お茶の品種|いずみ
「幻の品種」とも呼ばれ、滅多に出会うことのない希少な品種”いずみ”。
ですがその味わいは抜群。他の品種とは明らかに異なる香りを持ち、一度飲めば忘れられない。そんな品種”いずみ”についてご紹介します。
ごく希少な「幻の品種」
母に紅茶用品種である”べにほまれ”を持ち、元々は釜炒り茶用の品種として生まれた”いずみ”。この品種は「幻の品種」とも呼ばれ、現在では”いずみ”を育てている生産者はごく稀だと言われています。
その理由は、品種が誕生したその直後、輸出向けの釜炒り茶の需要自体が激減してしまった結果、生産者に広まり切らず、日の目を浴びないまま半ば忘れ去られてしまったからなんです。
ですが、その味わいは格別。一度飲んだら忘れられないほど、抜群に華やかなその香りは、人々の心を惹き付けて離しません。
そんな品種だからこそ私たちも”いずみ”に出会うことは本当に稀で、もし飲める機会があれば、思わず期待に胸が高鳴ってしまう。そんな希少で抜群に美味しい品種です。
”いずみ”の特徴
ごく珍しい釜炒り茶用品種
前述の通り、元々は輸出用の釜炒り茶用品種として育種された”いずみ”。釜炒り茶用の品種は、登録されている全119種の中でも6種のみと、非常にレア。
釜炒り茶用の品種が積極的に作られていた1950〜60年台は、お茶の輸出が非常に盛んで、海外向けのお茶が多く作られていたため、”いずみ”もそのニーズに合わせて作られた品種でした。
現在では紅茶がメイン
そんな釜炒り茶用に作られた”いずみ”ですが、開発から長い時を経て、現在では紅茶に加工されたものを非常によく見かけます。
それも当然。”いずみ”のルーツには紅茶用品種である”べにほまれ”があり、となれば紅茶にも適性が高い理由がよくわかります。
紅茶に加工された”いずみ”はコンテストでも高い評価を得ており、その味わいのレベルの高さが広く知られています。
寒さに弱い
そんな抜群の香りを持つ”いずみ”ですが、寒さに弱いという欠点があります。
山間部や北部などでは栽培が難しく、私たちが知っている生産者も、静岡県の温暖な南部や、九州の生産者がほとんどです。
そんな、とにかく希少さが際立つ”いずみ”ですが、その味わいはどのようなものなのでしょうか?
”いずみ”の味わい
南国のフルーツのようなトロピカルな香り
私が”いずみ”の紅茶を初めて飲んだ時、その香りの豊かさに驚きました。マンゴーやオレンジ、パインといった南国のフルーツの香りがいっぱいに広がり、その後をミントの様な清涼感のある香りが吹き抜けます。
もちろん産地や生産者によってその味わいは変わりますが、その華やかな香りは共通。他の品種では味わったことのないような芳醇な香りが魅力的です。
渋味は薄く、すっきりとした飲み口も魅力の一つです。
”いずみ”を育てている生産者は、私たちも国内で数軒のみ。その生産量もかなり限られており、文字通り「幻」のお茶となっている”いずみ”。もし出会うことがあれば、真っ先に飲んでみてください。
お茶の品種|べにふうき
近年、世界的に注目が高まりつつある「和紅茶」の中でも、最も多く目にするであろう品種が、この”べにふうき”。
花粉症対策としても有名な、”べにふうき”という品種について紹介します。
日本で初めての紅茶・半発酵茶用品種
