。やぶきたを使った玉露でも十分においしいものは多いですが、最高品質の玉露には多くの場合、玉露向け品種が使われています。

私たちが扱う玉露コレクションは、八女の信頼できる生産者から直接仕入れたシングルオリジンのものを中心に揃えています。産地と収穫情報を明記してありますので、選ぶ際の参考にしてください。玉露が日本茶全体の中でどのような位置づけにあるかは、緑茶の種類一覧お茶の種類と違いもあわせてご覧ください。

よくある質問

玉露は煎茶やかぶせ茶と何が違うのですか?

玉露は収穫前20日以上の被覆栽培で育ちます。煎茶は被覆なし、かぶせ茶は7〜14日程度なので、玉露はテアニンが残りやすく、渋味が少なく旨味が深くなります。

玉露の価格が高い理由は何ですか?

棚掛けなどの被覆に手間と費用がかかり、被覆した茶樹は収量も少なくなります。さらに上級品は一番茶の手摘みが中心で、生産量も日本茶全体の0.2〜0.3%ほどです。

玉露はどの温度と分量で淹れるとよいですか?

一煎目は50〜60℃のお湯60〜70mLに茶葉5〜6g、90〜120秒が目安です。80℃ではカテキン由来の渋味が前に出やすく、玉露らしい甘い旨味が弱まります。

玉露の味はどんな特徴がありますか?

海苔、枝豆、昆布だしのような旨味が中心で、苦味や渋味はごく少なめです。低温で淹れると覆い香がゆっくり立ち、甘くまろやかな余韻が残ります。感じ方は個人差ありです。

玉露を選ぶときは何を見ればよいですか?

産地、被覆方法、収穫グレード、品種を見ます。宇治は上品、八女は濃厚、岡部は丸みがあり、ごこう、奥みどり、さえみどりは被覆下でテアニンを蓄えやすい品種です。