お茶の早生・晩生品種
一年中いつでも美味しく飲むことができるお茶。しかし、お茶は種類や栽培地域によって摘採時期(茶葉が摘み取られる時期)に違いがあることをご存知ですか?
この記事ではお茶の摘採時期についてご紹介します。
お茶の摘採時期はいつ?
一番茶の収穫は、早い地域だと3月下旬から、遅い地域では5月下旬まで行われます。ただしこの摘採時期は、品種・緯度・標高・日照時間などによって少しずつ変わります。農作物の中でもお茶の摘採時期は非常に短く、朝に摘採のタイミングを迎えたお茶は、その夜には固くなり始めてしまうんだとか。そのため、美味しいお茶を作るためには、非常に短い時間で摘み終えなければなりません。
生産者が複数の品種を栽培する目的の一つが、この摘採時期を長く確保するため。
仮にある生産者が栽培するお茶が全て同一の品種だった場合、短い摘採期間に作業が追いつかず、新芽が育ち過ぎて味が落ちたり、葉が固くなったりしてしまう恐れがあります。
複数の品種を栽培することで摘採のタイミングを少しずつずらし、摘採時期を長く確保して初めて、ベストな状態で全ての新芽を摘み取ることができるのです。
「早生」「晩生」って?
お茶には100種類以上の品種があり、品種によって摘採時期が変わるのですが、その中でも「早稲品種」と「晩生品種」があります。
早生(わせ)は摘採時期が比較的早いことで、これに分類される品種を「早生品種」といいます。
晩生(ばんせい・おくて)は早生と逆に摘採時期が比較的遅いことで、これに分類される品種を「晩生品種」といいます。
農家は、早生品種・中生品種(「やぶきた」など摘採の基準になる品種)・晩生品種を組み合わせて栽培することで摘採時期を10日前後にまで広げることができ、これによりすべての茶葉を一番良いタイミングで摘むことができるのです。
鹿児島には「早生」が多い?
温暖な気候を利用して3月下旬から摘採を始める鹿児島県のお茶は、市場に出回るのが日本一早い「走り新茶」として有名です。「走り新茶」は一年で最も早く売られるお茶ということもあり、通常のお茶よりも高い市場価格がつく傾向にあり、少しでも早く出荷を始めるために早生品種で作られることがほとんどです。
日本で二番目に多く作られている品種である「ゆたかみどり」は、代表的な早生品種の一つ。
実は、その大部分は鹿児島県で栽培されており、「ゆたかみどり」の他にも「さえみどり」や「あさつゆ」などの早生品種が多く栽培されています。「走り新茶」を少しでも早く、高値で取引するために、鹿児島では鹿児島では早生品種の栽培が盛んなのです。
代表的な早生品種
早生品種には、さやまかおり・つゆひかり・くりたわせなど数多くの品種がありますが、中でも代表的な品種といえばゆたかみどりとさえみどりです。
さやまかおり
やぶきたより0〜2日早生。濃厚な香りが特徴で、主に静岡県・埼玉県・三重県などで栽培されています。カテキンを多く含むため、比較的渋めの味わい。
つゆひかり
やぶきたより2日ほど早生。茶葉が明るい緑色で美しく、特に静岡は栽培に力を入れています。渋味の中に旨味と甘味が引き立つ爽やかな味わいが特徴。
くりたわせ
種子島などの暖かい地域で栽培されている品種で、早生の中でも特に摘採期が早い「極早生」と呼ばれる品種。キレのある苦味とフレッシュな甘みが特徴。
ゆたかみどり
繁殖力が強く収穫量も多いゆたかみどりは、日本で2番目に作付面積が大きい品種で寒さに弱いので特に鹿児島で多く栽培されています。独自の栽培方法と加工方法で苦味が少なくほどよい甘みとコクがある深い味わいを作り出しています。
さえみどり
育てやすく味のバランスが良い「やぶきた」と、甘みと旨みが強く天然玉露とも呼ばれている「あさつゆ」を掛け合わせた最高級品種。やぶきたの味のバランスの良さにあさつゆの甘みと旨味が加わり、上品で優雅な味わい。
代表的な晩生品種
晩生品種には、かなやみどり・はるみどり・おくひかりなどがありますが、代表的な品種はおくみどりとべにふうきです。
かなやみどり
やぶきたより4日晩生で、主に鹿児島県と静岡県で栽培されています。ミルクのような独特の甘いかおりが特徴的。
はるみどり
やぶきたより6日晩生で、かなやみどりから生まれた品種。煎茶としての品質が極めて高く、高級茶です。
