お茶の品種|いずみ
「幻の品種」とも呼ばれ、滅多に出会うことのない希少な品種”いずみ”。
ですがその味わいは抜群。他の品種とは明らかに異なる香りを持ち、一度飲めば忘れられない。そんな品種”いずみ”についてご紹介します。
ごく希少な「幻の品種」
母に紅茶用品種である”べにほまれ”を持ち、元々は釜炒り茶用の品種として生まれた”いずみ”。この品種は「幻の品種」とも呼ばれ、現在では”いずみ”を育てている生産者はごく稀だと言われています。
その理由は、品種が誕生したその直後、輸出向けの釜炒り茶の需要自体が激減してしまった結果、生産者に広まり切らず、日の目を浴びないまま半ば忘れ去られてしまったからなんです。
ですが、その味わいは格別。一度飲んだら忘れられないほど、抜群に華やかなその香りは、人々の心を惹き付けて離しません。
そんな品種だからこそ私たちも”いずみ”に出会うことは本当に稀で、もし飲める機会があれば、思わず期待に胸が高鳴ってしまう。そんな希少で抜群に美味しい品種です。
”いずみ”の特徴
ごく珍しい釜炒り茶用品種
前述の通り、元々は輸出用の釜炒り茶用品種として育種された”いずみ”。釜炒り茶用の品種は、登録されている全119種の中でも6種のみと、非常にレア。
釜炒り茶用の品種が積極的に作られていた1950〜60年台は、お茶の輸出が非常に盛んで、海外向けのお茶が多く作られていたため、”いずみ”もそのニーズに合わせて作られた品種でした。
現在では紅茶がメイン
そんな釜炒り茶用に作られた”いずみ”ですが、開発から長い時を経て、現在では紅茶に加工されたものを非常によく見かけます。
それも当然。”いずみ”のルーツには紅茶用品種である”べにほまれ”があり、となれば紅茶にも適性が高い理由がよくわかります。
紅茶に加工された”いずみ”はコンテストでも高い評価を得ており、その味わいのレベルの高さが広く知られています。
寒さに弱い
そんな抜群の香りを持つ”いずみ”ですが、寒さに弱いという欠点があります。
山間部や北部などでは栽培が難しく、私たちが知っている生産者も、静岡県の温暖な南部や、九州の生産者がほとんどです。
そんな、とにかく希少さが際立つ”いずみ”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”いずみ”の味わい
南国のフルーツのようなトロピカルな香り
私が”いずみ”の紅茶を初めて飲んだ時、その香りの豊かさに驚きました。マンゴーやオレンジ、パインといった南国のフルーツの香りがいっぱいに広がり、その後をミントの様な清涼感のある香りが吹き抜けます。
もちろん産地や生産者によってその味わいは変わりますが、その華やかな香りは共通。他の品種では味わったことのないような芳醇な香りが魅力的です。
渋味は薄く、すっきりとした飲み口も魅力の一つです。
”いずみ”を育てている生産者は、私たちも国内で数軒のみ。その生産量もかなり限られており、文字通り「幻」のお茶となっている”いずみ”。もし出会うことがあれば、真っ先に飲んでみてください。
お茶の品種|べにふうき
近年、世界的に注目が高まりつつある「和紅茶」の中でも、最も多く目にするであろう品種が、この”べにふうき”。
花粉症対策としても有名な、”べにふうき”という品種について紹介します。
日本で初めての紅茶・半発酵茶用品種
普段から日本中の和紅茶を飲む私たちですが、その中でも最も多く出会うのがこの”べにふうき”です。
そもそも日本では、紅茶用の品種はその数自体が少なく、登録されている全119品種の内、紅茶用はたったの13品種のみ。釜炒り茶用の品種や、緑茶用ではあるものの紅茶としての品質が高いものを含めても、20品種ほどしか存在していません。
そんな中でも、紅茶としての品質に優れ、和紅茶の品質向上にも大きく貢献しているこの”べにふうき”。日本で最も人気な紅茶用品種であるこの”べにふうき”の特徴をご紹介します。
”べにふうき”の特徴
アッサム種の血を持つ品種
”べにふうき”は、母に同じく国産の紅茶用品種である”べにほまれ”を。父にインド原産の品種を持つ、紅茶・半発酵茶用の茶品種です。
日本で作られるほぼ全ての茶品種が中国種である中、アッサム種の血が流れるこの品種は、やはり紅茶に加工した際の品質が非常に高いのが特徴的です。
日本の気候に合わせて作られた耐寒性・耐病性
日本で初めて作られた紅茶用品種であるこの品種は、当然、日本の気候でも育てやすいように作られています。
元々温暖な地域で作られるアッサム種の特徴があるため、耐寒性こそ若干低いものの、東海以西の大部分の地域では栽培が可能。耐病性が高いため、無農薬でも育てやすい品種です。
