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「国産の紅茶」というと、意外に思う方が少なくありません。紅茶といえばインドやスリランカのもの――そのイメージは今も根強い。でも日本でも明治時代から紅茶は作られており、2000年代以降は「和紅茶」として小規模生産者を中心に大きな注目を集めています。

和紅茶は、日本国内で栽培・製造された紅茶のこと。品種も製法も、インドや中国の紅茶とは異なります。その違いが生む風味――渋みが少なく、花やフルーツのような香り――は、ストレートで飲む文化と相まって、海外の紅茶愛好家からも高い評価を受けています。この記事では和紅茶の歴史、品種、産地、そしておいしい飲み方を解説します。

和紅茶とは — 日本で作る紅茶のこと

和紅茶(わこうちゃ)は、日本国内で栽培されたチャノキ(Camellia sinensis)を原料に、日本国内で製造された紅茶です。「和」は日本を意味し、海外の紅茶と区別するための呼称として使われます。ローマ字表記は「wakoucha」のほか「wakocha」も使われますが、同じ茶を指します。

海外の紅茶との違いは、原産国だけではありません。日本の茶品種は本来、緑茶用に品種改良されたものが多く、インド・スリランカで使われるアッサム系品種とは葉の厚さも、含まれる成分も異なります。この品種の違いが、和紅茶独特の風味を生み出しています。渋みの原因となるタンニンが比較的少なく、花や果物のような香りが前に出る傾向があるのです。

世界の紅茶の産地別概要(ダージリン、アッサム、セイロン等)については紅茶の種類をご覧ください。この記事は日本の和紅茶に特化した内容です。

和紅茶の歴史 — 明治の輸出茶から現代の復興へ

日本における紅茶生産の歴史は、明治時代にさかのぼります。政府主導で輸出産業として育成しようとしたのが始まりで、インド・中国の紅茶と競争できる製品を目指し、静岡や大阪を中心に紅茶生産が試みられました。明治20年代には欧米への輸出も行われています。

しかし20世紀初頭に入ると国産紅茶は衰退し始めます。緑茶用に改良された日本の品種は、アッサム系品種のような安定した酸化適性を持ちにくく、品質の一貫性でインド・スリランカに太刀打ちできませんでした。戦後は国内の需要がさらに緑茶に集中し、紅茶生産はほぼ忘れられた状態になっていきます。

転換が訪れたのは1990年代後半から2000年代にかけてです。産地を差別化したい若い生産者たちが、日本品種を使った紅茶造りに取り組み始めました。「全国和紅茶グランプリ」の創設が品質の競争基準を生み出し、国際的な食品コンペでも受賞が続くようになっています。

和紅茶に使われる品種

品種は和紅茶の風味を大きく左右する要素です。大きく「紅茶専用品種」と「緑茶品種の転用」に分かれます。

品種 主な用途 和紅茶にしたときの風味
べにふうき 紅茶専用品種 マスカット、花、やや辛み。メチル化カテキンを多く含む
べにひかり 紅茶専用品種 蜂蜜、柔らかいフルーツ、穏やかな後味
いずみ 紅茶専用品種 バラ、クリーン、渋みが少なく優しい
やぶきた 緑茶品種(転用) 草っぽさと淡い花香。品質はやや変動しやすい
さやまかおり 緑茶品種(転用) 高い香り、栗、甘み

べにふうきは紅茶専用品種の中でもっとも広く普及しており、その花のような香りとマスカット様の風味で評価が高い品種です。いずみは繊細な花香とクリーンな後味が特徴で、ストレートで飲むのに向いています。やぶきたは国内の茶畑の約75%を占める品種ですが、紅茶専用品種と比べると酸化適性や香りの深みで劣ることがあります。それでもやぶきたを使った和紅茶の中にも、丁寧な製法で仕上げた優れたものがあります。

在来種(ざいらい種)と呼ばれる、品種登録されていない在地品種を使った和紅茶も存在します。品質の安定性は低いですが、他では得られない個性的な風味を持つものもあり、愛好家から注目されています。

和紅茶の産地 — 静岡・鹿児島・宮崎・奈良

和紅茶は特定の産地に集中しているわけではなく、緑茶産地の各地で少量生産されています。

静岡県。静岡は国内最大の茶産地であり、和紅茶の生産量でも最大規模を誇ります。べにふうきの栽培が盛んで、多様な気候帯がさまざまなスタイルの和紅茶を生み出しています。

鹿児島県。鹿児島は温暖な気候を生かした和紅茶が特徴。渋みが少なくなめらかで飲みやすいタイプが多く、日常的に楽しめる和紅茶として評価されています。

宮崎県。山間部の茶園では、昼夜の寒暖差がゆっくりとした発酵を促し、風味に複雑さが生まれやすいとされています。生産量は少ないものの、産地としての個性が確立されつつあります。

奈良県。大和茶の産地として知られる奈良では、内陸性の冷涼な気候が育む独特の香りを持つ和紅茶が作られています。小規模ながらクラフト感の高い生産者が集まっています。

和紅茶の味わい — 渋みが少なく花の香り

和紅茶の最大の特徴は、渋みの少なさです。インド紅茶のような力強い渋みやコクではなく、花やフルーツのような香りと清澄な味わいが前に出ます。水色(すいしょく)も銅色〜明るい琥珀色と、アッサムやセイロンに比べると淡めです。

紅茶 産地 主な風味 渋み 飲み方
和紅茶 日本 花、蜂蜜、石果 少ない ストレートが基本
ダージリン(ファーストフラッシュ) インド マスカット、フローラル やや少なめ ストレート
アッサム インド 麦芽、コク、力強い 強い ミルクティー向き
ウバ(セイロン) スリランカ 明るくスパイシー 中〜強 どちらでも

和紅茶の花の香りは、高温で長時間抽出するとすぐに飛んでしまいます。インド紅茶と同じように95℃以上で長く蒸らすと、和紅茶の最大の魅力が消えてしまうのです。ストレートで少量飲む文化は、この繊細な香りを最大限に楽しむための飲み方でもあります。

おいしい和紅茶の淹れ方

インド紅茶より低め、緑茶より高め。この温度帯が和紅茶に最適です。

パラメータ 和紅茶 インド紅茶(比較)
お湯の温度 85〜90℃ 95〜100℃
茶葉の量 3g(200mL) 3g(200mL)
蒸らし時間 2〜3分 3〜5分
おすすめの飲み方 ストレート ミルクあり・なし両方

90℃を超えると香りが急速に揮発します。蒸らし時間は2分を目安にして、茶葉を取り出すタイミングを逃さないようにすることが大切です。詳しい淹れ方は紅茶の淹れ方をご覧ください。

和紅茶と海外紅茶の違い — まとめ

和紅茶は、製法分類としては「発酵茶(酸化茶)」に属します。ただし「発酵」という言葉はお茶の世界では慣用的に使われており、実際には微生物による発酵ではなく、酸化酵素による酸化です。この点については発酵茶の記事で詳しく区別しています。

和紅茶の独自性は、日本という緑茶の国で紅茶が作られているというだけではありません。緑茶製造に長けた生産者が、その精度と繊細さを酸化茶の製造に持ち込むことで生まれる、どこにもない風味の茶です。紅茶の成分アッサム種と中国種の違いもあわせて読むと、和紅茶のユニークな位置づけがさらに明確になるはずです。