Far East Tea Company 編集チーム 約 5 分
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日本の茶産地というと、太平洋側を想像する人が多いでしょう。静岡の山の斜面、鹿児島の温暖な茶園、三重や京都の川沿い。埼玉はそのイメージからは少し外れます。内陸に位置し、冬の寒さは茶の栽培に厳しい。さやまかおりは、その限界を克服するために育成されました。耐寒性が育種の最大の目的だったのです。その目標を果たしながら、狭山地域の茶に独自のアイデンティティを与えました。

品種名は「狭山の香り」。その香り——独特で、乾いていて、茶のプロなら一嗅ぎで分かる——が、耐寒性と並ぶこの品種のもうひとつの顔です。

さやまかおりとは?

さやまかおりは1971年登録の日本茶品種で、埼玉県の茶産地・狭山地域での商業栽培を可能にするために、耐寒性を特に重視して育成されました。熟期はやぶきたとほぼ同じ中生ですが、2〜3日早い傾向があります。一番茶の摘採期はごく短く、1日の差でも農家には大きな意味を持ちます。

収量が高いことも特徴のひとつです。品質と収量はトレードオフになりやすいのが茶品種の常ですが、さやまかおりは芽数が多く、収量を確保しやすいうえに、香りにもはっきりした個性があります。寒さの厳しい地域で育てやすく、収量や耐病性にも優れ、風味にも明確な持ち味がある点が魅力です。

和紅茶にも仕立てやすく、製法が変わると香りの出方も変わります。緑茶とは別の表情を見せる品種です。和紅茶と世界の紅茶との違いは、酸化茶の記事で詳しく解説しています。

さやまかおりの味わいと香り

「狭山香(さやまか)」と呼ばれる独特の香りが最大の特徴です。炒った大豆粉(きなこ)、香ばしいゴマ、乾いた草——やぶきたの清涼感のある草の香りとは明確に異なります。香りは強く、初めて飲む人には個性が際立つと感じるかもしれません。

味わいはボディが強く、爽快な渋味があります。「渋い」という言葉はネガティブに受け取られやすいですが、さやまかおりの渋味は角がなく、後に引かない。引き締まった後味を作り、次のひと口へと口の中を整える役割を果たします。適切な温度で淹れた「さやまかおり」の渋味は、欠点ではなく構成要素です。

萎凋(いちょう)を施した製法で仕上げたものは、甘さがより前に出て、香りも広がります。産地や標高によっても表情が変わり、高地育ちのものは乾いた風味が抑えられ、ハーブに近い清涼感が出ることがあります。萎凋を深くかけたロットでは、花を思わせるニュアンスが現れることもあり、仕上げの工程ひとつで別の顔を見せます。産地内でもテロワールの差が出やすい品種です。

特徴さやまかおりやぶきた
香り乾いた、香ばしい「狭山香」清涼感のある草
ボディ強い、充実感あり中程度
渋味爽快な渋味穏やか
収量非常に高い高い
耐寒性優れている普通
主な産地埼玉(狭山)、北関東全国
対応製法煎茶、和紅茶全製法

さやまかおりの産地

埼玉県の狭山地域がこの品種の発祥地であり、主産地です。狭山茶の伝統は現代の日本茶のイメージより古く、さやまかおりは、冬の寒さが厳しいこの地域での栽培を商業的に成立させ続けるために中心的な役割を担ってきました。

北関東や、冬の寒さが課題となる山間地でも栽培されています。逆に、静岡や鹿児島のような温暖地では、耐寒性という最大の強みが必要とされないため、やぶきたに比べた品質優位が縮まります。そのため、さやまかおりは北日本の茶産地と強く結びついたままです。

産地が個性と結びついている点で、さやまかおりは典型的な地域品種です。「狭山香」という言葉はマーケティング表現ではなく、飲み手が飲めばそれと分かり、つくり手も意識して育ててきた、北関東の茶文化を象徴する風味です。

さやまかおりの淹れ方

標準的な煎茶のパラメータが基本になります——70〜80℃のお湯、茶葉3g、お湯150mL、60〜90秒。さやまかおりはさえみどりやあさつゆのような繊細品種より多少高い温度に耐えます。75〜80℃が渋味を出しすぎずボディを引き出す目安です。

萎凋仕上げの煎茶は70〜75℃でより香りが出やすくなります。和紅茶として飲む場合は90〜95℃で2〜3分——品種の香りはしっかりした抽出に耐えます。煎茶全般の淹れ方については、煎茶の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

「狭山香」とは何ですか?
狭山香(さやまか)は、埼玉県狭山地域のお茶、特にさやまかおり品種に特有の乾いた香ばしい香りを指す言葉です。きなこやゴマを思わせる香りで、静岡や鹿児島のお茶の清涼感のある草の香りとは明確に異なります。地域の風味的アイデンティティとして日本茶文化の中で認識されており、「狭山茶」の個性を語るときに必ず出てくる言葉です。
さやまかおりは寒冷地でも育ちますか?
はい。それがこの品種の育種目標でした。非常に高い標高や特殊な極寒環境を除き、日本のほぼすべての茶産地で栽培できます。耐寒性は登録品種の中でも高い部類に入り、埼玉を代表する品種として長く受け継がれてきた実績があります。北関東や山間地の農家が寒冷への対策として最初に検討する品種のひとつです。
さやまかおりとやぶきたの違いは?
最大の違いは風味の方向性です。やぶきたが清涼感のある草の香りと穏やかな味わいを持つのに対し、さやまかおりは「狭山香」と呼ばれる乾いた香ばしい香りと、爽快な渋味のある力強いボディが特徴です。収量はどちらも高いですが、さやまかおりはやぶきたより耐寒性に優れ、寒冷地での商業栽培に適しています。熟期はほぼ同じ中生で、さやまかおりがやぶきたより2〜3日早い傾向があります。

さやまかおりは、場所から生まれた品種です。ある産地が必要とした耐性を満たすために育成され、その場所に適応する中で、場所固有の風味個性を育てました。狭山香は品種の説明ではなく、地域の声です。北関東の茶文化が、日本の茶産地の地図に独自の筆跡を残した証です。

産地別のシングルオリジン日本茶のラインナップは、お茶のコレクションからご覧ください。

よくある質問

さやまかおりとやぶきたの違いは何ですか?

さやまかおりは乾いた香ばしい狭山香、強いボディ、爽快な渋味、優れた耐寒性が特徴です。やぶきたは清涼感のある草香と穏やかな味わいです。

さやまかおりの煎茶はどう淹れるとよいですか?

基本は70〜80℃、茶葉3gに湯150mL、60〜90秒です。通常の煎茶は75〜80℃、萎凋仕上げなら70〜75℃が香りを出しやすい目安です。

なぜ狭山と強く結びついた品種なのですか?

内陸で冬が厳しい埼玉の茶栽培を支えるため、耐寒性を重視して育成されたからです。さらに狭山香が地域の風味的個性になりました。

和紅茶にも向く品種ですか?

はい。さやまかおりは和紅茶にも仕立てられ、煎茶とは異なる形で乾いた香ばしい香りが出ます。90〜95℃、2〜3分の抽出にも耐える品種です。

登録年や親品種について記事では何が分かりますか?

記事では1971年登録の日本茶品種であることが示されています。一方、親品種の系統は明記されておらず、育種目的は耐寒性の確保と説明されています。