花粉症対策になるお茶
”べにふうき”が一躍有名になった背景の一つに、花粉症対策があります。
”べにふうき”には、「メチル化カテキン」という抗アレルギー作用を持つ成分が非常に多く含まれており、この成分を定期的に摂取することで、花粉症などのアレルギー症状が抑えられることがわかりました。
根本的な治療法のない花粉症の症状を改善できると知り、2000年代に”べにふうき”が一躍有名な品種となりました。
ただし、この「メチル化カテキン」は、茶葉を発酵させてしまうと成分が変化してしまうため、茶葉を発酵させない緑茶の状態で飲むことが推奨されています。紅茶用品種である”べにふうき”を、あえて緑茶で飲まなければ、花粉症対策にならないことには注意してください。
”べにふうき”の味わい
紅茶に適した豊かな香り
アッサム種の特徴を持つこの品種は、加工の過程で発酵を進めることで、非常に多くの香気成分が生まれます。
インドールやリナロール、ゲラニオールなど、大半の緑茶用品種が持ち得ない華やかな香気成分が生まれることで、紅茶としての芳醇で複雑な香りが作り出されるのです。
そのため”べにふうき”の紅茶は、ライチや青リンゴに例えられる爽やかなフルーツの香りや、さつまいものような甘やかな香り、柑橘の酸味を感じる香りなど、産地や生産者によって様々な香りを持っています。
また、アッサム種の特徴としては渋味(カテキン)が強いことも挙げられます。
紅茶ならではの強めの渋味
本来紅茶に加工されることが前提のこの品種。お茶の渋味成分であるカテキン(タンニンとも呼ばれる)の含有量が、通常の緑茶用品種と比べて多い傾向があります。
紅茶として飲むのであれば、あまり渋味は気にならないのですが、花粉症対策として緑茶で飲む場合、通常の緑茶よりも強い渋味に驚かれるかもしれません。
”べにふうき”は品質の高い紅茶!
以上のように、”べにふうき”は紅茶として高い品質を誇る、日本で最初の紅茶用品種です。美味しい和紅茶をお探しの方は、ぜひこの”べにふうき”のものを試してみてはいかがでしょうか?
お茶の品種|あさつゆ
根強い人気を持つ優秀な緑茶用品種
”あさつゆ”は、”やぶきた”と同時期に登録された、非常に古い品種でありながら、現在においても根強い人気のある品種です。年間何百種類ものお茶を飲む私たちも、”あさつゆ”と聞くと期待感がグッと高まるほど、安定感のある美味しい品種です。
”あさつゆ”の特徴
通称「天然玉露」
”あさつゆ”はその強い旨味から、「天然玉露」と喩えられます。「玉露」とは20日以上の被覆栽培を経て作られる、緑茶の中でも最高級のお茶のことで、通常の煎茶にはない、格別に濃厚な旨味が特徴的なお茶。
通常手間暇をかけて作られるこの玉露と同じくらいの旨味が、ただ自然に作るだけで実現することから付いた異名で、それだけ強い旨味を持った品種であることがよく分かります。
寒さに弱い早生品種
”あさつゆ”は”やぶきた”と比べて7日ほど早く摘むことができる早生品種で、摘採時期を広く取ることができるため、農作業の負荷軽減にも役立つ品種です。
ただし、その分寒い時期に新芽が出てしまうため、霜の被害を受けやすく、寒冷な地域や山間部にはあまり向いていません。
耐寒性や耐病性も低いため、九州や静岡県の一部の地域でしか作られておらず、人気はあるものの希少な品種なんです。
そんな、温暖な地域の特権とも言えるような”あさつゆ”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”あさつゆ”の味わい
「天然玉露」と喩えられるだけあり、やはり”あさつゆ”の一番の特徴はその旨味にあります。
滋味深く優しい煎茶
元来テアニン(アミノ酸)の含有量が多く、渋味成分であるカテキンが少ない品種なので、旨味をしっかりを感じられるまろやかな味わいが魅力的です。
その旨味を活かすために、被せや深蒸しで作る場合もあり、その場合は香りが弱まってしまうため、強めに火を入れることで火香を付け、インパクトのある味わいに仕上げる”あさつゆ”も非常に美味しいんです。
香りにもクセがなく、穀物のような柔らかい甘やかな香りが万人に愛されています。
以上のように、”あさつゆ”は「天然玉露」と呼ばれるだけのポテンシャルを持った品種です。もし”あさつゆ”に出会うことがあれば、ぜひ飲んでみてください。
お茶の品種|香駿
FETCのコンセプトでもある「シングルオリジン」。それぞれの品種や生産者の個性を楽しむことができるこのシングルオリジン茶に、ぴったりの個性を持っているのがこの”香駿”という品種です。
今回はこの”香駿”について解説します。
静岡生まれの香りの注目品種!