おくひかり
山間部などの寒い地域でも栽培することができる珍しい品種。香りが強く、味もはっきりしています。
おくみどり
作付面積は国内3位で、主に、鹿児島・三重・京都・静岡あたりで栽培されています。
自然な甘さとマイルドな口当たりで後味スッキリの味わいです。香り高いので特にお茶の香りを楽しみたい人におすすめの品種です。
べにふうき
品種登録は平成5年と他の品種に比べて歴史は浅いものの日本茶だけでなく、和紅茶品種としても有名な品種。メチル化カテキンが多く含まれているので、抗アレルギー効果が期待できるお茶として話題になっています。
日本茶の品種|さえみどり
「やぶきた」と「あさつゆ」をかけあわせて生まれた非常に優秀な品種”さえみどり”
日本第3位のシェアを誇る優良品種”さえみどり”はどんな品種なのでしょう。
日本で3番目に多く作られる早生品種”さえみどり”
2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの約4%を占める”さえみどり”は、”やぶきた”、”ゆたかみどり”に次いで3番目に多く作られている品種です。

濃厚な旨味とストレートな香りが特徴的な緑茶用品種”さえみどり”についてご紹介します
「さえみどり」の特徴
さえみどりの特徴は何といっても優れた品質です。
「やぶきた」×「あさつゆ」から生まれた品種
育てやすく収穫量・品質共に優れた”やぶきた”と、甘みと旨みが強く「天然玉露」とも呼ばれている”あさつゆ”。この優良な2つの品種の、良いところ取りで生まれたのが”さえみどり”です。
品質ナンバーワンと称えられる最高級品種で、煎茶のみならず玉露に使われることもあり、なおかつ”やぶきた”に似て収穫量も多いというまさに傑作品種です。
肥料や被覆栽培で旨味をたっぷりと乗せて作られることが多く、クセがないため合組(ブレンド)にも使いやすく、今後に大きな期待がかけられている品種です。
寒さには強いが霜に弱い
“さえみどり”は強い耐寒性を持つ反面、霜の被害に弱く、また耐病性もあまり強くありません。
温暖な地域を好む品種なので”さえみどり”ができた当時は、鹿児島県を中心とした南九州で栽培されていましたが、近年ではその高い品質から静岡県や近畿地方でも栽培が進んでいます。
早生品種
“さえみどり”の収穫期は”やぶきた”より5日ほど早く、新茶は4月中旬~5月上旬に収穫される早生品種です。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
鹿児島県など南の暖かい地域では3月下旬に収穫が行われる年もあり、品質が高く、他の品種に先駆けて早く作れることから、温暖な気候に恵まれた地域ではより好まれる品種なのです。
“さえみどり”の味わい
味のバランスが良い”やぶきた”と、甘味と旨味が強い”あさつゆ”の味をうまく引き継いだ”さえみどり”
香りや味は比較的さっぱりしていますが、苦渋味が少なく、濃厚な甘味と旨味が楽しめます。
力強く濃厚な味わいのお茶を好む人は少々物足りなく感じるかもしれませんが、トロッと濃厚な旨味を感じられる上品で優雅な味わいは飲む人を贅沢な時間へいざなってくれます。
また、水色も青みがかった美しい緑色なので、大切なお客様へのおもてなしにもおすすめです。
新茶・一番茶・二番茶って?
お茶は摘採時期によって、一番茶(新茶)に始まり、二番茶・三番茶・秋冬番茶などの名称がつき、一般的には摘まれた時期が早いほど品質が高く美味しいお茶だといわれています。
緑茶と、烏龍茶や紅茶では摘採時期が異なりますが、ここでは緑茶の摘採時期と、それによって変わるお茶の味わいや特徴についてご紹介します。
*品種や環境によって味や時期は少しずつ異なるのであくまで代表的な味や時期をご説明します。
「新茶」ってどんなお茶?
「新茶」と「一番茶」は、呼び方が違うだけで同じお茶を指します。
立春から八十八夜の、5月の2日〜3日に摘まれるお茶で、最も品質が良く高値で取引されるのが新茶(一番茶)です。
新緑のようなフレッシュな香りと味を楽しむことができ、「飲むと1年間無病息災で過ごせる」といわれる縁起物なので、贈り物としても人気が高いお茶です。
「一番茶」「二番茶」って?
