お茶の効能|肥満
肥満になると、高血圧や糖尿病といった疾病のリスクが高まります。そのため、肥満の予防は健康な体を作る上で非常に重要です。
実は、お茶を飲むことは効果的な肥満予防のひとつ。
ここでは、肥満を防ぐお茶の成分や飲み方について解説していきます。
肥満の原因とリスク
2019年の厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると、日本の20歳以上の人の肥満の割合は男性33.0%、女性22.3%となっており、非常に多くの人が肥満に悩んでいます。
肥満を引き起こす原因としては、遺伝体質や食べ過ぎ、運動不足などが挙げられますが、環境と遺伝の割合は「7:3」であると言われており、食生活よって肥満は改善できると考えられています。
肥満になると、以下のような疾病のリスクが高まります。
- 高血圧
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 痛風
- 胆石症
どれも生活や命に関わる重大な病気で、肥満を予防することは、これらの病気のリスクを減らし、健康に暮らすために非常に重要なのです。
肥満を予防するお茶の成分
お茶に含まれるカテキンには、肥満の原因となる「ブドウ糖」の生成を抑制する機能があり、肥満を抑制する効能があります。
BMIが高い肥満の成人男性に、カテキンの量が異なる複数のお茶を飲み比べてもらったところ、カテキンの値が高いお茶を飲み続けた方が脂肪の減少が早まったという調査結果もあります(出典:『日本茶のすべてがわかる本』)。
つまり、お茶を飲み、カテキンを多く摂取することで肥満を予防することができるのです。
カテキンだけじゃない!?陰の立役者
肥満を予防する効果のあるカテキンですが、単独ではそれほど大きな効果を持たず、カフェインとの相乗効果で予防効果が向上すると考えられています。
そのため、肥満予防のためにお茶を飲む場合は、カフェインレスのお茶を避けるようにしましょう。
肥満を予防できるお茶の飲み方
ここでは、肥満を予防できるお茶の飲み方をご紹介します。
高温のお湯で淹れる
カテキンとカフェインは「低い温度では水に溶け出しにくい」という性質を持っています。
そのため、80度以上の高温で淹れることで、カテキンとカフェインがしっかりと溶け出したお茶になります。苦渋味はやや強くなりますが、カテキンとカフェインを多く摂るには、高温で淹れるのがオススメです。
出がらしの茶葉を食べる
カテキン・カフェインは共に水溶性の物質ではありますが、その全てがお湯に溶け出す訳ではありません。茶葉に含まれる成分を全て摂取するためには、出がらしを食べるのが一番です。
おすすめはお茶のおひたしにして食べること。簡単で意外にも美味しく食べられるので、是非試してみてください。
二番茶・三番茶を購入する
お茶の葉は、その収穫される時期から一番茶(新茶)、二番茶、三番茶などに分類されます。
一般的には一番茶が最も香りが良く、品質も高いと言われていますが、日照時間が長い時期に育つ二・三番茶は、光の作用によって生成されるカテキン類を、一番茶よりも多く含んで育ちます。
渋味は一番茶と比べて強くなりますが、肥満予防でお茶を飲む際には二番茶や三番茶を選ぶのがおすすめです。
トクホのお茶を利用する
消費者庁長官の定める「特定保健用食品(トクホ)」のお茶にも、肥満に効果のあるものがあります。
トクホのお茶は科学的に保健機能があると認められたものしか認可されないため、既に効果の実証されているものしか製品化されていません。
肥満対策としてトクホのお茶を飲む際には、「脂肪を減らすのを助ける」と書かれている伊右衛門特茶(サントリー)などの製品を選ぶと良いでしょう。
お茶の効能|高血圧
高血圧は、成人を越えた日本人の2人に1人が抱えている問題です。
そんな高血圧ですが、お茶を飲むことによって予防できることが明らかになっています。
ここでは、高血圧の基礎知識から、お茶を使って高血圧を予防する方法をご紹介します。
高血圧って?リスクと原因
高血圧は文字通り、血圧が高い状態を指します。
この状態が続くと、血管や心臓に負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞、心不全、甲状腺、副腎などの病気を引き起こす可能性があり、最悪の場合は死に至るリスクを孕んでいます。
そんな高血圧の原因は、飲酒・食塩の過剰摂取・肥満・ストレスなど、生活習慣に起因しています。それ以外にも、遺伝で高血圧になりやすい人もおり、環境因子や遺伝子によって引き起こされるのです。
厚生労働省によると、現在は20歳以上の日本人の2人に1人が高血圧に悩まされており、非常に罹患のリスクの高い生活習慣病です。
お茶が高血圧を予防する?