静岡(駿河の国)で作られた香り高い品種であることから名付けられた”香駿”。
”くらさわ”と”かなやみどり”を交配して生まれたこの品種は、独特の魅力的な香りを持ち、新しいジャンルの日本茶として注目されている品種です。
後述しますが、個性的な香りや加工の幅広さ、そして育てやすさから、2001年に静岡県の奨励品種に採用された上、日本中の生産者から期待を寄せられている、期待の品種なんです。
”香駿”の特徴
個性豊かなシングルオリジン向きの品種
“香駿”は2000年に品種登録され、それ以来静岡県を中心にシェアを伸ばしてきました。
“やぶきた”などのスタンダードな緑茶とは全く異なる香りを持っているため、合組(ブレンド)には不向きという欠点もありますが、裏を返せばシングルオリジン(単一品種)で、魅力的な個性を楽しむのに適した品種です。
産地や生産者によって全く違う味わいのお茶に仕上がるので、それぞれの違いを楽しむのもおすすめです。
煎茶だけでなく紅茶にも
香りに特徴のある“香駿”は、煎茶だけでなく、半醗酵茶や紅茶にも適しています。
煎茶に加工する際も、「萎凋」という工程を経ることで、その華やかな香りが引き出されるこの品種。一般的に煎茶は萎凋をせずに作るのですが、この品種は萎凋香に魅力がある品種なので、煎茶でも萎凋をして作られるケースが多いのも特徴的です。
もちろん、煎茶よりも発酵を進ませて作る半発酵茶や紅茶の場合、“香駿”が持つ独特の香気がより引き出され、素晴らしい香りのお茶に仕上がります。
特に近年、和紅茶の作り手からの注目も高まっており、“香駿”の紅茶が色んな産地で作られるようになりました。
高い耐寒性
“香駿”は、その高い耐寒性から、日本中の多くの茶産地に適性のある品種です。
その香りを活かしたお茶作りができる山間部や、シングルオリジン茶としての販路を持っている生産者には、より適した品種だと言えるでしょう。
以上のように、独特の香気と育てやすさから、日本中から期待を寄せられている“香駿”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”香駿”の味わい
1にも2にも、とにかく香り!
これまでも何度も話した通り、“香駿”の魅力はやはりその香り。
ハーブやジャスミンの様な爽やかな香りを持ち、温度の変化とともにその香りも少しずつ変化していきます。一杯の中で様々な表情を見せてくれるお茶なので、何度でも飲みたくなるような魅力に溢れた品種です。
旨味と渋味のバランスも良く、舌当たりがまろやかな味わいも万人に愛される所以です。
香駿の紅茶は?
紅茶に加工された“香駿”は、前述の爽やかな香りの他に、マンゴーの様なフルーティーな香りや、スイカや野菜のような青さのある香りを持っています。
元々渋味が多くない品種なので、紅茶に加工してもタンニンが薄めの、すっきりと飲める紅茶が多いです。
紅茶は、春・夏・秋と、摘む時期によって味わいが大きく異なるので、時期によって変わる香りと味わいを楽しむのもおすすめです。
以上の様に、煎茶に紅茶に半発酵茶にと、幅広く活躍する“香駿”。これからの茶業界で、間違いなく活躍の場が広がっていく品種ですので、注目しておいてください!
お茶の品種|つゆひかり
近年、その人気がグングンと高まっている緑茶用品種である”つゆひかり”。
あらゆる面で優秀な”つゆひかり”についてご紹介いたします。
”つゆひかり”の特徴
”あさつゆ”と”静7132”を親に持つ、静岡の星
「天然玉露」とも呼ばれ、旨味が豊かな”あさつゆ”と、桜葉のような香りが特徴的な”静7132”を親にもつ”つゆひかり”は、まさに両者のいいとこ取りを実現したハイブリッド品種。
一般的に華やかな香りを持つ品種は、苦渋味が強い傾向にあるのですが、”つゆひかり”はその定説を覆し、旨味と香りを両立させた超優秀な品種なんです!