栽培地域や品種によって時期は前後しますが、主な摘採時期は年に4回です。
- 一番茶→4月下旬〜5月下旬
- 二番茶→6月中旬〜7月上旬
- 三番茶→7月下旬〜8月上旬
- 四番茶(秋冬番茶)→9月下旬〜10月上旬
一般的に、摘採時期は気温が高ければ高いほど早くなるため、日本で最も摘採が早いのは鹿児島県、最も摘採が遅いのは奈良県や静岡県の標高の高い地域となります。
上記の摘採時期は、静岡県の平均的な摘採時期を参考にしています。
番茶って?
番茶は「晩茶」とも書き、晩(おそ)い時期に摘んだ、古い葉や硬い葉で作られた下流茶のことを指します。
地域や生産者によって、二番茶以降を番茶と呼ぶ場合もありますし、三番茶以降をそう呼ぶ場合もあります。また、新芽が伸びすぎて硬くなった葉や、通常の摘採期から遅れて出てきて摘み残され次の摘採期に摘まれた葉、煎茶の仕上げ工程で葉が大きすぎて選別された葉、整枝のため刈り取った茎や葉なども番茶となるため、非常に意味合いの広い言葉です。
通常のお茶と同じように加工され、安価な茶葉として販売されたり、苦渋味をカバーするためにほうじ茶として販売されたり、ペットボトル茶などの各種原料茶となったりと、様々な用途があります。
一番茶の特徴
一番茶(新茶)は1年間で最も品質が良く、かつ最も高値で取引されるお茶です。
渋味の原因となる「カテキン」が少なく、甘味・旨味の要因となるアミノ酸「テアニン」が多く含まれているため、お茶の甘味・旨味を楽しむことができるお茶です。また、新緑のような爽やかな香りが楽しめるのも、一番茶の特徴の一つです。
一番茶が一番美味しいといわれる理由は、育成速度が関係しています。
二番茶・三番茶の場合は萌芽から1ヶ月前後で摘み取られますが、一番茶は前年の最後の摘採(秋整枝)から半年ほどかけて、たっぷりと栄養分を蓄えてながらゆっくりと成長します。その分旨みや香りが詰まっているのです。
ちなみに「一番茶」と「新茶」の使い分けですが、「一番茶」はこの記事のように二番茶や三番茶などほかの時期に摘み取られたお茶と区別するときに使い、「新茶」は今年初めて摘まれた「初もの・旬のもの」という意味で使われることが多いようです。
二番茶の特徴
二番茶の摘採は、一番茶の摘採から40日前後で行われます。
一番茶の摘採後に萌芽した芽を摘んで作られるのが二番茶で、日照時間が長い時期に生育するため、「カテキン」を多く含みます。そのため一番茶に比べて苦く感じる人もいますが、抗菌・生活習慣予防などに良いとされています。
二番茶は、通常のように加工され廉価な茶葉として販売される場合もありますし、ペットボトル茶の原料として買われる場合もあり、一番茶と比べると大きく値段は落ちますが、生産者の収入を支える大事なお茶なのです。
三番茶・四番茶・秋冬番茶の特徴
二番茶のさらに1ヶ月ほど後に摘採が行われるのが三番茶。そして更にその1ヶ月後に摘まれたお茶が秋冬番茶(四番茶)と呼ばれます。
一番茶・二番茶と比べると味も香りも栄養も著しく落ちるため、非常に安価で販売されるお茶です。「カテキン」の苦渋味をカバーするために、ほうじ茶に加工されたり、ペットボトル茶の原料や加工の原料茶として使われることが多いお茶です。
一般的に、摘採を行う度に茶樹はダメージを受けます。そのため、翌年の一番茶の品質向上のため二番茶以降を収穫しない生産者もいらっしゃいます。
また、三番茶や秋冬番茶(四番茶)は非常に安価なため、電気代や加工費のかかるお茶の製造は行わず、茶園の管理のために刈り落としのみを行う場合もあります。

アッサム種と中国種
お茶の品種は日本で登録されているだけでも100種類以上。未登録の在来品種や研究中の品種、世界に存在する品種を加えれば、途方も無い数の品種が存在します。
しかし、そんな沢山の品種の元になる木は地球上にたったの2種類です。
お茶の品種は2つだけ?中国種とアッサム種
茶はツバキ科の植物で、学名を「カメリア・シネンシス(Camellia sinensis(L)O.Kuntze)」といい、紅茶も烏龍茶茶も緑茶も、全てこの植物から作られています。
この茶の木は大きく、中国種とアッサム種の2種類に分類されます。そこからそれぞれ派生して、さまざまな品種が生まれているのです。
