富士山の裾野から太平洋まで、静岡県は茶畑の広さだけでいえば日本一です。国内の茶畑のおよそ3分の1が、この一つの県に広がっています。
静岡茶は静岡県内で生産されるお茶の総称です。煎茶・深蒸し煎茶を中心に、てん茶・玉露も産します。日本のお茶産地の中で、生産量でも鹿児島県と並ぶ二大産地の一つです。
静岡茶とは
静岡県の荒茶生産量は、2025年(令和7年)が約24,100トンで、全国(推計)約75,100トンの約32%でした。2023年は全国一でしたが、2024年からは鹿児島県が上回っています(2025年は約30,000トン)。茶の栽培面積は約11,600ヘクタールで全国の約35%を占め、今も国内最大です(いずれも農林水産省 作物統計)。産地は県内に広く分布し、太平洋岸の温暖な地域から富士山麓の寒冷地まで、多様な環境で茶が育っています。
生産量が多いだけでなく、茶の種類も多様です。標準的な煎茶に加え、通常より長く蒸すことで茶葉を細かく砕いた「深蒸し煎茶」は静岡発祥の技術。甘味と旨味が強く、茶湯の色が濃い深緑になるのが特徴で、今では全国で生産されています。
| 種類 | 特徴 | 主な産地(静岡内) |
|---|---|---|
| 煎茶 | 爽やかな渋味と旨味のバランス、青みのある香り | 本山・安倍川流域 |
| 深蒸し煎茶 | 渋味控えめ、濃い旨味と甘味、濃緑色の茶湯 | 掛川・磐田・袋井 |
| てん茶 | 抹茶の原料。被覆栽培の若葉 | 島田・川根 |
| 玉露 | 被覆栽培による旨味、渋味が少ない | 島田周辺(少量) |
静岡茶の代名詞でもある煎茶の特徴や製法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
気候と産地の条件
静岡が茶の一大産地になった理由は、地理の多様性にあります。一つの県の中に、太平洋沿岸の温暖な平地から、富士山・南アルプスの山間部まで、様々な気候帯が存在します。
富士山麓の火山性土壌は、水はけが良く、ミネラルを豊富に含んでいます。特に「御殿場」周辺の高地では、昼夜の寒暖差が大きく、煎茶に適した凝縮した旨味を生み出します。
太平洋沿岸の牧之原台地は、温暖な気候と日当たりの良さを生かした煎茶の一大産地です。広大な茶畑が台地上に広がり、機械化が進んでいる地域でもあります。深蒸し煎茶の産地として知られる掛川周辺や、井村製茶も、この台地周辺に位置しています。
本山(安倍川流域)・天竜・川根など、山間部の産地は急斜面と霧を生かした煎茶を産します。小規模ながら品質評価が高く、「高山茶」として珍重される茶が多い地域です。
静岡茶の歴史
静岡での茶栽培の起源は室町時代に遡りますが、本格的な産地としての発展は江戸時代からです。徳川幕府の庇護のもと、駿府(現・静岡市)周辺での茶の栽培が奨励されました。
静岡茶が全国的な規模になったのは、明治時代の輸出産業としての成長がきっかけです。1859年(安政6年)の横浜開港後、緑茶は日本の主要輸出品の一つとなり、静岡は輸出向け緑茶の最大産地として急成長しました。アメリカや欧州への輸出が急増し、牧之原台地の開拓(旧幕臣による茶畑開墾)がこの時期に進みました。詳しくは明治・大正時代の茶の歴史をご覧ください。
輸出主導の時代が終わった後も、静岡茶は国内市場の主力産地として地位を保ちました。機械化の早期導入、品種改良(やぶきた)の普及、深蒸し煎茶という新技術の開発——こうした産業としての適応力が、静岡茶の規模を支え続けています。
品種:やぶきたと静岡茶
全国の茶園面積の64%(農林水産省調べ、令和7年度)を占める主力品種「やぶきた」は、静岡県が発祥です。明治末期(1908年)に静岡の茶農家・杉山彦三郎が在来種の中から選抜育成した品種で、1953年に国の「農林登録品種(茶農林6号)」として認定、1955年には静岡県の奨励品種に指定されて全国に普及しました。
やぶきたが全国に普及した理由は、栽培のしやすさと安定した品質にあります。耐病性が高く、収量が安定しており、煎茶に適した味わいのバランスがあります。現在では全国の茶産地でやぶきたが主力を占めるようになっていますが、発祥地の静岡では多様な品種への取り組みも進んでいます。静岡の品種への向き合い方は、藤枝かおりの名手〈中山製茶〉の記事を読むと理解が深まります。
品種についての詳しい解説は、やぶきたの記事をあわせてご覧ください。
おわりに
静岡茶の魅力は、スケールの大きさだけではありません。本山の山間茶、掛川の深蒸し、御殿場の高地茶——一つの県の中に、これほど多様な個性のお茶が共存しています。
私たちFETCは、静岡の豊かな茶の多様性を大切にしています。日本茶の基本を知るうえでも、静岡茶は最良の出発点のひとつです。ぜひ私たちの日本茶コレクションもあわせてご覧ください。
よくある質問
静岡茶は日本で一番よいお茶ですか?
静岡は、鹿児島と並ぶ日本の二大茶産地の一つです。日本茶の基本を知るうえでも、静岡茶は最良の出発点のひとつです。その強みは多様性です。山間部から温暖な平地まで、煎茶や深蒸し煎茶をはじめ、さまざまな個性のお茶が一つの県で作られています。
深蒸し煎茶とはどんなお茶ですか?
深蒸し煎茶は、通常の煎茶より長く蒸すことで茶葉を細かく砕いたお茶です。渋味が控えめで、旨味と甘味が強く、茶湯は濃い深緑色になります。掛川は、その代表的な産地です。
静岡茶はどのように選べばよいですか?
好みの味わいから選んでみてください。渋味が控えめで、濃い旨味と甘味、濃緑色の茶湯を求めるなら、掛川周辺の深蒸し煎茶が向いています。本山や川根などの山間部では、斜面と霧を生かした煎茶が作られています。
静岡は抹茶でも知られていますか?
静岡では、抹茶の原料となるてん茶を主に島田・川根で生産していますが、代表的なお茶は煎茶と深蒸し煎茶です。山間部の本山茶、掛川の深蒸し煎茶、御殿場の高地茶など、一つの県の中で多様なお茶が共存しています。私たちFETCは、日本茶の基本を知るための出発点の一つとして静岡茶をおすすめしています。ぜひ私たちの日本茶コレクションもあわせてご覧ください。