静岡県で生まれたこの品種は、新たな緑茶の1ページとして生産者の期待を背負い、2001年には県の奨励品種にも採用され、静岡県内で大きく広がりました。
その味わいが評価され、今では全国的に人気の高い、まさに日本茶の未来を担う品種です。
煎茶だけでなく紅茶にも
その香りを生かして、”つゆひかり”は煎茶だけでなく、釜炒り茶や半発酵茶、紅茶に加工されることもあります。
「萎凋」のプロセスを経ることで、華やかな香りが引き出され、ほのかな甘味を感じるお茶に仕上がります。
元来苦渋味が少ない品種なので、紅茶に加工しても渋味が薄く、すっきりと飲みやすい味わいのものが多く見られます。
高い耐病性と耐寒性
”つゆひかり”は病気や害虫、さらには寒さにも強く、日本中のあらゆる茶産地に適応し得る品種です。
寒さに強いので、山間部や北部でも作ることができ、その育てやすさと味わいの優秀さから、採用する生産者が非常に多い品種なんです。
以上のように、どこを取っても長所しか見つからない”つゆひかり”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”つゆひかり”の味わい
育て方によって味わいが大きく異なる
お茶の味わいは、その育て方や加工法によって大きく変化します。特に旨味と香り、2つの個性を持つ”つゆひかり”は、そのどちらの特性を伸ばすか、という生産者のコンセプトが分かれる品種でもあり、人によって大きく味わいが違うのが特徴的です。
①旨味豊かな滋味深い煎茶
その旨味を最大限に引き出すため、被せや深蒸しで作られた”つゆひかり”は、実に旨味が豊かな煎茶に仕上がります。
“やぶきた”と比べると、清涼感のあるすっきりした香りを持つため、旨味は強いのにすっきりと飲めるお茶になるんです。
明るく綺麗な水色のお茶なので、被せ深蒸しにすると、明るい濃緑の美しい水色になることも魅力の一つです。
②甘やかな桜の香りの煎茶
「クマリン」という桜葉を思わせる華やかな香気成分を持つ”つゆひかり”。その香りを生かして作られた煎茶は、透き通るような旨味の中に、ふわっと広がる桜の甘い香りが魅力的です。
山間部では、新芽が柔らかく育つため、香りを活かしやすい浅蒸しで作られる場合が多く、この香りのタイプの”つゆひかり”が多い傾向にあります。
以上のように、どの側面を切り取っても優秀なこの”つゆひかり”。お茶が好きな方には絶対に一度味わってみてほしいお茶です。
お茶の品種|さやまかおり
シングルオリジン茶を探していると、度々見かけるこの”さやまかおり”という品種。
今回は、煎茶向け品種でありながら、その特徴的な香りから、時には紅茶に加工されることもあるこの”さやまかおり”についてご紹介します。
「狭山」で作られた「香り」高い緑茶向け品種
読んで字の如く、埼玉県狭山地区で作られた品種である”さやまかおり”。
品種名の由来は様々ありますが、”藤枝かおり”、”むさしかおり”、”ゆめかおり”など、名前に「かおり」と付く品種は、特徴的な香りを持つ傾向があります。
”さやまかおり”も、青さのあるフレッシュな香りを持つことから、この名前が付けられました。
”さやまかおり”の特徴
”さやまかおり”には、以下のような特徴があります。
圧倒的な収量の生産者の味方!
”さやまかおり”の一番の特徴として挙げられるのが、その収量性の高さ。茶園を眺めていても、その芽数の多さは一眼で”さやまかおり”だとわかるほどです。
品種や育て方によって茶の芽の数は異なり、芽の数を重視する「芽数型」の生産者もいれば、芽の品質を重視する「芽重型」の生産者もおり、そのスタイルは様々なのですが、ごく一般的な話として、生産量が多すぎて困るということはほぼありません。
同じ面積で比較しても、他の品種よりも圧倒的に収穫量が多いこの品種は、生産量を安定させるのに一役買ってくれる、生産者にとってありがたい品種なんです。
優れた耐寒性
狭山は日本の茶産地の中でも比較的冷涼な地域で、そんな地域で作られた”さやまかおり”は、高い耐寒性を持っています。
よほどの高地でなければ、日本中の生産地で栽培することができ、炭疽病を除けば病気や害虫にも強く、全国的に非常に栽培しやすい品種だと言えます。
ただし、温暖な地域での品質は”やぶきた”よりも劣るため、南部の温暖な地域よりも、静岡県の山間部や狭山など、冷涼な地域でよく見られる品種です。
”やぶきた”よりも1〜2日早く摘める中生品種
”さやまかおり”は、”やぶきた”と同じ中生品種ですが、”やぶきた”よりも1〜2日早く摘採時期を迎えます。
お茶の摘採時期は非常に短く、一番茶の時期などは、毎日新芽を摘んでもベストなタイミングに間に合わないこともあるほど。そんな多忙な生産者にとって、たった1日でも摘採時期をずらすことができるというのは、農作業の負荷を軽減する意味でも非常に重要なんです。
収穫量・耐寒性・摘採時期、生産者にとって非常に魅力的な特徴を兼ね備えたこの”さやまかおり”。その味わいは、どんなものなのでしょうか?
”さやまかおり”の味わい
きな粉やゴマのようなドライな香り
香りに特徴のある”さやまかおり”。その香りは”やぶきた”と比較するととても力強く、少しクセがあると感じる人も。
特に「萎凋」させて作られた”さやまかおり”の煎茶は、その香りがより強く引き出され、きな粉のような少し甘さのある香りや、炒りゴマのような香ばしさを伴う香りを持っていて、どこかドライな印象が魅力的なお茶です。
産地によっては、爽やかなハーブ様の香りを持つこともあり、清涼感のある香りに仕上がる場合もあります。
キレのある爽やかな渋味
”さやまかおり”は、”やぶきた”と比べると渋味がやや強い品種です。
一般的に「渋味」と聞くと、ネガティブな印象を持ちがちですが、お茶における渋味は、その味わいを構成する大切な要素の一つ。渋味は味わいに奥行きを与え、余韻やキレを演出してくれるのです。
上手く作られた”さやまかおり”の煎茶は、爽やかな渋味を持っており、適した温度帯で淹れることで、渋味の美味しさを楽しむことができます。
煎茶だけでなく紅茶にも
「萎凋」に適した品種である”さやまかおり”は、煎茶だけでなく紅茶に加工されることもあります。
”さやまかおり”で作られた紅茶は、品種の持つ香りが最大限に引き出され、清涼感のある爽やかな印象に仕上がります。
アッサムやセイロンの紅茶のような、華やかさのある芳醇な香りとは違い、和紅茶らしいすっきりとした味わいの紅茶なので、興味がある方は是非一度試してみてください。
”さやまかおり”はとても優秀!