2019年現在、日本で農林水産省に登録されている品種は119種。茶産地としては比較的冷涼な地域にあたる日本では、栽培されているほぼすべてのお茶が中国種に属しますが、中には中国種とアッサム種が交配して生まれた品種も存在します。
中国種の特徴
中国種は中国の雲南省を原産とする品種で、渋味成分である「カテキン」の含有量が少く、酸化酵素の活性も弱く酸化発酵がしづらいため、緑茶に多く使われる品種です。
アッサム種と比べると茶葉が小さく、最大でも3mほどまでしか伸びない灌木型の品種です。
耐寒性が高く、寒くて乾燥した場所で育つことはもちろんのこと、順応性が高いので暑くて湿度の高い場所でも育つため、日本・中国・台湾や、インドやスリランカの高地などで栽培されています。
日本では”やぶきた”や”ゆたかみどり”、”さえみどり”など、ほぼ全ての品種がこの中国種に属します。
中国種の歴史
お茶の起源は中国。その歴史は紀元前から始まり、神話にも出てくるほど昔からお茶はありました。
お茶の発祥に関しては諸説ありますが、雲南省西南地域で初めて茶の木が発見されたという説が有力です。このころ、お茶の葉は薬として認識されていて、嗜好品として飲まれ始めたのは紀元前59年ごろ。
760年ごろには世界最古のお茶の専門書『茶経』が完成し、飲み方や淹れ方が今のスタイルに近付きます。805年には日本にお茶が伝わり、日本のお茶の歴史はここから始まり今に至ります。
1610年頃にはヨーロッパにも初めてお茶が輸入されます。台湾にお茶が持ち込まれたのは、さらに遅い1810年ごろです。
アッサム種の特徴
アッサム種はインドのアッサム地方を原産とする品種で、渋味成分となる「カテキン」を多く含み、酸化酵素の活性が強く酸化発酵がしやすいため、主に紅茶や烏龍茶に使われる品種です。
中国種と比べると茶葉が大きく、葉面には深くシワが走っているのが特徴です。また、中国種と違い喬木型なので、最大で10mほどまで直立することもあります。
寒さに弱く、高温多湿の気候を好むため、インド・スリランカ・インドネシアなどを中心に栽培されています。
日本で作られる紅茶向け品種である”べにふうき”や”べにひかり”、”べにほまれ”は、アッサム種と中国種を交配して作られた品種です。
アッサム種の歴史
アッサム種は、1823年にインドのアッサム地方で見つかった野生の茶の木です。その歴史は200年と中国種に比べて遥かに短く、非常に新しい品種と言えるでしょう。
1780年代、既にインドでは、輸入した中国種の茶の木の栽培がされていました。
中国種ではなく、自国の野生の茶の木がどこかにないかと探されていましたがなかなか見つかりません。
1823年、イギリス人の植物研究家ロバート・ブルースがインドのアッサム地方に遠征した際に、見たことがない茶の木を見つけました。これが後のアッサム種なのですが、インドの植物学者は「これは茶の木ではなくツバキの木だ。」と判断を下し、茶の木と認められることなく、ロバートは失意のまま亡くなります。
その後、ロバートの意志を継いだ実の弟・チャールズの努力により茶の木と認められ、アッサム種が公に認められました。
1838年、チャールズ監督の元、アッサム種から作られた初の国産緑茶が完成。翌年にはロンドンでオークションにかけられ高値で取引されました。
このことで茶業への期待と関心が高まりますが、アッサム種が発見されたアッサム地方は危険な野生動物や毒蛇が生息しており、開拓が非常に困難な地域。さらにマラリヤやコレラなどの感染症の流行が重なったり、安全な輸送ルートが確保できなかったりと、多くの人々の血と汗が流れました。
その結果、発見から27年後の1850年あたりからお茶の生産も軌道に乗り、東南アジアやアフリカでもアッサム種のお茶の栽培が始まります。
その後紅茶が生まれ、イギリスを中心に世界中に浸透し、今に至ります。
穀物やハーブなどの香りを持つ緑茶品種、ゆたかみどり
この記事では、日本で二番目に作付面積が多い品種”ゆたかみどり”についてご紹介します。
日本で2番目に多く作られる早生品種”ゆたかみどり”