お茶には、以下のような高血圧を予防する成分が含まれています。
カテキン
お茶に含まれるカテキンには、高血圧の原因となる「アンギオテンシンI変換酵素」という物質の働きを抑える効果があります。
実際、緑茶をよく飲む人の脳卒中による死亡率は、飲まない人に比べて男性で35%、女性で42%も低くなるという結果も出ています(出典:『日本茶のすべてがわかる本』農文協)。
GABA
GABA(γ-アミノ酪酸)とは、お茶の葉に含まれているグルタミン酸が変化してできた成分です。
GABAには血管を収縮させる作用のある「ノルアドレナリン」という物質を抑制する機能があり、血圧の上昇を防ぎます。
テアニン
テアニンはお茶に特有のアミノ酸の一種で、血管を拡張することで高血圧を防ぐ作用があります。
テアニンを摂取するとリラックスして血行がよくなるので、仕事や勉強に集中したいときにも効果的です。
高血圧を予防できるお茶の飲み方
高血圧を予防できるお茶の飲み方には、以下のようなものがあります。
高温のお湯で淹れる
カテキンは「低い温度では水に溶け出しにくい」という性質を持っています。
そのため、70度以上の高温で淹れることで、カテキンがしっかりと溶け出したお茶になります。渋味はやや強くなりますが、カテキンを多く摂るには、高温で淹れるのがオススメです。
出がらしの茶葉を食べる
カテキンは水溶性の物質ではありますが、その全てがお湯に溶け出す訳ではありません。茶葉に含まれるカテキンを全て摂取するためには、出がらしを食べるのが一番です。
おすすめはお茶のおひたしにして食べること。簡単で意外にも美味しく食べられるので、是非試してみてください。
玉露や抹茶を選ぶ
高血圧を防ぐ成分であるテアニンは、お茶の中でも特にかぶせ茶・玉露・抹茶などの高級茶に多く含まれる傾向があります。これは、被覆栽培によってテアニンからカテキンが生成されるのを抑制して作られるためです。
また二番茶・三番茶よりも、一番茶に多く含まれており、一番茶の中でも若く柔らかい芽により多く含まれます。一番茶の中でもベストなタイミングで摘採されたお茶に、最も多くのテアニンが含まれているのです。
そのため、「テアニンをしっかりと摂りたい」という方は普段よりも少しお高めのお茶を選んでみてください。
ギャバロン茶を選ぶ
GABAは、生葉を数時間無酸素状態で放置することによって生成され、この方法で作られたお茶を「ギャバロン茶」といいます。
ギャバロン茶を選べばGABAを多く摂取することができるので、血圧が気になる時にはオススメです。
お茶の効能|花粉症
お茶に含まれるカテキンの一種である「メチル化カテキン」には、アレルギーや花粉症を緩和する効果があります。
ここでは、「メチル化カテキン」の基本情報や効能、多く含まれるお茶の品種などをご紹介していきます。
お茶はアレルギー・花粉症に効く?
お茶には様々な健康効果がありますが、一部のお茶にはアレルギーや花粉症を抑制する効能があります。
お茶がそのような働きを持つのは、「メチル化カテキン」という成分を含んでいるからです。
メチル化カテキンって?
