緑茶を一口飲んだとき、口の奥に広がるあのすっきりした渋味——その正体がカテキンです。カテキンは茶葉に含まれる「ポリフェノール」の一種で、渋味や苦味の主成分であると同時に、抗酸化作用をはじめとする研究が最も進んでいる成分のひとつでもあります。
中でも「EGCG(エピガロカテキンガレート)」は全カテキンの50〜60%を占め、世界中の研究者が注目してきた化合物です。ただし、カテキンの効果を正しく理解するには、「試験管の中での結果」と「お茶を飲んで実際に得られること」の間にある距離感を知っておくことが大切です。カテキンの種類・効果・栽培や淹れ方との関係を、研究の現状とあわせて整理します。
カテキンの4種類と緑茶での役割
カテキンは1種類の物質ではなく、構造が少しずつ異なる4種類の化合物の総称です。
| カテキン種(略称) | 全カテキンに占める割合 | 特徴 |
|---|---|---|
| エピガロカテキンガレート(EGCG) | 50〜60% | 最も多く、最も研究が進んでいる抗酸化成分 |
| エピガロカテキン(EGC) | 約20% | 2番目に多い。抗酸化・抗菌の研究対象 |
| エピカテキンガレート(ECG) | 10〜15% | 渋味への寄与が大きい |
| エピカテキン(EC) | 5〜10% | 渋味は穏やか。心血管系の研究に注目 |
出典:Cabrera et al. 2006, Journal of the American College of Nutrition
4種のうち、EGCGとECGは「ガレート型」と呼ばれ、渋味が強く、抗酸化能も高いとされています。EGCとECは「非ガレート型」で、渋味は控えめ。緑茶を飲んだときに感じるあの引き締まる感覚は、主にガレート型カテキンが唾液中のタンパク質と結合することで起きています。
また、カテキンは酸化に弱い成分です。茶葉が発酵・酸化する工程(烏龍茶や紅茶の製造)では、カテキンが重合して「テアフラビン」や「テアルビジン」という別の化合物に変わります。これが紅茶の赤褐色と、緑茶とは異なるまろやかな渋味の正体です。緑茶の成分全体については、別の記事でもまとめています。
カテキンの効果 — 研究で示されていること
カテキン、とりわけEGCGに関する研究は世界中で数千本に及びます。主要な研究領域と、現時点でわかっていることを整理します。
抗酸化作用
EGCGは試験管内の実験で高い抗酸化能を示すことが確認されています。フリーラジカル(体内の不安定な活性酸素)を電子を供給することで無害化する仕組みです。初期の研究ではビタミンCやEを大きく上回る抗酸化能が報告されましたが、ヒトが実際にお茶を飲んだ場合に同様の効果が得られるかは、まだ研究が続いています(Higdon & Frei, 2003)。緑茶の抗酸化作用全体については、緑茶の抗酸化作用でより詳しく解説しています。
抗菌作用
EGCGは試験管内でO-157や一部のインフルエンザウイルス、肺炎マイコプラズマなどに対して抗菌活性を示すことが報告されています。日本では緑茶でのうがいと風邪予防との関係を調べた研究もあります。ただし、実験室での結果がそのままヒトの体内でも再現されるわけではなく、飲用での効果については引き続き研究中です。
コレステロールへの影響
緑茶を習慣的に飲む人でLDLコレステロール(いわゆる「悪玉」コレステロール)が低い傾向があるという疫学研究があります。Zheng et al.(2011)のメタ分析では複数の研究を統合してLDLの穏やかな低下を確認しています。ただし、一杯のお茶で劇的に数値が変わるというほどの効果ではありません。
消臭・抗菌(口腔内)
カテキンを含むガムや洗口液が口臭を抑えるとする研究も発表されています(Miki Ui et al. 1991)。茶殻を置くと臭いが気になりにくい、という経験則とも重なります。
体内での吸収について
研究の数が多い一方で、EGCGは吸収率が低いことがわかっています。飲んだ量の2〜5%程度しか血流に乗らないとされ、研究で使われる投与量は一般的な飲用量をはるかに超えることが多いです。試験管や動物実験の結果を、毎日の飲用に直接あてはめることには慎重さが必要です。
カテキンを含む成分全体の健康への関連については、緑茶の健康効果の記事で疫学的な観点からまとめています。こちらもあわせて読むと理解が深まります。
お茶の種類とカテキン量の違い
同じ「緑茶」でも、カテキン量は栽培方法と製法で大きく変わります。鍵になるのが日光の量です。
| 茶種 | カテキン量の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 煎茶(露天栽培) | 高め | 日光をよく浴びることでカテキン合成が促進 |
| 番茶(成熟葉) | 高め | 長期間の日光露天栽培、成熟葉に多い |
| 玉露(被覆栽培) | 低め | 遮光でカテキン合成が抑制、テアニンが増加 |
| 抹茶(被覆栽培・丸ごと摂取) | 中程度(ただし全量摂取) | 被覆で葉中量は少なめだが、粉末を丸ごと飲むため総摂取量は多い |
| 烏龍茶 | 遊離カテキンは少ない | 半発酵でカテキンがテアフラビンに変化 |