普段から日本中の和紅茶を飲む私たちですが、その中でも最も多く出会うのがこの”べにふうき”です。
そもそも日本では、紅茶用の品種はその数自体が少なく、登録されている全119品種の内、紅茶用はたったの13品種のみ。釜炒り茶用の品種や、緑茶用ではあるものの紅茶としての品質が高いものを含めても、20品種ほどしか存在していません。
そんな中でも、紅茶としての品質に優れ、和紅茶の品質向上にも大きく貢献しているこの”べにふうき”。日本で最も人気な紅茶用品種であるこの”べにふうき”の特徴をご紹介します。
”べにふうき”の特徴
アッサム種の血を持つ品種
”べにふうき”は、母に同じく国産の紅茶用品種である”べにほまれ”を。父にインド原産の品種を持つ、紅茶・半発酵茶用の茶品種です。
日本で作られるほぼ全ての茶品種が中国種である中、アッサム種の血が流れるこの品種は、やはり紅茶に加工した際の品質が非常に高いのが特徴的です。
日本の気候に合わせて作られた耐寒性・耐病性
日本で初めて作られた紅茶用品種であるこの品種は、当然、日本の気候でも育てやすいように作られています。
元々温暖な地域で作られるアッサム種の特徴があるため、耐寒性こそ若干低いものの、東海以西の大部分の地域では栽培が可能。耐病性が高いため、無農薬でも育てやすい品種です。
花粉症対策になるお茶
”べにふうき”が一躍有名になった背景の一つに、花粉症対策があります。
”べにふうき”には、「メチル化カテキン」という抗アレルギー作用を持つ成分が非常に多く含まれており、この成分を定期的に摂取することで、花粉症などのアレルギー症状が抑えられることがわかりました。
根本的な治療法のない花粉症の症状を改善できると知り、2000年代に”べにふうき”が一躍有名な品種となりました。
ただし、この「メチル化カテキン」は、茶葉を発酵させてしまうと成分が変化してしまうため、茶葉を発酵させない緑茶の状態で飲むことが推奨されています。紅茶用品種である”べにふうき”を、あえて緑茶で飲まなければ、花粉症対策にならないことには注意してください。
”べにふうき”の味わい
紅茶に適した豊かな香り
アッサム種の特徴を持つこの品種は、加工の過程で発酵を進めることで、非常に多くの香気成分が生まれます。
インドールやリナロール、ゲラニオールなど、大半の緑茶用品種が持ち得ない華やかな香気成分が生まれることで、紅茶としての芳醇で複雑な香りが作り出されるのです。
そのため”べにふうき”の紅茶は、ライチや青リンゴに例えられる爽やかなフルーツの香りや、さつまいものような甘やかな香り、柑橘の酸味を感じる香りなど、産地や生産者によって様々な香りを持っています。
また、アッサム種の特徴としては渋味(カテキン)が強いことも挙げられます。
紅茶ならではの強めの渋味
本来紅茶に加工されることが前提のこの品種。お茶の渋味成分であるカテキン(タンニンとも呼ばれる)の含有量が、通常の緑茶用品種と比べて多い傾向があります。
紅茶として飲むのであれば、あまり渋味は気にならないのですが、花粉症対策として緑茶で飲む場合、通常の緑茶よりも強い渋味に驚かれるかもしれません。
”べにふうき”は品質の高い紅茶!
以上のように、”べにふうき”は紅茶として高い品質を誇る、日本で最初の紅茶用品種です。美味しい和紅茶をお探しの方は、ぜひこの”べにふうき”のものを試してみてはいかがでしょうか?