以上のように、生産者にとっても消費者にとっても良い側面が多いこの”さやまかおり”。
シングルオリジン茶を探す中で出会うことも多い品種だと思うので、気になったからはぜひお試しください!
お茶の品種|おくみどり
日本で四番目に多く作られる緑茶向け品種である”おくみどり”。
今回は旨味の強いパワフルな味わいと、クセのないストレートな香りが人気のこの品種をご紹介します。
日本第4位のシェアを持つ優等生品種!
”やぶきた”、”ゆたかみどり”、”さえみどり”に次いで、日本で四番目に多く作られる緑茶用品種である”おくみどり”。私たちもこの品種を見かける機会は非常に多く、”おくみどり”を作っていない生産者の方が珍しいほどです。
何故ならば、この品種は味・香り・作りやすさ等、あらゆる面でとにかく優秀で、生産者にも消費者にも非常に愛されている品種だからなんです。
それでは、”おくみどり”のどんな点が優秀なのか、一つずつ説明していきます。
”おくみどり”の特徴
優秀な晩生品種
“おくみどり”は、”やぶきた”と比べて摘採期が7日も遅い晩生品種です。遅い品種の中でも後半に摘まれるこの品種。一番茶は”おくみどり”を摘んで終える生産者も非常に多いほどです。
お茶の摘採時期は非常に短く、一番茶の時期などは、毎日新芽を摘んでもベストなタイミングに間に合わないこともあるほど。そんな多忙な生産者にとって、1週間も余裕を持って摘むことができるこの品種は、農作業の負荷を軽減する意味でも、非常に重宝される品種なんです。
ちなみに、「晩生(おくて)」と読む通り、”おくゆたか”、”おくはるか”など、名前に”おく”が付く品種は全て晩生品種です。
高い耐寒性で、全国的に育てやすい
“おくみどり”は高い耐寒性を持ち、日本中のほぼ全ての茶産地で育てることができます。
一部の病気や害虫には弱いため、農薬を使用するなど、その点に注意さえしていれば、日本中で作ることができる品種です。
以上のように全国的に育てやすく、貴重な晩生品種である”おくみどり”が、生産者に愛される理由がよく分かります。
それでは“おくみどり”の味わいはどうでしょうか。
”おくみどり”の味わい
濃厚な旨味とクセのない香り
“おくみどり”の一番の特徴は、その濃厚な旨味です。渋味や苦味が強くなく、アミノ酸(テアニン)の含有量が多いため、まろやかな味わいが魅力的です。
香りにはクセがなく、青葉のすっきりとした香りがあります。火入れによって甘味を引き出し、火香を加えることで、パンチのある力強い味わいの煎茶に仕上げることも。
全体的にクセがないため、”やぶきた”との相性が良く、シングルオリジンでも合組でも重宝されるお茶の一つです。
濃緑の美しい水色
水色の美しさも“おくみどり”の特徴の一つ。被せや深蒸しにすることでその美しさはさらに際立ち、煎茶として抜群に美しい色味のお茶に仕上がります。
色味が重視される茶市場において、高い評価を受けやすい品種なんです。
以上のように、日本各地で作られ、作り手の個性や実力によって様々な味わいを見せてくれる“おくみどり”。
本当に多くの生産者が作っている品種なので、産地や生産者によって飲み比べをしてみるのもおすすめです。
お茶の早生・晩生品種
一年中いつでも美味しく飲むことができるお茶。しかし、お茶は種類や栽培地域によって摘採時期(茶葉が摘み取られる時期)に違いがあることをご存知ですか?
この記事ではお茶の摘採時期についてご紹介します。
お茶の摘採時期はいつ?
一番茶の収穫は、早い地域だと3月下旬から、遅い地域では5月下旬まで行われます。ただしこの摘採時期は、品種・緯度・標高・日照時間などによって少しずつ変わります。農作物の中でもお茶の摘採時期は非常に短く、朝に摘採のタイミングを迎えたお茶は、その夜には固くなり始めてしまうんだとか。そのため、美味しいお茶を作るためには、非常に短い時間で摘み終えなければなりません。
生産者が複数の品種を栽培する目的の一つが、この摘採時期を長く確保するため。
仮にある生産者が栽培するお茶が全て同一の品種だった場合、短い摘採期間に作業が追いつかず、新芽が育ち過ぎて味が落ちたり、葉が固くなったりしてしまう恐れがあります。
複数の品種を栽培することで摘採のタイミングを少しずつずらし、摘採時期を長く確保して初めて、ベストな状態で全ての新芽を摘み取ることができるのです。
「早生」「晩生」って?
