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水色は淡く透き通っていて、光の当たり方によって春水のような輝きを帯びます。口に運ぶ前から、甘さが先に届く。若い豆のような清涼感と、かすかに花を思わせる香り。渋味がなく、余韻が長い。さえみどりとはそういうお茶です。名前の「冴えた緑」が、そのまま味わいになっています。

さえみどりは、やぶきたあさつゆを掛け合わせた品種です。やぶきたからはバランスと骨格を、あさつゆからは天然の濃い旨味を受け継ぎました。その組み合わせが、品評会の場で審査員が思わず手を伸ばすような、繊細でありながら力のある一杯を生み出します。

さえみどりとは?

さえみどりは1990年に品種登録された、やぶきた×あさつゆの交配品種です。玉露や品評会向け煎茶用として育種され、その目的を十分に果たしています。全国各地の茶品評会でさえみどりの名前が上位に並ぶことは、珍しくありません。

早生品種で、一番茶の摘採期はやぶきたより約5日早い傾向があります。鹿児島では3月末に摘まれることもあります。若い新芽を早めに摘むことで、テアニンが最も多く、カテキン由来の渋味が最も少ない状態の葉を確保できます。「摘み時」が品質を大きく左右する品種です。

収量はやぶきたやゆたかみどりといった主力品種より少なめです。農家が少ない収量を受け入れ、品質に集中することを選ぶ品種です。生産量が限られるため、市場ではスペシャルティ茶として扱われることが多い品種です。

さえみどりの味わい

甘味が際立ちます。砂糖のような甘さではなく、すっきりと持続する甘さ——飲み終わった後も、蜜のような余韻が長く続きます。

甘味に寄り添うように、繊細な旨味が広がります。渋味はほぼ感じられません。やぶきたが飲み終わりにほんのりした渋味を残すのに対して、さえみどりはすっと消える。そこに甘さとかすかな花の香りだけが残ります。被覆をしていない品種でこの組み合わせが成立するのは、きわめて珍しいことです。

特徴さえみどりやぶきた
甘味際立って強い中程度
旨味繊細で存在感ありバランス型
渋味ほぼなし穏やか
香り花のような、清涼感のある緑清涼感のある草、おい香(覆い香)
余韻長い、甘味が続くすっきり、中程度
摘採時期やぶきたより約5日早い標準
品評会での実績多い一般的な基準品種

さえみどりの産地

さえみどりは日本の南部に集中しています。温かい冬が早生品種の特性を存分に発揮させるからです。鹿児島県が最大の産地で、佐賀県、宮崎県がそれに続きます。これらの県では2〜3月でも新芽の萌芽が進み、他の地域より早いタイミングで最初の摘採を迎えます。

静岡や北部九州では、冬の低温がさえみどりの早生特性を十分に活かしにくく、南九州ほどの適性はありません。この気候的な制約が、さえみどりを南国の高級品種として位置づけています。鹿児島の茶産地の詳細については、鹿児島の茶産地の記事をご覧ください。

さえみどり vs やぶきた

ふたつの品種は遺伝子上のつながりを持ちますが、市場での役割は大きく異なります。やぶきたは日本の茶園面積の大部分(長年にわたって70〜80%超)を占める日常の基準。あらゆる産地で安定して育ち、収量も品質も期待に応えます。さえみどりは目的が絞られています。適した気候の中で、最良のタイミングに摘み、最高の品質を引き出すための品種です。

やぶきたが日本茶産業を支える縁の下の力持ちだとすれば、さえみどりは品評会で「日本茶の可能性の天井」を見せる品種です。ふたつは競合しているのではなく、補い合っています。品種同士の比較については、やぶきたの記事に複数品種の比較があります。

さえみどりの親であるあさつゆも、被覆なしで玉露に近い旨味を出す品種として知られています。さえみどりとの違いは、やぶきたからの骨格を受け継いでいる分、複数の製法への汎用性がやや高い点です。

さえみどりの淹れ方

低温が基本です。60〜70℃のお湯で淹れると、甘味と旨味が前に出て渋味は出てきません。80℃以上になるとカテキンが多く溶け出し、この品種の繊細な個性が崩れます。

茶葉3〜4g、お湯150mLを目安に。ゆっくり注ぎ、45〜60秒で急須を傾けて最後まで注ぎ切ります。二煎目は60〜65℃でどうぞ。葉が開いた分だけ旨味が深まり、一煎目と同じかそれ以上に楽しめることもあります。玉露の淹れ方を参考にすると応用しやすいです。玉露の記事に詳しいアプローチが載っています。

よくある質問

なぜさえみどりは高いのですか?
理由はふたつあります。主力品種に比べて収量が少ないことと、温暖な気候という栽培条件が産地を限定してしまうことです。主に南九州でしか十分に育たないため、供給量はスペシャルティ茶の需要に対して常に少ない状態です。さらに、品評会で高評価を得た茶葉は市場価格全体を押し上げます。それがさえみどりというカテゴリ全体の価格に反映されます。
さえみどりで抹茶はできますか?
碾茶(抹茶の原料になる蒸した茶葉)に使われることはありますが、さえみどりは玉露や高級煎茶として流通することの方が一般的です。抹茶用品種としてはおくみどりや御前が広く使われています。ただし、テアニン含有量の高さと渋味の少なさは抹茶適性としても優れており、一部のスペシャルティ生産者はさえみどりの碾茶・抹茶を生産しています。

さえみどりは、日本茶を深く知る人たちが静かに、どこか敬意を込めて語る品種です。流通量は多くなく、その希少性そのものが価値の一部になっています。さえみどり単一品種の煎茶や玉露に出会う機会があれば、その甘味が自分で語ってくれるはずです。

品種別を含む日本茶のラインナップは、お茶のコレクションからご覧いただけます。