2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの6.5%を占める”ゆたかみどり”は、”やぶきた”に次いで2番目に多く作られている品種です。
穀物やハーブ例えられる独特の香りを持ち、強い渋味と旨味を持ち合わせる緑茶用品種”ゆたかみどり”とは、どんな品種なのでしょう。
“ゆたかみどり”の特徴
“ゆたかみどり”には以下のような特徴があります。
産地は主に鹿児島県、耐病性はあるが寒さに弱い

ゆたかみどりは日本全国の生産量の内、6.5%にしかすぎないのにも関わらず、鹿児島県内では30%近くを占める、大変人気が高い品種です。南国で栽培されることが多く、鹿児島県以外だと宮崎県でもよく栽培されています。
その理由はその耐病性と耐寒性。
“ゆたかみどり”は、カビによる病気「炭そ病」に強いなどの耐病性はあるものの、霜の被害を受けやすく寒さにも弱いため、主に九州の暖かい地域で栽培されています。
繁殖力が強い上に収穫量が多いので、温暖で霜が降りにくい地域の生産者にとっては収入につながりやい品種です。
「被せ深蒸し」に適した品種
“ゆたかみどり”は1966年、鹿児島県の奨励品種に登録されました。
強い旨味を持ちながら、同時に渋味も強いという特徴を持つ”ゆたかみどり”ですが、被覆栽培で「カテキン(渋味成分)」の生成を抑えながら濃厚な旨味を乗せ、「深蒸し」にすることで渋味を抑えてマイルドなコクのある味わいを作り出すのにぴったりな品種だったのです。
今でこそ「美味しい」と評判の鹿児島県のお茶ですが、実は昔「鹿児島のお茶は安かろう、まずかろう」と悪評が立っていた時代がありました。そのイメージを覆し、鹿児島県をお茶の名産地にまで引っ張り上げたのが”ゆたかみどり”だといわれています。
摘採期が早い早生品種
摘採期が早い早生品種で、”やぶきた”より5〜7日以上早く収穫します。
“やぶきた”は立春から数えて八十八夜で新茶を摘みますが、ゆたかみどりは七十七夜で摘むため、他地域・他品種と比べて一足早く全国に流通させることができます。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
日本の南端、温暖な気候と長い日照時間に恵まれた鹿児島県の新茶は、その早さで値が決まるという側面もあります。そのため鹿児島県では、”ゆたかみどり”を始めとし、”さえみどり”や”あさつゆ”などの早生品種の栽培が盛んです。
特に毎年最も早く市場に出回る新茶は「走り新茶」とも呼ばれ、他のお茶よりも一足早く市場を賑わします。
“ゆたかみどり”の味わい
前述の通り”ゆたかみどり”は、強い旨味と渋味を持ち、ハーブや穀物に例えられる独特の香りがあります。この”ゆたかみどり”ですが、そのほとんどが「被せ深蒸し」で作られています。
鹿児島県をはじめ、”ゆたかみどり”を栽培している南の地域は日照時間が長いため、苦味や渋味が強くなる傾向にあります。それを防ぐために、被覆栽培で苦渋味を抑えながら、旨味をより強く育てているのです。
また、被覆栽培を行うことで「覆い香」が付加され、”ゆたかみどり”の独特な香気がマスキングされ、爽やかな香りを作り上げることもできます。
また、煎茶の製造工程である「蒸熱」の時間を長く、深蒸しにすることによっても渋味が抑えられ、濃くまろやかな味わいになります。
バランスの良い渋味と甘味、コクがある深い味わい、美しい水色が魅力的な品種です。
日本茶の品種|やぶきた
“やぶきた”という名称を聞いたことがないあなたでも、知らないうちに必ず飲んでいるお茶。それが日本一生産されている緑茶の品種、”やぶきた”です。
ここでは日本で最もメジャーなお茶の品種、”やぶきた”をご紹介します。
“やぶきた”は緑茶のスタンダード

日本で登録がされているお茶の品種は、2019年時点で119品種。その中でも国内で作られる緑茶の75%以上は”やぶきた”です。(2020年現在)

“やぶきた”の発祥地であり、日本全国に広まるきっかけとなった静岡県ではそのシェアはさらに大きく、90%にものぼります。
もちろん同じ品種でも栽培する土地、育て方、加工法などで多少味が変わるので、「同じ品種=全く同じ味」というわけではありません。
