注意:本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、医療アドバイスの代わりにはなりません。健康上の懸念がある場合は、医師または医療専門家にご相談ください。
ほうじ茶のタンニン(カテキン類を含むポリフェノール)は浸出液100mLあたり約40mgで、煎茶の約70mgより少なめです。
煎茶や玉露に豊富な「カテキン」(渋味や苦味のもとになる成分)は、焙煎の熱で変性し大きく減ります。焙煎で変わるのは、渋味と香りのバランス。その代わり、焙煎の化学反応が新しい成分を生み出します。炒った穀物のような香ばしさを運ぶ「ピラジン」、メイラード反応で生じる褐色生成物の総称「メラノイジン」。ほうじ茶の個性は、引き算と足し算の両方でできています。
カフェイン、カテキン、タンニン、テアニン、ピラジン、メラノイジン、ビタミン——ほうじ茶の主要成分について、煎茶との比較を交えながら解説します。表のうち、カフェイン、タンニン(カテキン類を含むポリフェノール)、ビタミンCの数値は文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)の浸出液データに基づいています。ピラジンは焙煎で生成する香気成分ですが、同成分表には収載されておらず、ここでは煎茶との含有量を比較していません。本文で扱うメラノイジンも同成分表には収載されていません。MEXTの浸出条件は、ほうじ茶が茶葉15g、90℃の湯650mL、30秒、煎茶が茶葉10g、90℃の湯430mL、1分です。
ほうじ茶には浅煎りから深煎りまであり、香気成分の量は原料と具体的な焙煎条件で変わります。高知県茶業試験場の試験でも、深煎りほどピラジンが多いという一律の傾向は確認されていません。
| 成分 | ほうじ茶(100mLあたり) | 煎茶(100mLあたり) | 焙煎による変化 |
|---|---|---|---|
| カフェイン | 約20mg | 約20mg | 異なる浸出条件で同じ参考値 |
| タンニン(カテキン類を含むポリフェノール) | 約40mg | 約70mg | ほうじ茶のほうが低い(浸出条件も異なる) |
| ピラジン | 焙煎で生成 | 比較資料なし | メイラード反応で生成 |
| ビタミン C | 微量(Tr) | 約6mg | 浸出液の値。焙煎葉の残存率ではない |
焙煎がお茶の成分を変える仕組み
ほうじ茶は、煎茶や番茶を焙じることで作られます。1969年に発表された農林省茶業試験場の焙焼試験では、ほうじ機のドラム内壁温度160〜180℃で焙焼するのがよいようだったと報告されています。この加熱の過程で、茶葉の成分は大きく書き換えられます。
鍵になるのが「メイラード反応」(アミノ酸と糖が加熱されることで起こる化学反応)です。パンやコーヒーの焼き色と同じ仕組みで、褐色物質と香気成分が生まれます。同時に、カテキンをはじめとするポリフェノール類は熱で変性し、含有量が減少します。ほうじ茶浸出液のビタミンCは微量ですが、焙煎葉でほぼ全量が失われるという意味ではありません。
引き算と足し算。カテキンの組成が変わり、ピラジンの香ばしさも加わる。甘味をメラノイジンだけの作用と決めつけず、香味全体の変化として捉えます。この入れ替わりが、ほうじ茶の飲みやすさの正体です。
焙煎温度と時間は、成分の変化の程度を左右します。浅煎り(低温・短時間)は緑茶の風味をある程度残しつつカテキンを穏やかに変性させ、深煎り(高温・長時間)はよりカテキンを減らして香ばしさを強くします。市販のほうじ茶が商品によって色合いや味わいが異なるのは、この焙煎条件の違いによるものです。同じ茶葉でも、焙煎の設定次第でまったく異なる成分プロフィールになることをご理解いただくと、飲み比べがさらに楽しくなります。
製造の詳細はほうじ茶の製造工程で詳しく読めます。
なお、上の表の数値は「浸出液100mL」あたりの値です。実際に飲む際のカップ1杯(約150〜200mL)で計算すると、各成分量はこの1.5〜2倍になります。また茶葉の量、お湯の温度、浸出時間によっても数値は変動します。あくまで参考値としてご活用ください。
カテキンとタンニン — 煎茶との違い
文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)には、カテキン単独の値は載っていません。カテキン類はタンニン(ポリフェノール)の値にまとめて含まれているため、煎茶との量の違いはタンニンの数値で比べます。
「カテキン」は緑茶特有のポリフェノールで、EGCGをはじめとする複数の種類があります。渋味のもとになる成分ですが、焙煎の熱にさらされると変性します。変性したカテキンは活性が変わり、生茶葉のときとは異なる形で存在します。これがほうじ茶の渋味が穏やかな理由です。