お茶には100種類以上の品種があり、品種によって摘採時期が変わるのですが、その中でも「早稲品種」と「晩生品種」があります。
早生(わせ)は摘採時期が比較的早いことで、これに分類される品種を「早生品種」といいます。
晩生(ばんせい・おくて)は早生と逆に摘採時期が比較的遅いことで、これに分類される品種を「晩生品種」といいます。
農家は、早生品種・中生品種(「やぶきた」など摘採の基準になる品種)・晩生品種を組み合わせて栽培することで摘採時期を10日前後にまで広げることができ、これによりすべての茶葉を一番良いタイミングで摘むことができるのです。
鹿児島には「早生」が多い?
温暖な気候を利用して3月下旬から摘採を始める鹿児島県のお茶は、市場に出回るのが日本一早い「走り新茶」として有名です。「走り新茶」は一年で最も早く売られるお茶ということもあり、通常のお茶よりも高い市場価格がつく傾向にあり、少しでも早く出荷を始めるために早生品種で作られることがほとんどです。
日本で二番目に多く作られている品種である「ゆたかみどり」は、代表的な早生品種の一つ。
実は、その大部分は鹿児島県で栽培されており、「ゆたかみどり」の他にも「さえみどり」や「あさつゆ」などの早生品種が多く栽培されています。「走り新茶」を少しでも早く、高値で取引するために、鹿児島では鹿児島では早生品種の栽培が盛んなのです。
代表的な早生品種
早生品種には、さやまかおり・つゆひかり・くりたわせなど数多くの品種がありますが、中でも代表的な品種といえばゆたかみどりとさえみどりです。
さやまかおり
やぶきたより0〜2日早生。濃厚な香りが特徴で、主に静岡県・埼玉県・三重県などで栽培されています。カテキンを多く含むため、比較的渋めの味わい。
つゆひかり
やぶきたより2日ほど早生。茶葉が明るい緑色で美しく、特に静岡は栽培に力を入れています。渋味の中に旨味と甘味が引き立つ爽やかな味わいが特徴。
くりたわせ
種子島などの暖かい地域で栽培されている品種で、早生の中でも特に摘採期が早い「極早生」と呼ばれる品種。キレのある苦味とフレッシュな甘みが特徴。
ゆたかみどり
繁殖力が強く収穫量も多いゆたかみどりは、日本で2番目に作付面積が大きい品種で寒さに弱いので特に鹿児島で多く栽培されています。独自の栽培方法と加工方法で苦味が少なくほどよい甘みとコクがある深い味わいを作り出しています。
さえみどり
育てやすく味のバランスが良い「やぶきた」と、甘みと旨みが強く天然玉露とも呼ばれている「あさつゆ」を掛け合わせた最高級品種。やぶきたの味のバランスの良さにあさつゆの甘みと旨味が加わり、上品で優雅な味わい。
代表的な晩生品種
晩生品種には、かなやみどり・はるみどり・おくひかりなどがありますが、代表的な品種はおくみどりとべにふうきです。
かなやみどり
やぶきたより4日晩生で、主に鹿児島県と静岡県で栽培されています。ミルクのような独特の甘いかおりが特徴的。
はるみどり
やぶきたより6日晩生で、かなやみどりから生まれた品種。煎茶としての品質が極めて高く、高級茶です。
おくひかり
山間部などの寒い地域でも栽培することができる珍しい品種。香りが強く、味もはっきりしています。
おくみどり
作付面積は国内3位で、主に、鹿児島・三重・京都・静岡あたりで栽培されています。
自然な甘さとマイルドな口当たりで後味スッキリの味わいです。香り高いので特にお茶の香りを楽しみたい人におすすめの品種です。
べにふうき
品種登録は平成5年と他の品種に比べて歴史は浅いものの日本茶だけでなく、和紅茶品種としても有名な品種。メチル化カテキンが多く含まれているので、抗アレルギー効果が期待できるお茶として話題になっています。
日本茶の品種|さえみどり
「やぶきた」と「あさつゆ」をかけあわせて生まれた非常に優秀な品種”さえみどり”
日本第3位のシェアを誇る優良品種”さえみどり”はどんな品種なのでしょう。
日本で3番目に多く作られる早生品種”さえみどり”
2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの約4%を占める”さえみどり”は、”やぶきた”、”ゆたかみどり”に次いで3番目に多く作られている品種です。
濃厚な旨味とストレートな香りが特徴的な緑茶用品種”さえみどり”についてご紹介します
"さえみどり"の特徴
さえみどりの特徴は何といっても優れた品質です。
"やぶきた"×"あさつゆ"から生まれた品種
育てやすく収穫量・品質共に優れた”やぶきた”と、甘みと旨みが強く「天然玉露」とも呼ばれている”あさつゆ”。この優良な2つの品種の、良いところ取りで生まれたのが”さえみどり”です。
品質ナンバーワンと称えられる最高級品種で、煎茶のみならず玉露に使われることもあり、なおかつ”やぶきた”に似て収穫量も多いというまさに傑作品種です。
