湯のみを顔に近づけると、甘みが先に来ます。煎茶の青々とした鋭さとは少し違う、穏やかで丸みのある甘さ。それでいて、玉露のような深い旨味の重さもない。かぶせ茶はそのちょうど中間に位置する緑茶です。
「かぶせ」という名前は、茶葉に布や資材を「かぶせる」ことに由来します。収穫前の7〜14日間、茶樹を遮光することで、煎茶には出にくい旨味と甘みが引き出されます。完全に覆う玉露ほど濃密ではなく、露地栽培の煎茶ほど爽快でもない。かぶせ茶はそのふたつのいいところを合わせ持つ、日本茶の中でも独特の立ち位置にあるお茶です。
かぶせ茶とは — 7〜14日間の被覆が変える味
かぶせ茶は、摘採の約7〜14日前から遮光して育てた緑茶のことです。光を遮ることで、茶樹はアミノ酸(テアニン)をカテキンに変換する速度が落ち、旨味成分が葉の中に蓄積されます。結果として、渋みが抑えられ、甘みと旨味が前面に出てきます。
日本茶の大部分は露地栽培(遮光なし)の煎茶です。玉露は20日以上の長期被覆で、旨味が際立つ高級茶。かぶせ茶はその中間。被覆期間が短いぶん、価格は玉露より手が届きやすく、それでいて煎茶にはない深みがある。被覆茶のはじめの一歩として、多くの方に親しまれています。
液色は煎茶よりわずかに濃く、透明感のある薄緑がかった黄金色。口に含むと、煎茶の爽快さと玉露の甘さが重なり合うような、落ち着いた味わいが広がります。温度によって表情が変わりやすく、自宅でも工夫しやすいお茶です。
かぶせ茶と玉露・煎茶の違い
同じ「チャノキ」(Camellia sinensis)から作られる三種類のお茶ですが、被覆期間の違いが、味わいをはっきりと変えます。
| お茶の種類 | 被覆期間 | 味わい | カフェイン(100mLあたり) | 価格帯 |
|---|---|---|---|---|
| 煎茶 | なし(露地栽培) | 爽快・青々・程よい渋み | 約20mg | 低〜中 |
| かぶせ茶 | 7〜14日間 | 甘み・軽い旨味・渋みが控えめ | 約30mg | 中 |
| 玉露 | 20日以上 | 深い旨味・まろやか・渋みほぼなし | 約160mg | 高 |
かぶせ茶は煎茶に近い製法と価格帯ながら、味わいは被覆側に大きく寄っています。煎茶の爽快な渋みが和らぎ、甘みと旨味が自然に感じられる。玉露のような濃密さや低温でゆっくり引き出す手間は必要ありません。被覆茶の世界に入るためのちょうどよい入口です。
被覆期間の違いや遮光率の科学については、被覆栽培のガイドに詳しくまとめています。玉露との比較については、玉露の解説記事もあわせてどうぞ。
かぶせ茶の製法
かぶせ茶の栽培と製造のプロセスを分けて考えるとわかりやすいです。製造工程は煎茶と同じ「蒸し製」。違いは摘採前の「被覆」の部分にあります。
被覆方法は「直掛け(じかがけ)」と呼ばれる手法が主流です。遮光資材を茶樹の上に直接かぶせ、日光を約50%カットします。玉露の「棚掛け(たながけ)」のように資材を茶樹の上方に張り上げる方式よりもシンプルで、遮光率は低め。それでも、7〜14日間の被覆は葉の成分を変えるのに十分な時間です。
摘採後は、煎茶と同じ工程をたどります。蒸し→粗揉み→揉捻→中揉み→精揉み→乾燥。製造後の茶葉は煎茶と同じ針状の形をしていますが、色合いはわずかに濃く、深みのある緑。
製造工程の詳細は不発酵茶(緑茶)の製法ガイドで解説しています。被覆が葉の成分にどう作用するかは、被覆栽培の記事で科学的な観点から説明しています。
おいしいかぶせ茶の淹れ方
