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「中国産 抹茶」という文字を見かける機会が増えました。カフェのラテに使われていたり、製菓材料として手頃な価格で並んでいたり。実際、中国の抹茶産業はここ数年で大きく動いています。品質も上がっている。では、日本産の抹茶と何がどう違うのか。私たちは日本茶を扱う立場なので、公平に語るのは簡単ではありません。それでも、産地で茶葉を見て、飲み比べてきた経験から言えることがある。

結論を先に言えば、ラテや製菓なら質の良い中国産抹茶で十分なケースも出てきました。一方、薄茶や濃茶として点てるなら、日本産の抹茶が持つ前提条件——碾茶という原料、長い被覆期間、石臼挽き——がまだ大きな差を作っています。

属性日本産抹茶中国産抹茶
原料の葉碾茶(被覆栽培、葉脈除去)碾茶工程を経ていない茶葉——被覆なし、あるいは短期間の被覆で栽培された葉(規格が明示されないケースも多い)
被覆期間20〜28日(棚式が主流)ばらつきが大きい(0〜14日が一般的)
粉砕方法石臼(1時間に30〜40g)ボールミル・ジェットミル(kg単位/時間)
品種品種名が明記される(おくみどり、さみどり等)少ないが増加傾向
鮮やかな深い緑多くの場合、黄みがかった緑またはくすんだ緑
価格帯1gあたり50〜300円1gあたり10〜50円
向いている用途茶道、薄茶、上質な飲用ラテ、製菓、スムージー

いま、中国産抹茶に何が起きているか

中国の抹茶市場はここ数年で急成長しています。湖北省の恩施や貴州省の銅仁では、被覆栽培を導入し日本式の製法を取り入れた生産者が増えつつあります。なお、福建省の武夷山は伝統的に烏龍茶の産地であり、後述のPMC研究でサンプルが採取・分析された産地です。背景にあるのは、中国国内でのカフェ文化の広がりと、抹茶ラテの爆発的な人気です。

棚式の覆下栽培。黒い遮光ネットが茶畑を覆い、霧深い山々を背景に

日本の緑茶輸出額も増え続けており、2025年には71年ぶりに1万トンを超えました。世界的な抹茶需要が拡大するなかで、中国の生産者がその市場を取りに動くのは自然な流れでしょう。

品質面での進歩を示すデータもあります。2025年1月にFoods誌(MDPI)に掲載された官能評価と代謝物分析の研究(PMC11720590)では、日本(静岡)と中国4産地(恩施、武夷山、銅仁、杭州)の抹茶を総合品質スコアで比較しています。結果は静岡93.5点、恩施90.7点、武夷89.1点、銅仁86.5点、杭州86.2点。なお、この官能評価は中国の国家標準(GB/T 23776-2018)に基づき、沸騰水で3分間抽出するという、通常の抹茶の点て方とは大きく異なる条件で行われています。静岡が最も高い評価を得つつも、恩施は2.8ポイント差まで迫っています。この研究は中国政府の助成金で行われており、日本の産業資金は入っていません。つまり、中国側が自国産の品質を客観的に測定し、改善を図っている構図です。

ただし、上位産地の研究用サンプルと、市場に流通する大量生産品のあいだには差があります。スコアが示すのは「最良の条件ではこの水準に達しうる」という可能性であって、店頭の中国産抹茶すべてがこのレベルにあるわけではありません。品質のばらつきは依然として大きい領域です。

伝統的な石臼で抹茶を挽く様子。1時間あたり30-40gの速度で丁寧に粉砕される

日本の抹茶が「抹茶」である理由——碾茶という前提

日本で「抹茶」と呼ばれるものには、「碾茶」(てんちゃ)という明確な出発点があります。碾茶は、収穫前に20〜28日間遮光して育てた新芽を蒸し、揉まずに乾燥させ、葉脈と茎を取り除いたもの。この工程を経た葉だけが、本来の抹茶の原料です。

遮光によって「テアニン」(旨味に関わるアミノ酸)が分解されにくくなり、「カテキン」(渋味・苦味の成分)の生成が抑えられます。旨味が濃く苦味が穏やかな葉になる。これが碾茶の設計です。被覆が短い——あるいは被覆しない——葉を粉にしても、緑色の粉末にはなりますが、味わいの骨格は別のものになります。

中国産の多くは、碾茶の工程を経ていない茶葉——被覆なし、あるいは短期間の被覆で栽培された葉——を粉砕しています。そのため、色や香りの基調が変わるのは当然です。碾茶と抹茶の関係は抹茶・碾茶の記事で詳しく読めます。製造工程の全体は抹茶・碾茶の製造工程の記事にまとめました。

日本産抹茶(左・鮮やかな緑)と中国産抹茶(右・やや黄みがかった緑)の色比較

品質を見分けるポイント

産地を問わず、手元の抹茶がどの水準にあるかは、自分の目と鼻と口で判断できる。

まず色。鮮やかな深い緑は、十分な被覆栽培と鮮度の証拠です。黄色やオリーブ色に寄っていたら、遮光不足か劣化の可能性があります。袋を開けた瞬間の印象が、かなりの情報を持っています。

次に香り。質の高い抹茶は、海苔のような覆い香やクリーミーな甘さが鼻に来ます。草っぽい青臭さや、ほとんど香りがしないものは原料の品質か保存状態に問題があるかもしれません。

泡立ちも手がかりになります。茶筅で点てたとき、きめ細かい泡が長く持続するのは粒子が細かい証拠。石臼で挽いた抹茶は粒径が小さく均一になるため、泡がなめらかで消えにくいのです。大きな泡がすぐ消えるなら、ボールミルなどで粗く挽いた粉末の可能性があります。

最後にラベル情報。産地名(宇治、西尾、八女など)、品種名(おくみどり、さみどりなど)、石臼挽きの表記があるかどうか。具体的な情報が多いほど、品質への自信の表れです。グレードの見方について詳しくはセレモニアルグレード抹茶の記事をご覧ください。

用途に合わせた選び方

抹茶の「正解」は使い方で変わります。すべての用途に最高級品を使う必要はないし、すべてをコストで決める必要もありません。

用途推奨される抹茶理由
濃茶(こいちゃ)日本産・品種名あり・石臼挽き少量の湯で練るため、雑味が隠せない。最高品質の碾茶が必要
薄茶(うすちゃ)日本産推奨旨味・甘味・苦味のバランスが碾茶の質に依存する
ラテ・スムージー日本産 or 上質な中国産ミルクや甘味料と合わせるため、コスパも選択基準になる
製菓・料理中国産でも十分なケースが多い加熱やほかの材料が加わる。コスト効率を重視しやすい

日常の薄茶を楽しむなら、日本産の中でも品種や産地で味の幅があります。濃厚な旨味のさみどり、バランスの取れたおくみどり。点て方しだいで印象も変わるので、抹茶の点て方を合わせて読むと一杯の精度が上がります。道具を揃えたい方は抹茶道具のガイドも参考になるでしょう。

ラテにするなら、抹茶の風味がミルクに負けない程度の品質があれば目的は果たせる。抹茶ラテのレシピで一杯の作り方をまとめています。カフェイン量が気になる場合は抹茶のカフェインの記事も参考になるでしょう。

私たちFETCが産地で抹茶を選ぶとき、産地名だけでは決めません。碾茶の素性、品種、被覆の日数、いつ挽いたか。そういう具体的な情報を確認してから仕入れています。産地の違いは入口にすぎません。その先にある茶葉の履歴が、一碗の味を決めます。

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参考リンク