アッサム種と中国種
お茶の品種は日本で登録されているだけでも100種類以上。未登録の在来品種や研究中の品種、世界に存在する品種を加えれば、途方も無い数の品種が存在します。
しかし、そんな沢山の品種の元になる木は地球上にたったの2種類です。
お茶の品種は2つだけ?中国種とアッサム種
茶はツバキ科の植物で、学名を「カメリア・シネンシス(Camellia sinensis(L)O.Kuntze)」といい、紅茶も烏龍茶茶も緑茶も、全てこの植物から作られています。
この茶の木は大きく、中国種とアッサム種の2種類に分類されます。そこからそれぞれ派生して、さまざまな品種が生まれているのです。
2019年現在、日本で農林水産省に登録されている品種は119種。茶産地としては比較的冷涼な地域にあたる日本では、栽培されているほぼすべてのお茶が中国種に属しますが、中には中国種とアッサム種が交配して生まれた品種も存在します。
中国種の特徴
中国種は中国の雲南省を原産とする品種で、渋味成分である「カテキン」の含有量が少く、酸化酵素の活性も弱く酸化発酵がしづらいため、緑茶に多く使われる品種です。
アッサム種と比べると茶葉が小さく、最大でも3mほどまでしか伸びない灌木型の品種です。
耐寒性が高く、寒くて乾燥した場所で育つことはもちろんのこと、順応性が高いので暑くて湿度の高い場所でも育つため、日本・中国・台湾や、インドやスリランカの高地などで栽培されています。
日本では”やぶきた”や”ゆたかみどり”、”さえみどり”など、ほぼ全ての品種がこの中国種に属します。
中国種の歴史
お茶の起源は中国。その歴史は紀元前から始まり、神話にも出てくるほど昔からお茶はありました。
お茶の発祥に関しては諸説ありますが、雲南省西南地域で初めて茶の木が発見されたという説が有力です。このころ、お茶の葉は薬として認識されていて、嗜好品として飲まれ始めたのは紀元前59年ごろ。
760年ごろには世界最古のお茶の専門書『茶経』が完成し、飲み方や淹れ方が今のスタイルに近付きます。805年には日本にお茶が伝わり、日本のお茶の歴史はここから始まり今に至ります。
1610年頃にはヨーロッパにも初めてお茶が輸入されます。台湾にお茶が持ち込まれたのは、さらに遅い1810年ごろです。
アッサム種の特徴
アッサム種はインドのアッサム地方を原産とする品種で、渋味成分となる「カテキン」を多く含み、酸化酵素の活性が強く酸化発酵がしやすいため、主に紅茶や烏龍茶に使われる品種です。
中国種と比べると茶葉が大きく、葉面には深くシワが走っているのが特徴です。また、中国種と違い喬木型なので、最大で10mほどまで直立することもあります。
寒さに弱く、高温多湿の気候を好むため、インド・スリランカ・インドネシアなどを中心に栽培されています。
日本で作られる紅茶向け品種である”べにふうき”や”べにひかり”、”べにほまれ”は、アッサム種と中国種を交配して作られた品種です。
アッサム種の歴史
アッサム種は、1823年にインドのアッサム地方で見つかった野生の茶の木です。その歴史は200年と中国種に比べて遥かに短く、非常に新しい品種と言えるでしょう。
1780年代、既にインドでは、輸入した中国種の茶の木の栽培がされていました。
中国種ではなく、自国の野生の茶の木がどこかにないかと探されていましたがなかなか見つかりません。
1823年、イギリス人の植物研究家ロバート・ブルースがインドのアッサム地方に遠征した際に、見たことがない茶の木を見つけました。これが後のアッサム種なのですが、インドの植物学者は「これは茶の木ではなくツバキの木だ。」と判断を下し、茶の木と認められることなく、ロバートは失意のまま亡くなります。
その後、ロバートの意志を継いだ実の弟・チャールズの努力により茶の木と認められ、アッサム種が公に認められました。
1838年、チャールズ監督の元、アッサム種から作られた初の国産緑茶が完成。翌年にはロンドンでオークションにかけられ高値で取引されました。
このことで茶業への期待と関心が高まりますが、アッサム種が発見されたアッサム地方は危険な野生動物や毒蛇が生息しており、開拓が非常に困難な地域。さらにマラリヤやコレラなどの感染症の流行が重なったり、安全な輸送ルートが確保できなかったりと、多くの人々の血と汗が流れました。
その結果、発見から27年後の1850年あたりからお茶の生産も軌道に乗り、東南アジアやアフリカでもアッサム種のお茶の栽培が始まります。
その後紅茶が生まれ、イギリスを中心に世界中に浸透し、今に至ります。