「メチル化カテキン」は、カテキンの一種です。
カテキンと一口に言っても、お茶には「エピガロカテキンガレート」や「エピカテキン」など、複数の種類のカテキンが含まれています。
メチル化カテキンは、お茶に最も多く含まれる「エピガロカテキンガレート」が変化した化合物のことを指します。
メチル化カテキンの効能
メチル化カテキンは、ヒスタミンなどのアレルギー症状を起こす物質の放出を妨げる効能があります。
というのは、メチル化カテキンは「アレルギー体を受け取った」という情報を脳に伝えずにシャットアウトする役割を持っているからです。
たとえば、メチル化カテキンを含むお茶をアレルギーを持つ動物に与えたところ、鼻汁や涙、浮腫などが改善したという実験データもあるほど。
つまり、メチルカテキンを多く含むお茶を摂取すれば、効率的にアレルギー症状を緩和できるということですね。
メチル化カテキンが含まれるお茶とその飲み方
メチル化カテキンが多く含まれるお茶としては、「べにふうき」「べにふじ」「べにほまれ」などが挙げられます。いずれも元々は紅茶用として開発された品種ですが、一点注意が必要なのは、紅茶に加工するとメチル化カテキンが別の化合物に変化してしまうということ。
そのため、メチル化カテキンを効率的に摂るためには、「紅茶」ではなく「緑茶」と記載されたものを購入するようにしましょう。
なお、これらのお茶を飲む際には、5分ほど煎じてから飲むと効率的にメチル化カテキンを摂取することができます。
メチル化カテキンは水に溶け出さない?
実は「メチル化カテキン」は水溶性ではないので、お湯には溶け出しにくく、茶葉を丸ごと体に取り込まなければ、あまり効果がありません。
そのため、「花粉症対策」として市販されているべにふうきは、茶葉を粉末にして加工されている場合がほとんどです。 粉末茶をお湯や水、牛乳などに溶かして飲んでみてください。
「やぶきた」はメチル化カテキンを含まない?
「やぶきた」は緑茶の代表的な銘柄ですが、メチル化カテキンをあまり多く含んでいません。
アレルギーや花粉症状に対する効果はそれほど期待できないので、「べにふうき」など別のお茶を選ぶことをおすすめします。
お茶の効能|抗酸化作用
抗酸化作用はお茶が持つ健康効果のひとつで、アルツハイマー・リューマチ・ガンなど、様々な病気のリスクを減らす効能があります。
この記事では、抗酸化作用の基礎情報やプロセス、抗酸化作用の強いお茶などをご紹介します。
抗酸化作用って?
抗酸化作用は、お茶の持つ健康機能のひとつです。
ガンやリューマチなどを予防するほか、組織の老化を防いだり、免疫力を保持したりする効能もあります。
抗酸化作用が起きる仕組み
ここでは、抗酸化作用が起きるプロセスを簡単に見ていきましょう。
そもそも人間の体には「酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する」という仕組みがあります。しかし、精神的なストレスや飲酒、喫煙、紫外線、激しいスポーツなど、様々なきっかけで酸素は「活性酸素」へと変化し、体内に残留します。
活性酸素は最近の侵入を防ぐという身体に重要な役割を持つ反面、悪玉酸素や酸素毒とも呼ばれ、健康な細胞を損傷してリューマチ・肝炎・動脈硬化などの病気を起こす要因の一つです。
本来は活性酸素が増えすぎると、それを消去する酵素が体内で作られ、過剰な活性酸素を減らしてくれるのですが、そのはたらきは生活習慣や年齢とともに衰え、特に40代を境に抗酸化物質の働きは急激に低下すると言われています。
こうして次第に増える活性酸素が、様々な病気を引き起こしてしまうのです。
「抗酸化作用」とは、この活性酸素が生まれるのを防止したり、すでに発生した活性酸素を消したりする役割を担っており、老化や病気の予防に非常に効果的です。
抗酸化作用はどう体に良い?
