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おくみどりは、やぶきた・ゆたかみどり・さえみどりに次ぐ、日本第4位の栽培面積を持つ茶品種です。農家からも消費者からも高い評価を受けながら、名前を知る人はそれほど多くない。静かに、しかし確実に、日本の高品質なお茶の世界で欠かせない存在になっています。

碾茶(てんちゃ)・抹茶の産地として知られる宇治や西尾では特に評価が高く、玉露・かぶせ茶の生産にも適した品種です。晩生種(おくて)としての収穫タイミングの遅さと、高いテアニン含有量。この二つの特性が、おくみどりを農家にとっても加工業者にとっても価値ある品種にしています。

おくみどりとは?

おくみどりは、1974年に農林認定された日本の茶品種です(茶農林32号)。やぶきたと静岡在来種(静在16号)の交配から生まれた品種で、晩生性、耐寒性、高アミノ酸含有量の組み合わせで選抜されました。

名前の「おく」は「晩生」を意味します。「おくゆたか」「おくはるか」など、名前に「おく」を含む品種はすべて晩生品種です。おくみどりは同じ茶園のやぶきたより約7〜8日遅れて収穫されます。この1週間のズレが農家の仕事を助けます。春の摘採期は非常に短く、少しでも収穫タイミングをずらせる品種があることで、農繁期の負担を分散できるのです。

日本の茶品種栽培面積ランキングで4位に位置するおくみどりですが、実際の存在感は数字以上かもしれません。碾茶産地への集中度が高いため、高品質・高価格帯の市場に頻繁に登場する品種です。

抹茶とおくみどり

抹茶においておくみどりが重視されるのは、被覆栽培で旨味が乗りやすく、渋味が出にくく、挽いた後も深い緑を保ちやすいからです。きめ細かな葉質もなめらかな口当たりにつながり、上質な抹茶づくりと相性が良い品種です。

まず葉質。おくみどりの葉は細胞壁が薄く、細かい構造を持つため、石臼で均一に挽けます。繊維質の粗い品種は粒度にムラが出やすく、点てたときの口当たりや泡立ちの細かさと均一さに影響します。おくみどりの葉質の細かさが、なめらかに分散する抹茶を生み出す一因です。

次にテアニンの含有量。おくみどりは、被覆栽培茶の旨味と甘味のもとになるアミノ酸・テアニンを豊富に含んでいます。碾茶(抹茶の原料となる、蒸して乾燥させた茶葉)をおくみどりで作ると、高いテアニン含有量がまろやかで甘味のある抹茶を生み出します。渋味は控えめ、苦味も穏やか。口の中で広がるのは、舌の上にゆっくりとのる旨味の甘さです。

そして色の保持力。石臼で挽いた後、おくみどりの抹茶は鮮やかな深いグリーンを保ちます。日本の茶市場では抹茶の色が評価基準の一つですが、品種によっては挽いた後に酸化が進んで色がくすみやすいものもあります。おくみどりは天然の色素安定性が高く、見た目の鮮やかさが長持ちします。

こうした理由から、宇治(京都)と西尾(愛知)の碾茶・抹茶産地においておくみどりは広く使われています。「宇治抹茶」「西尾抹茶」と表記された商品の多くに、おくみどりが含まれています。

おくみどりの味わい

おくみどりの味わいは、厚みのある旨味が最初に広がり、そのあとをやわらかな甘味が追い、渋味は控えめに収まるのが持ち味です。口当たりは丸く、飲み込んだ後にも青く澄んだ香りと静かな余韻が残ります。

抹茶として点てると、まろやかでふっくらとした飲み口になります。旨味の甘味が舌の上に広がり、苦味に転じることなく余韻として残ります。点てたときの香りは青く清澄で、藁や草原を思わせる爽やかさがあります。薄茶(抹茶1.5〜2gを60〜70mLのお湯で点てる)でも、濃茶(3〜4gを30〜40mLで点てる)でも、テアニンの高さが深みと甘味を支えます。

煎茶として飲む場合、被覆栽培ありのものとなしのもので性格がかなり変わります。被覆なし(露天栽培)でも旨味のコクはありますが、かぶせ栽培(収穫前7〜10日間の遮光)を加えると、旨味が一段と深くなり玉露に近い方向に動きます。葉の色は深い翠緑。水色(すいしょく)は透明感のある鮮やかな緑です。

産地

おくみどりの分布は、碾茶・玉露の産地分布とほぼ重なります。高品質抹茶の中心地である宇治(京都)・西尾(愛知)が高品質碾茶の主要産地として知られており、鹿児島・三重・福岡でも栽培が広がっています。晩生性と耐寒性が品質と同じく評価されています。

おくみどりは被覆栽培との相性が特に良い品種です。収穫前2〜4週間、遮光資材(よしず・化繊素材)で茶樹を覆い光合成を抑制することでテアニンが蓄積します。この遮光ストレスへの反応が優れた品種ほど、高品質な碾茶や玉露が生まれる。おくみどりはその点で安定した成績を示す品種の一つです。

やぶきたとの違い

やぶきたと比べると、おくみどりの違いは収穫時期の遅さだけではありません。旨味の厚み、渋味の出方、被覆栽培への反応が異なり、とくに抹茶や玉露のように甘味と色を重視するお茶で個性がはっきり表れます。

おくみどり vs やぶきた:主な違い
比較項目 おくみどり やぶきた
収穫タイミング 約7日遅い(晩生種) 基準タイミング(参照点)
テアニン含有量 高い 中程度
被覆栽培への反応 優れている(テアニン大幅増) 良い
抹茶・碾茶適性 非常に高い(高品質抹茶の主要品種) 良い(日常抹茶に一般的)
渋味 低い 中程度
産地分布 宇治、西尾、鹿児島、三重、福岡 全国(ほぼ全産地)
主な用途 抹茶、玉露、碾茶、かぶせ茶 煎茶、ほうじ茶、万能品種

よくある質問

ここでは、私たちがおくみどりについてよくいただく質問をまとめました。抹茶としての位置づけや、煎茶として楽しめるかどうかなど、購入前や飲み比べの前に気になりやすいポイントを短く整理しています。

おくみどりの抹茶は高級品ですか?

高品質な抹茶に使われる品種の一つです。ただし「高級かどうか」は品種だけでは決まらず、産地・栽培方法・加工精度・品種の組み合わせが総合的に影響します。おくみどり単品でも優れた抹茶になりますが、多くの高級抹茶はさえみどりやごこうなど複数の品種をブレンドして味を組んでいます。おくみどりを使った抹茶の品質については、別記事もご参照ください。

おくみどりの煎茶はありますか?

あります。碾茶産地以外の鹿児島や三重などでは、おくみどりを露天(被覆なし)で栽培した煎茶も生産されています。旨味が豊かで渋味が少なく、コクのある煎茶として評価されます。さらに玉露スタイルでかぶせ栽培したものは、旨味の深さが際立ちます。おくみどりの汎用性の高さは、抹茶用途にとどまらないところにもあります。おくみどりのお茶を実際に味わってみたい方は、私たちの日本茶コレクションをぜひご覧ください。