| 紅茶 | 遊離カテキンは最少 | 完全発酵でほぼテアフラビン・テアルビジンに転換 |
ここで見えてくるのが、カテキンとテアニンのトレードオフです。日光が当たると、茶葉の中でテアニン(旨味・甘味の成分)が光合成によってカテキンに変換されます。つまり日光が多いほどカテキンが増え、テアニンが減る。被覆栽培はこの逆で、日光を遮ることでテアニンを豊富なままに保ちます。
「被覆栽培」(収穫前に遮光シートで日光を遮る栽培法)の詳細は、被覆栽培の記事で読めます。カテキンが豊富な煎茶については煎茶の記事も参考になります。
また、ほうじ茶の場合は少し事情が異なります。煎茶や番茶を高温で焙煎する際、熱に敏感なカテキンの一部が変性します。渋味が少なく飲みやすいのはこのためで、ほうじ茶の成分については別の記事でまとめています。
淹れ方でカテキン抽出量はどう変わるか
カテキンは熱に溶けやすい成分です。お湯の温度が高いほど、また浸出時間が長いほど、より多くのカテキンが出てきます。これは渋味と表裏一体の関係で、カテキンを多く出せば渋味も強くなります。
一方、テアニンは低温でも溶け出します。低めの温度で淹れると、カテキンより先にテアニンが溶け出すため、旨味・甘味の印象が強い一杯になります。
- 高温(80〜90℃)で淹れる → カテキンが多く抽出。キレのある渋味。夏の二番茶・三番茶と組み合わせると特に高くなる
- 低温(60〜70℃)で淹れる → テアニンが優位。甘味と旨味が前面に。玉露や高級煎茶の淹れ方
- 水出し → カテキンはほとんど出ない。まろやかでほぼ渋味のない一杯に
- 浸出時間を延ばす → カテキン・渋味が増す(2〜3分以上でぐっと濃くなる)
摘採時期も関係します。一番茶(春摘み)は冬を越してテアニンを蓄えた新芽が中心で、甘味が強く出ます。二番茶・三番茶(夏〜秋摘み)は日光をより多く浴びたぶんカテキンが多く、渋味が強め。カテキンを意識するなら、遅摘みの茶葉を高めの温度で淹れるのが効率的です。
温度と成分の関係はお茶と温度の記事で詳しく読めます。抹茶の場合は茶葉を丸ごと粉末にして飲むため、カテキンを葉の中に残さず摂取できます。抹茶の成分については抹茶・碾茶の記事もどうぞ。
よくある質問
カテキンとタンニンは同じもの?
カテキンとタンニンはよく混同されますが、別の概念です。タンニンは「渋味をもたらすポリフェノール系化合物の総称」で、カテキンはその中に含まれる一種類(またはグループ)です。お茶の渋味成分をまとめて「タンニン」と呼ぶことがありますが、正確にはカテキンが主体です。
加熱するとカテキンは壊れる?
カテキンは熱に安定した成分で、高温のお湯でも基本的に壊れません。むしろ高温ほどよく溶け出します。ただし長時間の過熱や強アルカリ環境では分解が起きることがあります。普段の淹れ方の範囲では問題ありません。
緑茶でのうがいに効果はある?
日本では緑茶でのうがいと風邪・インフルエンザ予防の関係を調べた研究がいくつかあります。茶カテキンの口腔内での抗菌作用を利用したもので、一定の関連が報告されています。ただし医薬品としての効果が認められているわけではなく、日常的なうがい・手洗いの補助的な習慣として参考にする程度がよいでしょう。
カテキンは、お茶の成分の中でも研究の蓄積が特に多い物質です。私たちがお茶を選ぶとき、「カテキンを多く摂るには煎茶を高めの温度で」「うまみをじっくり楽しみたいなら低温で」という判断ができるようになると、一杯の使い方の幅が広がります。
カテキンと並んでお茶の味を形作るテアニン(うまみ成分)やカフェインとの関係も読むと、成分の全体像が見えてきます。茶葉のコレクションでは、カテキン豊富な煎茶から、テアニン重視の被覆茶まで、さまざまな茶葉を揃えています。
この記事に含まれる健康関連の情報は、公開されている研究をもとに教育目的でまとめたものです。医療上のアドバイスではありません。健康に関するご不安や判断については、医療専門家にご相談ください。
参考文献
- Cabrera, C., Artacho, R., & Giménez, R. (2006). 緑茶の有益な効果(レビュー). Journal of the American College of Nutrition, 25(2), 79–99. PubMed: 16582024
- Higdon, J. V., & Frei, B. (2003). 茶カテキンとポリフェノール:健康効果・代謝・抗酸化機能. Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 43(1), 89–143. PubMed: 12587987
- Manach, C. et al. (2004). ポリフェノール:食品中の存在と生体利用性. American Journal of Clinical Nutrition, 79(5), 727–747. PubMed: 15113710
- 文部科学省(2020年). 日本食品標準成分表(八訂). 文部科学省 食品成分表
- 農林水産省(2023年). 茶をめぐる情勢. 農林水産省 茶産業
