Far East Tea Company 編集チーム 約 8 分
目次

湯のみを顔に近づけると、甘味が先に来ます。煎茶の青々とした鋭さとは少し違う、穏やかで丸みのある甘さ。それでいて、玉露のような深い旨味の重さもない。かぶせ茶はそのちょうど中間に位置する緑茶です。

「かぶせ」という名前は、茶葉に布や資材を「かぶせる」ことに由来します。収穫前の7〜14日間、茶樹を遮光することで、煎茶には出にくい旨味と甘味が引き出されます。完全に覆う玉露ほど濃密ではなく、露地栽培の煎茶ほど爽快でもない。かぶせ茶はそのふたつのいいところを合わせ持つ、日本茶の中でも独特の立ち位置にあるお茶です。

7〜14日間の被覆がつくる、かぶせ茶の甘味と旨味

かぶせ茶は、摘採の約7〜14日前から遮光して育てた緑茶のことです。光を遮ることで、茶樹はアミノ酸(テアニン)をカテキンに変換する速度が落ち、旨味成分が葉の中に蓄積されます。結果として、渋味が抑えられ、甘味と旨味が前面に出てきます。

かぶせ茶の遮光率は、直掛けの場合で一般に70〜85%前後。ここが味の分かれ目でもあります。玉露ほど強い被覆ではないため、葉の中ではテアニンの保持が進みつつ、青葉らしい香気を支える成分もある程度残ります。「旨味はあるのに重すぎない」と感じられるのは、この中間的な条件によるものです。

もう少し細かく見ると、日射が弱まることで、葉の細胞内ではアミノ酸から苦渋味系成分への変化がゆるやかになります。新芽の葉肉もやわらかく保たれやすく、抽出するとだしのような旨味、海苔を思わせる香り、あと口の軽さが同時に現れます。被覆茶の中でも、かぶせ茶が食事に合わせやすい理由はここにあります。

日本茶の大部分は露地栽培(遮光なし)の煎茶です。玉露は20日以上の長期被覆で、旨味が際立つ高級茶。かぶせ茶はその中間。被覆期間が短いぶん、価格は玉露より手が届きやすく、それでいて煎茶にはない深みがある。被覆茶のはじめの一歩として、多くの方に親しまれています。

収穫期の仕上げによって表情が変わるのも魅力です。火入れが穏やかなものは青海苔や若いとうもろこしのような香りが立ち、やや火を入れたものはナッツを思わせる丸さが出ます。液色はやや深めでも、飲み口は案外軽い。そのギャップも、かぶせ茶らしさです。

液色は煎茶よりわずかに濃く、透明感のある薄緑がかった黄金色。口に含むと、煎茶の爽快さと玉露の甘さが重なり合うような、落ち着いた味わいが広がります。温度によって表情が変わりやすく、自宅でも工夫しやすいお茶です。

かぶせ茶と玉露・煎茶の違い

同じ「チャノキ」(Camellia sinensis)から作られる三種類のお茶ですが、被覆期間の違いが、味わいをはっきりと変えます。

お茶の種類 被覆期間 味わい カフェイン(100mLあたり) 価格帯
煎茶 なし(露地栽培) 爽快・青々・程よい渋味 約20mg 低〜中
かぶせ茶 7〜14日間 甘味・軽い旨味・渋味が控えめ 約30mg(推計)
玉露 20日以上 深い旨味・まろやか・渋味ほぼなし 約160mg

かぶせ茶は煎茶に近い製法と価格帯ながら、味わいは被覆側に大きく寄っています。煎茶の爽快な渋味が和らぎ、甘味と旨味が自然に感じられる。玉露のような濃密さや低温でゆっくり引き出す手間は必要ありません。被覆茶の世界に入るためのちょうどよい入口です。

被覆期間の違いや遮光率の科学は、被覆栽培のガイドをご覧ください。玉露との比較については、玉露の解説記事もあわせてどうぞ。

かぶせ茶の製法

かぶせ茶の栽培と製造のプロセスを分けて考えるとわかりやすいです。製造工程は煎茶と同じ「蒸し製」。違いは摘採前の「被覆」の部分にあります。

被覆方法は「直掛け(じかがけ)」と呼ばれる手法が主流です。遮光資材を茶樹の上に直接かぶせ、日光を70〜85%カットします。玉露の「棚掛け(たながけ)」のように資材を茶樹の上方に張り上げる方式よりもシンプルで、遮光率は低め。それでも、7〜14日間の被覆は葉の成分を変えるのに十分な時間です。

摘採後は、煎茶と同じ工程をたどります。蒸し→粗揉み→揉捻→中揉み→精揉み→乾燥。製造後の茶葉は煎茶と同じ針状の形をしていますが、色合いはわずかに濃く、深みのある緑。

製造工程の詳細は不発酵茶(緑茶)の製法ガイドをご覧ください。被覆が葉の成分にどう作用するかは、被覆栽培の記事で科学的な観点から解説しています。

おいしいかぶせ茶の淹れ方

かぶせ茶は温度でキャラクターが変わります。低温で淹れれば旨味と甘味が前面に。高めで淹れると、少し爽やかさが戻り、煎茶に近い表情になります。

スタイル お湯の温度 茶葉の量 浸出時間 仕上がり
旨味重視 60〜70°C 4g / 70mL 90秒 甘味・旨味が強く、渋味ほぼなし
バランス型 70〜80°C 3g / 100mL 60秒 甘さと青さが程よく混ざる
爽快スタイル 80°C 3g / 100mL 45秒 明るく、煎茶に近い仕上がり