抗酸化作用は「すべての病気予防につながる」と言われるほど重要な機能です。
抗酸化作用によって罹患のリスクを減らせる主な病気には、以下のものがあります。
- リューマチ
- 肝炎
- がん
- 動脈硬化
- アルツハイマー型痴呆
※参考:芳野恭士ほか(2017)「健康茶の抗酸化作用」『沼津工業高等専門学校研究報告』
どれも生活や命に影響する重大な病気ですが、お茶を飲むことによってこれらのリスクを軽減することができます。
また、抗酸化作用には組織そのものの老化を防いだり、免疫力を保持したりする効果もあります。健康寿命を延ばし、健康で若々しい生活を送るために非常に重要な効果なのです。
抗酸化作用があるお茶の成分
お茶の成分の中でも、最も強い抗酸化作用を持っているのが「カテキン」です。
ビタミンCやビタミンEにも抗酸化作用がありますが、なんとカテキンはそれらの数倍〜数十倍ほどの抗酸化作用を持っています。
お茶は強い抗酸化作用を持つカテキンを含み、同時にβ-カロテン・ビタミンE、ビタミンCなど、抗酸化作用のあるビタミンも含んでおり、抗酸化作用の恩恵を効率よく享受することができる飲み物なのです。
カテキンを多く摂取して、抗酸化作用を得るためには?
カテキンの含有量は、品種や栽培方法、摘採時期によって大きく変化します。品種によって渋味の多寡が変わりますし、日本で多く作られている中国種よりも、インドなどで作られているアッサム種の方がカテキンの含有量は高くなります。
被覆栽培によってカテキンの生成が抑制される場合もありますし、逆に日照時間の長い二番茶・三番茶は、一番茶と比べて多くのカテキンを含んでいます。
ですのでここでは、一般的にお茶からカテキンを多く摂取する方法を以下3点に分けてお伝えしていきます。
- 高温のお湯で淹れる
- 二番茶・三番茶を購入する
- 出がらしの茶葉を食べる
高温のお湯で淹れる
カテキンは「低い温度では水に溶け出しにくい」という性質を持っています。
そのため、70度以上の高温で淹れることで、カテキンの成分がしっかりと溶け出したお茶になります。渋味はやや強くなりますが、カテキンを多く摂るには、高温で淹れるのがオススメです。
二番茶・三番茶を購入する
お茶の葉は、その収穫される時期から一番茶(新茶)、二番茶、三番茶などに分類されます。
一般的には一番茶が最も香りが良く、品質も高いと言われていますが、日照時間が長い時期に育つ二・三番茶は、光の作用によって生成されるカテキン類を、一番茶よりも多く含んで育ちます。
カテキンを多く摂りたい場合には、二番茶・三番茶を選ぶのがおすすめです。
出がらしの茶葉を食べる
カテキンは水溶性の物質ではありますが、その全てがお湯に溶け出す訳ではありません。茶葉に含まれるカテキンを全て摂取するためには、出がらしを食べるのが一番です。
おすすめはお茶のおひたしにして食べること。簡単で意外にも美味しく食べられるので、是非試してみてください。
冷蔵庫?茶缶?お茶の味を美味しく保つ保存方法って?
お茶の茶葉や淹れ方にこだわる人はいますが、保存方法まできちんと気をつける人はどのくらいいるでしょうか。
お茶にとって保存方法はとても大事なことで、味が落ちる原因にもなってしまいます。
開封後のお茶は時間が経つとどうなる?