肥料や被覆栽培で旨味をたっぷりと乗せて作られることが多く、クセがないため合組(ブレンド)にも使いやすく、今後に大きな期待がかけられている品種です。
寒さには強いが霜に弱い
“さえみどり”は強い耐寒性を持つ反面、霜の被害に弱く、また耐病性もあまり強くありません。
山間部や北部などの寒冷地では、新芽が出る4月ごろに霜が降りてしまうことがあるため、そういった地域には不向きな品種といえます。
温暖な地域を好む品種なので”さえみどり”ができた当時は、鹿児島県を中心とした南九州で栽培されていましたが、近年ではその高い品質から静岡県や近畿地方でも栽培が進んでいます。
早生品種
“さえみどり”の収穫期は”やぶきた”より5日ほど早く、新茶は4月中旬~5月上旬に収穫される早生品種です。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
鹿児島県など南の暖かい地域では3月下旬に収穫が行われる年もあり、品質が高く、他の品種に先駆けて早く作れることから、温暖な気候に恵まれた地域ではより好まれる品種なのです。
“さえみどり”の味わい
味のバランスが良い”やぶきた”と、甘味と旨味が強い”あさつゆ”の味をうまく引き継いだ”さえみどり”
香りや味は比較的さっぱりしていますが、苦渋味が少なく、濃厚な甘味と旨味が楽しめます。
力強く濃厚な味わいのお茶を好む人は少々物足りなく感じるかもしれませんが、トロッと濃厚な旨味を感じられる上品で優雅な味わいは飲む人を贅沢な時間へいざなってくれます。
また、水色も青みがかった美しい緑色なので、大切なお客様へのおもてなしにもおすすめです。
新茶・一番茶・二番茶って?
アッサム種と中国種
お茶の品種は日本で登録されているだけでも100種類以上。未登録の在来品種や研究中の品種、世界に存在する品種を加えれば、途方も無い数の品種が存在します。
しかし、そんな沢山の品種の元になる木は地球上にたったの2種類です。
お茶の品種は2つだけ?中国種とアッサム種
茶はツバキ科の植物で、学名を「カメリア・シネンシス(Camellia sinensis(L)O.Kuntze)」といい、紅茶も烏龍茶茶も緑茶も、全てこの植物から作られています。
この茶の木は大きく、中国種とアッサム種の2種類に分類されます。そこからそれぞれ派生して、さまざまな品種が生まれているのです。
2019年現在、日本で農林水産省に登録されている品種は119種。茶産地としては比較的冷涼な地域にあたる日本では、栽培されているほぼすべてのお茶が中国種に属しますが、中には中国種とアッサム種が交配して生まれた品種も存在します。
中国種の特徴
中国種は中国の雲南省を原産とする品種で、渋味成分である「カテキン」の含有量が少く、酸化酵素の活性も弱く酸化発酵がしづらいため、緑茶に多く使われる品種です。
アッサム種と比べると茶葉が小さく、最大でも3mほどまでしか伸びない灌木型の品種です。
耐寒性が高く、寒くて乾燥した場所で育つことはもちろんのこと、順応性が高いので暑くて湿度の高い場所でも育つため、日本・中国・台湾や、インドやスリランカの高地などで栽培されています。
日本では”やぶきた”や”ゆたかみどり”、”さえみどり”など、ほぼ全ての品種がこの中国種に属します。
中国種の歴史
お茶の起源は中国。その歴史は紀元前から始まり、神話にも出てくるほど昔からお茶はありました。
お茶の発祥に関しては諸説ありますが、雲南省西南地域で初めて茶の木が発見されたという説が有力です。このころ、お茶の葉は薬として認識されていて、嗜好品として飲まれ始めたのは紀元前59年ごろ。
760年ごろには世界最古のお茶の専門書『茶経』が完成し、飲み方や淹れ方が今のスタイルに近付きます。805年には日本にお茶が伝わり、日本のお茶の歴史はここから始まり今に至ります。
1610年頃にはヨーロッパにも初めてお茶が輸入されます。台湾にお茶が持ち込まれたのは、さらに遅い1810年ごろです。
アッサム種の特徴
アッサム種はインドのアッサム地方を原産とする品種で、渋味成分となる「カテキン」を多く含み、酸化酵素の活性が強く酸化発酵がしやすいため、主に紅茶や烏龍茶に使われる品種です。
中国種と比べると茶葉が大きく、葉面には深くシワが走っているのが特徴です。また、中国種と違い喬木型なので、最大で10mほどまで直立することもあります。
寒さに弱く、高温多湿の気候を好むため、インド・スリランカ・インドネシアなどを中心に栽培されています。
日本で作られる紅茶向け品種である”べにふうき”や”べにひかり”、”べにほまれ”は、アッサム種と中国種を交配して作られた品種です。
アッサム種の歴史
アッサム種は、1823年にインドのアッサム地方で見つかった野生の茶の木です。その歴史は200年と中国種に比べて遥かに短く、非常に新しい品種と言えるでしょう。
1780年代、既にインドでは、輸入した中国種の茶の木の栽培がされていました。
中国種ではなく、自国の野生の茶の木がどこかにないかと探されていましたがなかなか見つかりません。
