Far East Tea Company 編集チーム 約 6 分
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東京で淹れた一杯と、ロンドンで淹れた一杯。同じ茶葉、同じ温度、同じ時間。それなのに味がまるで違う。色も、香りも、口に残る余韻さえも。原因は茶葉でも道具でもなく、水そのものにあります。

日本の水は軟水。ヨーロッパやアメリカの多くの地域は硬水。この違いが、お茶の味を大きく左右します。特に繊細な日本茶は、水の影響を受けやすい筆頭格。海外で日本茶を淹れたとき「なんだか違う」と感じた経験がある方は、水質の違いをすでに実感されているはずです。

軟水と硬水の違い

水の「硬度」とは、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を数値化したもの。一般的には1リットルあたり120mg以下を「軟水」、120mg以上を「硬水」と呼ぶことが多く、日本では60mg/L以下がお茶に適した硬度の目安とされています。

日本の水道水は、ほとんどの地域で硬度50〜80mg/L。火山性の地質と短い河川のおかげで、水がミネラルをあまり含まないまま蛇口に届きます。ペットボトルのミネラルウォーターも大半が軟水。日本で暮らしていると、硬水に触れる機会はほとんどありません。

一方、ヨーロッパの多くの地域やアメリカの内陸部では、石灰岩の地層を通った水が供給されるため、硬度が150〜300mg/Lを超えることも珍しくありません。ロンドンの水道水は300mg/Lを超えることもあり、フランスやドイツの一部地域も同様です。

水がお茶の味を変える理由

硬水に含まれるカルシウムイオンは、お茶の成分と直接反応します。特に大きな影響を受けるのが「カテキン」。カルシウムイオンがカテキンやタンニンと結合することで、本来の味わいが抑えられてしまうのです。

軟水(120mg/L以下) 硬水(120mg/L以上)
水色 澄んで明るい 暗く、白濁することがある
カテキン抽出 十分に抽出される カルシウムとの結合で減少
テアニン抽出 十分に抽出される やや減少
渋味 はっきりと感じられる 抑えられ、ぼやける
香り クリアで豊か 弱まり、金属的になることも
適した茶種 日本茶、繊細なお茶全般 力強い紅茶、ハーブティー

渋味が減ると聞くと良いことのように思えるかもしれません。しかし実際には、渋味だけでなく旨味も甘味も香りも一様に抑えられてしまいます。音量を全体的に下げたような状態。お茶本来の繊細なバランスが失われてしまうのです。

硬水で淹れたお茶が白く濁ることがあるのも、ミネラルとポリフェノールの結合による現象。体に害はありませんが、日本茶の楽しみの一つである澄んだ水色が損なわれてしまいます。

お茶の旨味の主成分である「テアニン」もカテキンほどではないものの影響を受けます。とりわけ玉露のように旨味を最大限に引き出す茶種では、わずかな差が味わいの印象を大きく左右します。

つまり、軟水はお茶に「語らせる」水。硬水は、お茶の声が届く前に編集してしまう水なのです。

お茶の種類別おすすめの水

テアニンや繊細な香気成分に依存するお茶ほど、軟水の恩恵は大きくなります。逆に、焙煎や発酵で力強い風味を持つお茶は、硬水にも比較的寛容です。

茶種 推奨硬度 理由
玉露 非常に軟らかい水(目安60mg/L以下) 旨味と甘味が命。わずかなミネラルでもその両方が抑制される
煎茶 50〜100 mg/L 甘味と渋味のバランスを正確に引き出すために
抹茶 50〜80 mg/L 茶葉をまるごと摂取するため、ミネラルの干渉が増幅
ほうじ茶 / 玄米茶 50〜120 mg/L 焙煎の香りは硬水の影響を受けにくいのが特徴
紅茶 100〜200 mg/L 適度な硬水が渋味を和らげ、まろやかに
ハーブティー 素材による 多くは硬度の影響を受けにくい

玉露は被覆栽培でテアニンを最大限に蓄えたお茶。水の硬度に最も敏感な茶種の一つといえます。煎茶も同様に繊細で、淹れ方に気を配っても、水が合わなければ本来の味は引き出せません。

一方、ほうじ茶や玄米茶は焙煎やブレンドによって風味の軸が旨味からロースト香に移っているため、多少の硬水でも持ち味が崩れにくいお茶です。

紅茶は、じつは例外的な存在。ある程度の硬水がタンニンの渋味を穏やかにし、かえってまろやかな仕上がりになります。イギリスの紅茶文化が力強いブレンドを中心に発展したのは、硬水という環境が背景にあったからこそ。

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実践的なアドバイス

日本国内にお住まいなら、水道水はそのままお茶に使えるほど軟水です。カルキ臭が気になる場合は、浄水器を通すか、一度沸騰させてから冷ませば十分です。

硬水地域でお茶を淹れるなら

海外赴任中や旅行先で日本茶を楽しみたいときでも、いくつかの工夫で味を近づけられます。

浄水器はカルキ除去には効果的ですが、一般的な活性炭フィルターだけでは硬度はほとんど下がりません。硬度を下げるには、イオン交換樹脂や逆浸透膜(RO)方式のフィルターが必要です。

ペットボトルの水を選ぶなら、硬度100mg/L以下を目安にしましょう。硬度はラベル表示か、メーカーのウェブサイトで確認できます。

旅先での応急対策

フィルターもペットボトルも使えない場面では、茶葉を少し減らし、抽出時間を短くし、湯温をやや下げると、硬水の影響を和らげられます。温度を下げるとカテキンの抽出量が減り、カルシウムとの結合も抑えられるためです。

水出しも有効な方法。冷水ではカテキンの抽出がゆっくり進むため、硬水による影響が小さくなります。硬水地域でも、水出し煎茶なら意外なほど美味しく仕上がることがあります。

FETCでは、水はお茶づくりの中で最も見過ごされがちな要素だと考えています。茶葉、温度、道具。どれも大切ですが、水はそのすべてを運ぶ媒体。水が合わなければ、どれだけ丁寧に淹れても茶葉本来の味は届きません。まず軟水を。そこから先は、お茶が自ら語ってくれます。

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タグ: 淹れ方

よくある質問

東京とロンドンで同じ日本茶の味が変わるのはなぜ?

大きな要因は水の硬度です。日本の水道水は多くが50〜80mg/Lの軟水ですが、ロンドンは300mg/Lを超える場合があり、香りや甘味、渋味の出方が変わります。

日本茶に向く水の硬度はどのくらい?

目安は100mg/L以下です。玉露は60mg/L以下、煎茶は50〜100mg/L、抹茶は50〜80mg/Lが出発点になります。好みには個人差ありなので微調整が大切です。

活性炭フィルターだけで硬水はお茶向きになる?

活性炭はカルキ臭や一部の沈殿物には役立ちますが、硬度はほとんど下がりません。硬度を下げたい場合は、イオン交換樹脂や逆浸透膜方式が候補になります。

硬水地域で煎茶を淹れるときの調整は?

茶葉を少し減らし、抽出時間を短くし、湯温を数度下げるのが出発点です。煎茶なら急須で70℃前後、45〜60秒、200mlに4gほどから好みに合わせます。

硬水でお茶が白く濁るのは失敗?

失敗とは限りません。ミネラルとポリフェノールが結びつくことで起きる現象で、記事では害はないと説明されています。ただし日本茶らしい澄んだ水色は損なわれます。