開封後の茶葉は、空気に触れれば触れるほど品質が低下します。
茶葉の香気成分は次第に揮発してしまうので香りが変化しますし、湿度にも弱く、酸化が進むことで味が劣化してしまうのです。
お茶の味が劣化する要因
茶葉は正しい方法で保存しなければあっという間に味や香りが落ちてしまいます。逆に言えば、正しい方法で保存すれば、長期間美味しいお茶を楽しむことができます。
茶葉が劣化する要因は大きく分けて「酸素(酸化)」「日光」「湿度」の3つです。
酸素(酸化)
酸素はお茶に含まれるカテキン・ビタミンCなどの成分を酸化させるため、味の低下の原因になります。また、茶葉や水色にも影響し、色が悪くなります。
そのため、開封後はしっかり空気を抜いて密封することが大切です。
日光
紫外線や日光により、茶葉の緑色を作る成分であるクロロフィルが退色して、茶葉や水色が緑色から褐色に変化します。
また、茶葉は香りがうつりやすい性質を持っているので、日光を当てることで日光臭がつくことも。日光などの光が当たらない暗所に保管するか、遮光する容器に入れて保管します。
湿度
茶葉中の水分が増加すると酸化が促進されてしまうため、味・色・香りなどに大きく影響します。そのため開封したままの状態での保存は厳禁です。
除湿された場所で保管や、湿気を通さない容器で保管します。
開封後の冷蔵庫保存はダメ?
開封後のお茶を冷蔵庫に保存する人は多いと思いますが、実はこれもあまり良くありません。
冷蔵庫は日光も遮断でき、湿気もなく温度も低いので、一見お茶の保存に適しているようにも感じますが、先述の通り茶葉は香りがうつりやすい性質を持っているので冷蔵庫の中の食材の匂いがついてしまいます。
また冷蔵庫を開閉する際、外との温度差で冷蔵庫内に霧が発生するので湿度が上がり、茶葉がその湿気を吸収する恐れがあります。
冷蔵庫から茶葉を出すときにも茶葉と外の温度差で水滴が発生し、茶葉がその水滴を吸収して鮮度が一気に落ちます。
なので、開封後のお茶は冷蔵庫ではなく、戸棚の中など暗くて湿度の低い場所で保存しましょう。
未開封の茶葉であれば冷蔵庫や冷凍庫で保存しても問題ありません。
お茶の保存に適した道具
茶筒
茶葉の保管に最適なのが茶筒。
蓋部分と本体がピタッと閉まるので密閉率が高く、湿気を防ぐことができますし、日光(光)も遮断してくれます。
茶筒にはさまざまなサイズがありますが、1ヶ月で飲みきれる茶葉の量が入る大きさを選びましょう。大きすぎると茶筒内で茶葉が酸素に触れる部分が多くなり、劣化が早まってしまいます。
ガラス製やプラスチック製は光を通すので選ばないようにしてくださいね。
アルミ袋
アルミは外部からの光や湿気を遮断してくれます。最近は茶葉の保存専用のアルミ袋も販売されているので、これを使えば簡単に茶葉の保存ができます。
お茶を買った際にすでにアルミ袋に入っていることも多いですよね。
その場合はしっかり密閉さえすればそのまま保存できます。
軟水と硬水、お茶の味はどう変わる?お茶に適した水質を解説します!
私たちが普段から何気なく飲んでいるお水の成分について考えたことはありますか?
実はお茶と水には「相性」があり、使う水によってお茶の味が大きく変わります。
この記事ではお茶の味に大きく影響する「軟水」と「硬水」について詳しくご紹介します。
軟水と硬水の違いって?