「タンニン」はポリフェノールの一種で、お茶の渋味・収斂味に関わる成分の総称です。カテキン類もタンニンに含まれるため、ほうじ茶ではカテキンの減少とともにタンニン量も下がります。文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)では、浸出液100mLあたりのタンニンは煎茶が約70mg、ほうじ茶が約40mgです。ただし、両者は浸出条件(ほうじ茶は茶葉15g、90℃の湯650mL、30秒、煎茶は茶葉10g、90℃の湯430mL、1分)が異なるため、この数値差をそのまま焙煎だけの効果とは読めません。渋味の穏やかさは風味として感じるものですが、それだけで個々の成分量を判断することはできません。
ほうじ茶にはカテキンが残っていますが、成分の化学的な性質と、飲んだときの人への抗酸化作用は分けて考える必要があります。種類と量のバランスが異なる、というのが正確な理解です。焙煎による成分変化は確認されていますが、玄米茶や番茶との含有量の順位を示す比較資料はここではありません。
カテキンの詳細はカテキンの成分記事に整理しています。ほうじ茶全般の成分との比較は緑茶の成分記事も参考になります。
カフェインとテアニン
香ばしく穏やかな味わいでも、ほうじ茶が低カフェインということにはなりません。文部科学省の成分表では、ほうじ茶と煎茶はそれぞれ異なる浸出条件でカフェインが同じ値です。
文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)によると、ほうじ茶と煎茶の浸出液は、どちらも100mLあたり約20mgです。ただし両者の浸出条件は異なるため、この数値から焙煎の効果を判断することはできません。カフェインの昇華点は178℃で、1969年に発表された農林省茶業試験場の試験で焙焼に適しているようだとされた、ほうじ機のドラム内壁温度160〜180℃の上限はこれをわずかに超えます。ただし、この温度関係だけでは焙煎で実際にどれだけカフェインが失われるかは言えません。別の研究(Mizukami、Sawai、Yamaguchi、2008年)でも、予備的な官能試験で160℃・30分と180℃・15分のほうじ茶に好ましい風味が得られました。ただし、今回確認できた抄録には温度の測定対象が記載されていません。高温で抽出することの多いほうじ茶は、カフェインが溶け出しやすい面もあります。
「テアニン」はお茶に含まれるアミノ酸のひとつで、焙煎試験では加熱による減少が確認されています。アミノ酸はメイラード反応に関わりますが、すべてがメラノイジンへ直接変わるわけではありません。また、ほうじ茶の原料には番茶や二番茶が多く使われることもあり、もともとテアニン量が少ない傾向があります。旨味がある一方、煎茶のような強い甘味や旨味は出にくくなります。テアニンの働きについてはテアニンの成分記事に詳しくまとめています。
カフェインを抑えたい場合は、淹れ方の工夫が有効です。カフェインの抽出量は茶葉量、水温、浸出時間で変わりますが、ここで参照した研究は、ほうじ茶の特定の淹れ方による低減量を測ったものではありません。
カフェインについてはほうじ茶のカフェイン量を詳しくまとめた記事があります。カフェインの基礎知識やテアニンの働きも合わせると理解が深まります。
ピラジンとメラノイジン — 焙煎で生まれる成分
ほうじ茶が緑茶と最も違うのは、焙煎によって生まれる成分を持つことです。
「ピラジン」は焙煎の香ばしさの正体。アミノ酸と糖が高温で反応するメイラード反応で生成される香気成分で、コーヒーや炒った穀物にも含まれます。ほうじ茶に特有の炒り穀物のような香り、少しナッツに近い温かい匂いは、このピラジンが作っています。健康な成人20人が焙煎緑茶の香りを吸入した研究では、調べた3種類のピラジンのうち、2,3,5-トリメチルピラジンが香りに最も重要な成分と位置づけられました。研究結果は、香りの吸入が交感神経活動を抑え、副交感神経活動を高めることで、鎮静的に働く可能性を示唆しています。
「メラノイジン」は同じメイラード反応で生まれる褐色の物質。メラノイジンは褐色のメイラード反応生成物の総称です。私たちは一杯の水色や味わいを、この成分だけで説明しないようにしています。パンの焼き色やコーヒーの色と仕組みは同じです。
ほうじ茶ラテのような飲み方ではこの香ばしさが特に際立ちます。ピラジンとメラノイジンの量は焙煎の深さによって変わります。ただし、深煎りほど両成分が増えるとは一律に言えず、原料や具体的な焙煎条件を見て比べる必要があります。浅煎りでは淡い水色、深煎りでは濃い水色を感じることがありますが、色の違いをピラジンやメラノイジンだけの作用とは判断できません。香りを吸入した研究から、深煎りのほうじ茶ほどリラックスできるとは判断できません。ただし深煎りほど元の茶葉の風味は薄れていきます。
香気成分の詳細はお茶の香り成分の記事で読めます。
ほうじ茶の成分バランスについて