はじめての方は75°C・3g・100mL・60秒を基準にしてみてください。二煎目は一煎目よりすっきりして、甘味がより感じやすくなることが多いです。茶葉の量を少し多めにして低温でゆっくり引き出す方法も、かぶせ茶本来の旨味を楽しむのに向いています。

二煎目・三煎目も、かぶせ茶の見どころです。二煎目は75〜80°Cで15〜20秒ほど。最初の一煎で旨味を引き出したあとは、若葉らしい香りと軽い渋味が前に出て、輪郭がはっきりしてきます。三煎目は80°C前後で30秒を目安にすると、香りが立ちやすく、食中茶としての良さがよくわかります。急須のお湯は最後の一滴まで注ぎ切ること。ここを丁寧にすると、次の一杯で雑味が出にくくなります。

淹れ方の技術については、煎茶の淹れ方ガイドをご覧ください。かぶせ茶にそのままお使いいただけます。

私たちのお茶の品揃えは茶葉コレクションからご覧いただけます。被覆茶を中心に、さまざまな日本茶を取り扱っています。

かぶせ茶の産地 — 三重・福岡・奈良

かぶせ茶は全国各地で生産されていますが、三重県が最大の産地で、全国生産量の約60%(三重県「伊勢茶の振興」)を占めます。特に四日市市と亀山市で作られるかぶせ茶は品質が高く、二番茶以降は収穫しないことで茶葉の質を保っています。

三重県のかぶせ茶は「伊勢茶」というブランド名でも知られています。地域の気候と土壌、そして長年にわたって磨かれてきた被覆技術が、伊勢茶のスタイルを作り上げてきました。

三重で特に多い品種は、やぶきたです。やぶきたは香りとバランスに優れ、被覆をかけても輪郭がぼやけにくいのが強み。旨味を出しながら、後半には軽い清涼感を残しやすいため、毎日飲んでも重くなりにくいかぶせ茶に仕上がります。被覆日数をやや短めにして煎茶寄りの表情を残すロットもあり、同じ伊勢茶でも農家ごとの差が見えてきます。やぶきた主体のロットは、湯温を少し上げても味の骨格が崩れにくく、家庭の急須でも安定して淹れやすい点も魅力です。

福岡県も、かぶせ茶を語るうえで外せない産地のひとつです。玉露の産地として知られる八女地域では、おくみどりやごこうで仕立てたかぶせ茶が知られています。おくみどりは水色が深く、口当たりがやわらかい傾向。ごこうは香りに丸みがあり、低温で淹れたときのだし感が印象的です。玉露用品種を扱い慣れた産地だけに、かぶせ茶でも上質な甘味を引き出したロットが多く見られます。奈良県・京都府でも生産量は少ないながら、伝統的な手法を守る農家が良質なかぶせ茶を作り続けています。

福岡の茶産地については福岡の産地ガイドを、奈良については奈良の産地ガイドもあわせてご覧ください。かぶせ茶を含む日本の緑茶全体の分類については、日本茶の種類解説をご参照ください。碾茶(抹茶の原料)との被覆方法の比較に興味がある方は、碾茶の記事もどうぞ。

よくある質問

かぶせ茶と玉露は何が違うのですか?

最も大きな違いは被覆期間と遮光率です。玉露は20日以上・遮光率85〜98%で、テアニン(旨味成分)が非常に多く蓄積されます。かぶせ茶は7〜14日・遮光率70〜85%(直掛け)。旨味は玉露より控えめですが、渋味のバランスがよく、より幅広いシーンで楽しめる味わいです。玉露の代わりにはなりませんが、かぶせ茶は独自の個性を持つ別のお茶として位置づけられます。

かぶせ茶は煎茶と同じように淹れられますか?

淹れられますが、少し温度を下げるとより美味しくなります。煎茶の標準80°Cよりも、70〜80°Cが目安。低温で淹れることで渋味が抑えられ、かぶせ茶の旨味と甘味が出やすくなります。煎茶の淹れ方はベースとして使えますが、温度をひと段階下げてみるのがおすすめです。

かぶせ茶は煎茶と比べてどんな味がしますか?

かぶせ茶はより穏やかな味わいです。良質な煎茶を特徴づける鮮やかな青草のような明るさは残っていますが、被覆栽培由来の甘味と旨味がその下に重なります。渋味は軽く、かすかに磯のような風味を感じることもあります。玉露の海苔を思わせるような特徴ほど際立ってはいませんが、このお茶が暗い環境で育ったことを思わせるには十分な個性です。緑茶のさまざまな風味とその違いについては、 緑茶の成分ガイド をご覧ください。

かぶせ茶はどんな人に向いていますか?

煎茶が好きだけれど渋味が少し強いと感じる方や、玉露に興味があっても価格や難しさが気になる方に特に向いています。旨味は感じられますが玉露ほど濃くはなく、渋味も穏やか。食事の席でも重くならず、毎日の習慣として続けやすいお茶です。1日に2〜3杯飲む方にも、かぶせ茶はバランス良く日常に溶け込みます。