かぶせ茶は温度でキャラクターが変わります。低温で淹れれば旨味と甘みが前面に。高めで淹れると、少し爽やかさが戻り、煎茶に近い表情になります。
| スタイル | お湯の温度 | 茶葉の量 | 浸出時間 | 仕上がり |
|---|---|---|---|---|
| 旨味重視 | 60〜70°C | 4g / 70mL | 90秒 | 甘み・旨味が強く、渋みほぼなし |
| バランス型 | 70〜80°C | 3g / 100mL | 60秒 | 甘さと青さが程よく混ざる |
| 爽快スタイル | 80°C | 3g / 100mL | 45秒 | 明るく、煎茶に近い仕上がり |
はじめての方は75°C・3g・100mL・60秒を基準にしてみてください。二煎目は一煎目よりすっきりして、甘みがより感じやすくなることが多いです。茶葉の量を少し多めにして低温でゆっくり引き出す方法も、かぶせ茶本来の旨味を楽しむのに向いています。
淹れ方の技術については、煎茶の淹れ方ガイドをご覧ください。かぶせ茶にそのままお使いいただけます。
私たちのお茶の品揃えは茶葉コレクションからご覧いただけます。被覆茶を中心に、さまざまな日本茶を取り扱っています。
かぶせ茶の産地 — 三重・福岡・奈良
かぶせ茶は全国各地で生産されていますが、三重県が最大の産地で、全国生産量の3分の1以上を占めます。特に四日市市と亀山市で作られるかぶせ茶は品質が高く、二番茶以降は収穫しないことで茶葉の質を保っています。
三重県のかぶせ茶は「伊勢茶」というブランド名でも知られています。地域の気候と土壌、そして長年にわたって磨かれてきた被覆技術が、伊勢茶のスタイルを作り上げてきました。
福岡県も特筆すべき産地のひとつ。玉露の産地として知られる八女地域では、玉露に使われる品種(ごこう、おくみどり)でかぶせ茶も作られており、旨味の深みが際立つ個性を持ちます。奈良県・京都府でも生産量は少ないながら、伝統的な手法を守る農家が良質なかぶせ茶を作り続けています。
福岡の茶産地については福岡の産地ガイドを、奈良については奈良の産地ガイドもあわせてご覧ください。かぶせ茶を含む日本の緑茶全体の分類については、日本茶の種類解説をご参照ください。碾茶(抹茶の原料)との被覆方法の比較に興味がある方は、碾茶の記事もどうぞ。
よくある質問
かぶせ茶と玉露は何が違うのですか?
最も大きな違いは被覆期間と遮光率です。玉露は20日以上・遮光率85〜98%で、テアニン(旨味成分)が非常に多く蓄積されます。かぶせ茶は7〜14日・遮光率約50%。旨味は玉露より控えめですが、渋みのバランスがよく、より幅広いシーンで楽しめる味わいです。玉露の代わりにはなりませんが、かぶせ茶は独自の個性を持つ別のお茶として位置づけられます。
かぶせ茶は煎茶と同じように淹れられますか?
淹れられますが、少し温度を下げるとより美味しくなります。煎茶の標準80°Cよりも、70〜80°Cが目安。低温で淹れることで渋みが抑えられ、かぶせ茶の旨味と甘みが出やすくなります。煎茶の淹れ方はベースとして使えますが、温度をひと段階下げてみるのがおすすめです。
かぶせ茶の成分にはどんな特徴がありますか?
被覆栽培によってテアニン(旨味・甘み成分)が増え、カテキン(渋み成分)の比率が下がります。そのため、露地栽培の煎茶に比べて渋みが少なく、まろやかな味わいになります。カフェインは100mLあたり約30mgと、煎茶(約20mg)よりわずかに高く、玉露(約160mg)よりはずっと低い。緑茶の成分について詳しくは緑茶の成分ガイドをご覧ください。