焙煎は、お茶の成分を「組み替える」加工です。カテキンの渋味を手放す代わりに、ピラジンの香ばしさを手に入れる。焙煎で変わる渋味と水色は、一杯の香味全体として捉えます。引き算と足し算が同時に起きています。
カフェインは煎茶と同程度ある一方、カテキンとタンニンが穏やかになり、ピラジンの香りがゆっくりとした時間を作ってくれます。飲みやすさは成分の引き算から、香ばしさは足し算から。この両方を知ると、ほうじ茶の一杯がもう少し深く感じられるかもしれません。
香ばしさがあるためミルクや砂糖を加えなくても飲み飽きません。成分の面から見ると、ほうじ茶は「焙煎による引き算で広がった選択肢」を持つ、ユニークなお茶といえるかもしれません。どの焙煎度合いのほうじ茶を選ぶかで、成分のバランスが変わることも覚えておくと選ぶ楽しさが増します。
ほうじ茶の原料となる番茶との違いも成分の観点から確認できます。玄米茶との比較はサポニンの成分記事も参考になります。ほうじ茶全般についてはほうじ茶とは?で整理しています。お気に入りの一杯を探す方はほうじ茶もご覧ください。
参考文献
本記事の数値は以下の一次資料に基づいています。
- 文部科学省 日本食品標準成分表(八訂) — ほうじ茶・煎茶浸出液のカフェインとタンニンに関する成分データです。
- Sugimoto, Tatsumi & Ichitani (2025), Functional Foods in Health and Disease — 健康な成人が焙煎緑茶の香りとピラジンを吸入した際の自律神経活動と気分を調べた研究です。
- Mizukami, Sawai & Yamaguchi (2008), Journal of Agricultural and Food Chemistry — 焙煎温度によるほうじ茶のカテキンと香気成分の変化を調べた研究です。
- 原利男・久保田悦郎「焙焼条件がほうじ茶の品質に及ぼす影響」日本食品工業学会誌16巻4号(1969) — ほうじ機のドラム内壁温度160〜180℃での焙焼がよいようだったとする報告。別のMizukami、Sawai、Yamaguchi(2008年)の研究でも、予備的な官能試験で160℃・30分と180℃・15分のほうじ茶に好ましい風味が得られました。
よくある質問
ほうじ茶は低カフェインですか?
そうとはいえません。標準的な食品成分値では、ほうじ茶のカフェインは100mLあたり約20mgで、飲み口が穏やかでも煎茶とほぼ同量です。穏やかな味わいは、カフェインが少ないしるしではありません。
ほうじ茶には焙煎後もカテキンが残っていますか?
ほうじ茶にもカテキンは残りますが、焙煎によって主要なカテキンが減少し、その組成も変わります。日本の食品成分表(MEXT)はカテキンを個別には示さず、より広くポリフェノールを捉えるタンニンの値に含めています。浸出液100mLあたりのタンニンは、ほうじ茶が約40mg、煎茶が約70mgです。ただし、この数値の浸出条件は異なります(ほうじ茶は茶葉15g、90℃の湯650mL、30秒、煎茶は茶葉10g、90℃の湯430mL、1分)。そのため、数値差を焙煎だけの効果とはいえません。これらの化学的な測定値は、人への抗酸化作用を立証するものではありません。
ほうじ茶はノンカフェインですか?
ほうじ茶はノンカフェインではなく、標準的な煎茶よりカフェインが大幅に少ないわけでもありません。健康上の目的で食生活を変える前に、医師または医療専門家にご相談ください。
ほうじ茶のピラジンとは何ですか?
ピラジンは、焙煎中にアミノ酸と糖が反応して生じることのある香気成分です。ほうじ茶の香ばしく、少しナッツに近い、炒った穀物のような香りに関わります。健康な成人20人が焙煎緑茶の香りを吸入した研究では、調べた三種類のピラジンのうち、2,3,5-トリメチルピラジンが香りに最も重要な成分と位置づけられました。研究結果は、この香りの吸入が交感神経活動を抑え、副交感神経活動を高めることで、自律神経系に鎮静的に働く可能性を示唆しています。
ほうじ茶の数値には、どの水温と浸出時間が使われていますか?
MEXTのほうじ茶の数値は、茶葉15gを90℃の湯650mLで30秒浸出したものです。比較する煎茶は茶葉10gを90℃の湯430mLで1分浸出しているため、数値差を焙煎だけの効果とはいえません。
ほうじ茶の栄養成分は煎茶とどう違いますか?
煎茶と比べると、ほうじ茶のカフェイン量は同程度ですが、タンニン、L-テアニン、ビタミンCは少なめです。MEXTのタンニン値は浸出条件が異なるため、数値差を焙煎だけの効果とはいえません。L-テアニンが少ないのは焙煎でアミノ酸が消費されるためで、原料の茶葉も関わります。ビタミンCの値は浸出液中の微量を示し、焙煎後の残存率ではありません。焙煎ではピラジンとメラノイジンも生まれますが、ここではほうじ茶と煎茶の含有量を比較していません。