“やぶきた”の特徴
ここまで”やぶきた”が日本中で栽培されるようになった理由は、数々の優れた特徴にあります。
煎茶、碾茶、玉露。あらゆる茶種に適した「品質の高さ」
“やぶきた”は非常に品質が高いことが何よりの特徴です。
肥料や被覆栽培で旨味が乗りやすく、煎茶、碾茶(抹茶の原料茶)、玉露、釜炒り茶など、あらゆる茶種に適性がありました。特に煎茶としての品質は「極めて優れている」と評価されています。
クセがなく青青しいフレッシュな香りを持ち、味は旨味・渋味・苦味のバランスが良く、万人に好かれる味わいです。
強い耐寒性からくる「育てやすさ」
煎茶としての品質に優れた”やぶきた”ですが、非常に育てやすい品種でもあります。
広域適応性品種なので地域を選ばず全国どこでも栽培することができ、南は沖縄から北は新潟まで、日本のあらゆる地域で栽培されています。
お茶は一番茶萌芽後の寒さや霜害に最も警戒しなければならないほか、寒さの厳しい地域では冬季に枯れてしまうこともありますが、”やぶきた”は寒さにも強く、寒さで葉の色が変わったり、枯れたりする凍害を受けにくいのも強みです。
病気や虫害に弱いという特徴はありますが、農薬や畑を作る場所によって克服できるため、日本全国どこでも安定して作れる品種なのです。
安定した品質
今でこそお茶は挿し木で育てるのが普通になっていますが、昔は種を植えて1から育てていました。これを「実生」といいます。
実生の茶樹は育て方などによって品質にばらつきが出てしまい、茶農家が頭を抱えていたところに登場したのが、安定して高品質のお茶が育つ”やぶきた”でした。
お茶は収穫まで3〜10年、植え替えは30〜50年に1度程度とされています。
作物として非常に長いリードタイムを要するお茶の場合、品種選びは茶園の運命を左右する大事な作業。そんな折、安定して高品質なお茶が採れる”やぶきた”に人気が集まったのは必然ともいえます。
生産者の収入に直結する「収量の多さ」
“やぶきた”はもともと収量が多い品種なうえ、凍霜害を受けにくい時期に萌芽するため、他の品種に比べ、安定して多くの収量を望むことができます。
育てやすく、品質も高くて、たくさん収穫できる。それがやぶきたの特徴であり、ここまで日本中に広まった理由です。
品質や収量が安定する分、茶商も仕入れがしやすく、買い手にも困らないことから、1970年代に爆発的に普及し、現在においても不動のトップシェアを誇る、緑茶の超王道品種なのです。
やぶきたの歴史
やぶきたの歴史は1908年(明治41年)に静岡で発見されたことで始まります。
やぶきたとやぶみなみ
当時お茶の研究家だった杉山彦三郎(1857年〜1941年)は、静岡県静岡市で竹やぶを開拓して茶園を作り、お茶に関する様々な研究を進めていました。
ある時、その茶園で優良な茶の木、2本が選抜されました。
選ばれた2本のうち、竹やぶの北側に植えられていた茶の木が「やぶきた」と名付けられ、竹やぶの南側に植えられていた茶の木は「やぶみなみ」と名付けられました。
観察と実験を続けた結果、”やぶみなみ”よりも優良だった”やぶきた”一本に絞り、そこから品種改良を重ねて出来たのが、”やぶきた”です。
一気に広がった昭和時代
何年もの研究の末に生まれた“やぶきた”ですが、実はこの品種、誕生後すぐに高い評価を得られたわけではありませんでした。
茶畑の改植はお金も時間もかかる作業ですし、”やぶきた”が誕生した当時、また「お茶の品種」という考え方は非常に新しく、先祖代々の畑で変わらずお茶を作る生産者が多かったのです。
杉山彦三郎の死後10年以上が経った戦後にやっと高い評価がつきはじめ、1945年に静岡県の奨励品種に指定されたり、1953年に農林水産省の登録品種になったりしたことで、一気に全国に広まり、972年には品種茶園の88%がやぶきたとなりました。
現在は静岡の天然記念物に
100年以上前に発見され、緑茶の歴史を作ったやぶきたの母樹は実は今も存在し、元気に青々とした葉をつけています。
静岡県の天然記念物に指定されたやぶきたの母樹は樹齢110年を超える老木となり、現在は地元の人やお茶好きの観光客などがこの母樹を見に集まっています。