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同じ煎茶でも、70°Cと90°Cでは別のお茶になります。低温なら旨味と甘味が前面に出て、高温なら渋味とカフェインが引き立つ。温度はお茶の味を変える、最もシンプルで強力な変数です。

お茶の種類によって適温が違うのは、それぞれの茶葉に含まれる成分の出やすさが温度によって変わるためです。適温を知れば、同じ茶葉でも自分好みの一杯に調整できます。

お茶の種類適温抽出時間味わいの特徴
玉露50〜60°C90〜120秒旨味が前面、甘く濃厚
かぶせ茶60〜70°C60〜90秒旨味と渋味の中間、まろやか
煎茶70〜80°C60〜90秒甘味と渋味のバランス、緑の香り
玄米茶80〜90°C30〜60秒穀物の香ばしさ、まろやか
ほうじ茶90〜100°C30〜45秒香ばしく軽い、渋味少ない
烏龍茶90〜95°C45〜90秒花の香り、層のある味わい
紅茶95〜100°C180〜300秒コクと渋味、力強い

温度で味が変わる理由 — 成分の抽出量の違い

お茶の味は、茶葉に含まれる3つの成分のバランスで決まります。旨味・甘味を作る「テアニン」(お茶特有のアミノ酸)、渋味の主成分である「カテキン」、そして苦味とカフェイン感を作る「カフェイン」。この3つが温度によって溶け出す量がまったく異なるのです。

テアニンは低温でも時間をかければ抽出されます。一方、カテキンとカフェインは低温ではほとんど溶け出さず、80°Cを超えたあたりから急速に増えます。だから低温で淹れると旨味と甘味が際立ち、高温では渋味と苦味が前面に出るのです。

温度と時間によるテアニンの抽出量の変化
テアニンの抽出量(大森正司『お茶の科学』より)
温度と時間によるカテキンの抽出量の変化
カテキンの抽出量(大森正司『お茶の科学』より)
温度と時間によるカフェインの抽出量の変化
カフェインの抽出量(大森正司『お茶の科学』より)

参考文献:大森正司『お茶の科学 -「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ』講談社, 2017

煎茶・玉露の適温 — 低温で旨味を引き出す

緑茶の中でも特に適温管理が大切なのが、玉露と煎茶です。どちらも「旨味が持ち味のお茶」ですが、旨味の濃さが違うため、適温にも差があります。

玉露は50〜60°Cが適温。被覆栽培(収穫前に日光を遮って育てる方法)によってテアニンが豊富に蓄積された茶葉なので、低温でゆっくり旨味だけを引き出します。90〜120秒かけて、海苔のような磯の香りと濃厚な旨味をじっくり楽しむのが玉露の正しい飲み方です。熱いお湯を使うと、せっかくの旨味がカテキンの渋味に埋もれてしまいます。

煎茶は70〜80°Cが目安。旨味と渋味のバランスが持ち味のお茶なので、両方が適度に出る温度帯を使います。60°Cまで下げれば旨味が強調され、80°Cに近づけるほど渋味がキレよく出て、すっきりした飲み口になります。煎茶の淹れ方では、好みに合わせた温度の調整も詳しく紹介しています。

玉露と煎茶の中間に位置するのがかぶせ茶です。被覆期間が玉露より短いため旨味のポテンシャルは少し低く、適温も60〜70°Cとやや高め。旨味とほどよい渋味が共存する、まろやかな味わいが特徴です。急須は急須の選び方も参考になります。

紅茶・烏龍茶の適温 — 高温で香りを立てる

紅茶は95〜100°C、烏龍茶は90〜95°Cと、どちらも高温で淹れます。緑茶の話と矛盾するように聞こえますが、理由は茶葉の成分構成の違いにあります。

紅茶は完全酸化させた茶葉で、製造工程でアミノ酸の多くが酸化・重合して別の成分に変化しています。緑茶のような旨味成分は少なく、テアフラビンやテアルビジンといった酸化物が渋味とコクを作ります。これらの成分は高温でこそよく溶け出し、紅茶らしい力強い味と香りが生まれます。沸騰したお湯で180〜300秒かけてしっかり抽出するのが基本です。

烏龍茶は半発酵茶で、緑茶と紅茶の中間的な成分構成。90〜95°Cの高温で淹れることで、花のような香気成分が立ちやすくなります。香気成分は揮発性が高く、高温でこそよく開くため、烏龍茶も高温が向いています。45〜90秒という短めの抽出時間で、香りが際立つ一杯になります。烏龍茶の淹れ方も参考にしてみてください。

水出し — 時間が温度の代わりをする

温度を使わずにお茶を淹れる方法が、水出し(冷水抽出)です。低温でもテアニンは時間をかければ十分に抽出されます。カテキンとカフェインは低温ではほとんど溶け出さないため、渋味と苦味を抑えた、甘くまろやかなお茶に仕上がります。

目安は冷水(5〜15°C)で3〜8時間。緑茶なら特に旨味が引き立ち、玉露の水出しは夏の定番になっています。ほうじ茶や烏龍茶の水出しも、香ばしさや花の香りが穏やかに出て、暑い季節に向いています。詳しい作り方は水出し・氷出し茶の作り方にまとめています。

よくある質問

Q. お湯が熱すぎるとお茶はどうなりますか?
カテキンとカフェインが大量に溶け出し、渋味と苦味が強くなります。80°Cを超えると溶出が加速するため、繊細な旨味が渋味に埋もれやすくなります。特に玉露や高品質な煎茶では顕著です。

Q. 温度計がなくても適温にする方法は?
沸騰したお湯(100°C)を湯冷ましに移すたびに約10°C下がります。急須に移すときにもさらに下がるため、1〜2回移し替えると70〜80°C前後になります。玉露なら3回移し替えて50〜60°Cを目安にすると、旨味の引き出しやすい温度帯に入ります。

Q. 紅茶と緑茶で適温が違うのはなぜですか?
緑茶は旨味のテアニンを活かすために低温を使いますが、紅茶は酸化によってアミノ酸が変化しており、高温でこそ風味成分がよく溶け出します。お茶の種類ではなく、茶葉の成分構成によって適温が決まります。

温度を変えると、お茶が変わります

温度は、道具も茶葉も買い替えずに今すぐ試せる、最も手軽な味の調整手段です。同じ煎茶を70°Cで淹れるか80°Cで淹れるかだけで、別のお茶を飲んでいるような印象の違いが生まれます。

私たちFETCが産地で茶農家の方々と話すとき、「この茶葉は何度で飲むのが好きですか」という問いが会話の糸口になることがあります。適温はあくまで目安。温度を自分で動かしながら、同じ茶葉の表情の変化を楽しむのが、お茶の醍醐味の一つです。茶葉を試してみたい方は茶葉コレクションもご覧ください。

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