1823年、イギリス人の植物研究家ロバート・ブルースがインドのアッサム地方に遠征した際に、見たことがない茶の木を見つけました。これが後のアッサム種なのですが、インドの植物学者は「これは茶の木ではなくツバキの木だ。」と判断を下し、茶の木と認められることなく、ロバートは失意のまま亡くなります。
その後、ロバートの意志を継いだ実の弟・チャールズの努力により茶の木と認められ、アッサム種が公に認められました。
1838年、チャールズ監督の元、アッサム種から作られた初の国産緑茶が完成。翌年にはロンドンでオークションにかけられ高値で取引されました。
このことで茶業への期待と関心が高まりますが、アッサム種が発見されたアッサム地方は危険な野生動物や毒蛇が生息しており、開拓が非常に困難な地域。さらにマラリヤやコレラなどの感染症の流行が重なったり、安全な輸送ルートが確保できなかったりと、多くの人々の血と汗が流れました。
その結果、発見から27年後の1850年あたりからお茶の生産も軌道に乗り、東南アジアやアフリカでもアッサム種のお茶の栽培が始まります。
その後紅茶が生まれ、イギリスを中心に世界中に浸透し、今に至ります。
日本茶の品種|ゆたかみどり
この記事では、日本で二番目に作付面積が多い品種”ゆたかみどり”についてご紹介します。
日本で2番目に多く作られる早生品種”ゆたかみどり”
2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの6.5%を占める”ゆたかみどり”は、”やぶきた”に次いで2番目に多く作られている品種です。
穀物やハーブ例えられる独特の香りを持ち、強い渋味と旨味を持ち合わせる緑茶用品種”ゆたかみどり”とは、どんな品種なのでしょう。
“ゆたかみどり”の特徴
“ゆたかみどり”には以下のような特徴があります。
産地は主に鹿児島県、耐病性はあるが寒さに弱い
ゆたかみどりは日本全国の生産量の内、6.5%にしかすぎないのにも関わらず、鹿児島県内では30%近くを占める、大変人気が高い品種です。南国で栽培されることが多く、鹿児島県以外だと宮崎県でもよく栽培されています。
その理由はその耐病性と耐寒性。
“ゆたかみどり”は、カビによる病気「炭そ病」に強いなどの耐病性はあるものの、霜の被害を受けやすく寒さにも弱いため、主に九州の暖かい地域で栽培されています。
繁殖力が強い上に収穫量が多いので、温暖で霜が降りにくい地域の生産者にとっては収入につながりやい品種です。
「被せ深蒸し」に適した品種
“ゆたかみどり”は1966年、鹿児島県の奨励品種に登録されました。
強い旨味を持ちながら、同時に渋味も強いという特徴を持つ”ゆたかみどり”ですが、被覆栽培で「カテキン(渋味成分)」の生成を抑えながら濃厚な旨味を乗せ、「深蒸し」にすることで渋味を抑えてマイルドなコクのある味わいを作り出すのにぴったりな品種だったのです。
今でこそ「美味しい」と評判の鹿児島県のお茶ですが、実は昔「鹿児島のお茶は安かろう、まずかろう」と悪評が立っていた時代がありました。そのイメージを覆し、鹿児島県をお茶の名産地にまで引っ張り上げたのが”ゆたかみどり”だといわれています。
摘採期が早い早生品種
摘採期が早い早生品種で、”やぶきた”より5〜7日以上早く収穫します。
“やぶきた”は立春から数えて八十八夜で新茶を摘みますが、ゆたかみどりは七十七夜で摘むため、他地域・他品種と比べて一足早く全国に流通させることができます。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
日本の南端、温暖な気候と長い日照時間に恵まれた鹿児島県の新茶は、その早さで値が決まるという側面もあります。そのため鹿児島県では、”ゆたかみどり”を始めとし、”さえみどり”や”あさつゆ”などの早生品種の栽培が盛んです。
特に毎年最も早く市場に出回る新茶は「走り新茶」とも呼ばれ、他のお茶よりも一足早く市場を賑わします。
“ゆたかみどり”の味わい
「被せ深蒸し」の旨味と香り
前述の通り”ゆたかみどり”は、強い旨味と渋味を持ち、ハーブや穀物に例えられる独特の香りがあります。この”ゆたかみどり”ですが、そのほとんどが「被せ深蒸し」で作られています。
鹿児島県をはじめ、”ゆたかみどり”を栽培している南の地域は日照時間が長いため、苦味や渋味が強くなる傾向にあります。それを防ぐために、被覆栽培で苦渋味を抑えながら、旨味をより強く育てているのです。
また、被覆栽培を行うことで「覆い香」が付加され、”ゆたかみどり”の独特な香気がマスキングされ、爽やかな香りを作り上げることもできます。
また、煎茶の製造工程である「蒸熱」の時間を長く、深蒸しにすることによっても渋味が抑えられ、濃くまろやかな味わいになります。
バランスの良い渋味と甘味、コクがある深い味わい、美しい水色が魅力的な品種です。