水には大きく分けて軟水と硬水があります。
水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を表した数値を「硬度」といい、1リットルに含まれる硬度が120mg以下の水を「軟水」、120以上の水を「硬水」に分けます。
日本は軟水が主流
私たち日本人に馴染み深いのは軟水です。
水道から出る水も軟水で、ペットボトルで売られているミネラルウォーターも軟水が主流。日本で硬水が採取できるのは、兵庫県西宮市など限られたほんのわずかな場所のみです。
硬水に比べて軟水には、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが少ないですが、そのぶん胃腸への負担が少く、お年寄りや赤ちゃんでも安心して飲むことができます。
また、洗濯洗剤やシャンプーなどの泡立ちがよく、石鹸カスが出にくかったり、髪や肌に優しいという特徴も持っており、水道水から硬水が出る国ではわざわざ軟水を使って洗い物をする人もいるほど。
ヨーロッパやアメリカは硬水
ヨーロッパやアメリカに旅行に行くと髪の毛がバサバサになったり、お腹がゆるくなったという話はよく聞きますが、これは、硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムが原因です。
もちろん、硬水にはメリットもあります。
硬水には料理の食材の臭みを消したり、アクを出やすくする特徴があり、また豊富に含まれているカルシウムやマグネシウムが動脈硬化を予防してくれるともいわれています。
お茶を淹れるのに適しているのは?
軟水は口当たりがまろやかでさっぱりした味わいです。それに比べて硬水は口当たりが重く、苦味を感じる場合があります。
普段軟水を飲んでいる人が硬水を飲むと、違和感を感じることもあるでしょう。
お茶を入れるのに適しているのは「軟水」です。
硬度が高いとお茶の成分が溶け出しにくく、お茶の良さである旨味・渋味・苦味・甘味の絶妙なバランスが崩れてしまいます。軟水で淹れると、お茶が持つ成分がしっかり溶け出し、お茶本来の味を邪魔することなく引き出してくれます。
軟水で淹れたお茶に比べ、硬水で淹れたお茶は少し白く濁ることがありますが、これは硬水に含まれるミネラルと、お茶に含まれるタンニンが合わさることで起こる現象です。
お茶の早生・晩生品種
一年中いつでも美味しく飲むことができるお茶。しかし、お茶は種類や栽培地域によって摘採時期(茶葉が摘み取られる時期)に違いがあることをご存知ですか?
この記事ではお茶の摘採時期についてご紹介します。
お茶の摘採時期はいつ?
一番茶の収穫は、早い地域だと3月下旬から、遅い地域では5月下旬まで行われます。ただしこの摘採時期は、品種・緯度・標高・日照時間などによって少しずつ変わります。農作物の中でもお茶の摘採時期は非常に短く、朝に摘採のタイミングを迎えたお茶は、その夜には固くなり始めてしまうんだとか。そのため、美味しいお茶を作るためには、非常に短い時間で摘み終えなければなりません。
生産者が複数の品種を栽培する目的の一つが、この摘採時期を長く確保するため。
仮にある生産者が栽培するお茶が全て同一の品種だった場合、短い摘採期間に作業が追いつかず、新芽が育ち過ぎて味が落ちたり、葉が固くなったりしてしまう恐れがあります。
複数の品種を栽培することで摘採のタイミングを少しずつずらし、摘採時期を長く確保して初めて、ベストな状態で全ての新芽を摘み取ることができるのです。
「早生」「晩生」って?
お茶には100種類以上の品種があり、品種によって摘採時期が変わるのですが、その中でも「早稲品種」と「晩生品種」があります。
早生(わせ)は摘採時期が比較的早いことで、これに分類される品種を「早生品種」といいます。
晩生(ばんせい・おくて)は早生と逆に摘採時期が比較的遅いことで、これに分類される品種を「晩生品種」といいます。
農家は、早生品種・中生品種(「やぶきた」など摘採の基準になる品種)・晩生品種を組み合わせて栽培することで摘採時期を10日前後にまで広げることができ、これによりすべての茶葉を一番良いタイミングで摘むことができるのです。
鹿児島には「早生」が多い?
温暖な気候を利用して3月下旬から摘採を始める鹿児島県のお茶は、市場に出回るのが日本一早い「走り新茶」として有名です。「走り新茶」は一年で最も早く売られるお茶ということもあり、通常のお茶よりも高い市場価格がつく傾向にあり、少しでも早く出荷を始めるために早生品種で作られることがほとんどです。
日本で二番目に多く作られている品種である「ゆたかみどり」は、代表的な早生品種の一つ。
実は、その大部分は鹿児島県で栽培されており、「ゆたかみどり」の他にも「さえみどり」や「あさつゆ」などの早生品種が多く栽培されています。「走り新茶」を少しでも早く、高値で取引するために、鹿児島では鹿児島では早生品種の栽培が盛んなのです。
代表的な早生品種
早生品種には、さやまかおり・つゆひかり・くりたわせなど数多くの品種がありますが、中でも代表的な品種といえばゆたかみどりとさえみどりです。
さやまかおり
やぶきたより0〜2日早生。濃厚な香りが特徴で、主に静岡県・埼玉県・三重県などで栽培されています。カテキンを多く含むため、比較的渋めの味わい。
つゆひかり
やぶきたより2日ほど早生。茶葉が明るい緑色で美しく、特に静岡は栽培に力を入れています。渋味の中に旨味と甘味が引き立つ爽やかな味わいが特徴。
くりたわせ
種子島などの暖かい地域で栽培されている品種で、早生の中でも特に摘採期が早い「極早生」と呼ばれる品種。キレのある苦味とフレッシュな甘みが特徴。
ゆたかみどり
繁殖力が強く収穫量も多いゆたかみどりは、日本で2番目に作付面積が大きい品種で寒さに弱いので特に鹿児島で多く栽培されています。独自の栽培方法と加工方法で苦味が少なくほどよい甘みとコクがある深い味わいを作り出しています。
さえみどり
育てやすく味のバランスが良い「やぶきた」と、甘みと旨みが強く天然玉露とも呼ばれている「あさつゆ」を掛け合わせた最高級品種。やぶきたの味のバランスの良さにあさつゆの甘みと旨味が加わり、上品で優雅な味わい。
代表的な晩生品種
晩生品種には、かなやみどり・はるみどり・おくひかりなどがありますが、代表的な品種はおくみどりとべにふうきです。
かなやみどり
やぶきたより4日晩生で、主に鹿児島県と静岡県で栽培されています。ミルクのような独特の甘いかおりが特徴的。
はるみどり
やぶきたより6日晩生で、かなやみどりから生まれた品種。煎茶としての品質が極めて高く、高級茶です。
おくひかり
山間部などの寒い地域でも栽培することができる珍しい品種。香りが強く、味もはっきりしています。
おくみどり
作付面積は国内3位で、主に、鹿児島・三重・京都・静岡あたりで栽培されています。
自然な甘さとマイルドな口当たりで後味スッキリの味わいです。香り高いので特にお茶の香りを楽しみたい人におすすめの品種です。
べにふうき
品種登録は平成5年と他の品種に比べて歴史は浅いものの日本茶だけでなく、和紅茶品種としても有名な品種。メチル化カテキンが多く含まれているので、抗アレルギー効果が期待できるお茶として話題になっています。
日本茶の品種|さえみどり
「やぶきた」と「あさつゆ」をかけあわせて生まれた非常に優秀な品種”さえみどり”
日本第3位のシェアを誇る優良品種”さえみどり”はどんな品種なのでしょう。
日本で3番目に多く作られる早生品種”さえみどり”
2019年現在、日本で作られる緑茶のシェアの約4%を占める”さえみどり”は、”やぶきた”、”ゆたかみどり”に次いで3番目に多く作られている品種です。
濃厚な旨味とストレートな香りが特徴的な緑茶用品種”さえみどり”についてご紹介します
"さえみどり"の特徴
さえみどりの特徴は何といっても優れた品質です。
"やぶきた"×"あさつゆ"から生まれた品種
育てやすく収穫量・品質共に優れた”やぶきた”と、甘みと旨みが強く「天然玉露」とも呼ばれている”あさつゆ”。この優良な2つの品種の、良いところ取りで生まれたのが”さえみどり”です。
品質ナンバーワンと称えられる最高級品種で、煎茶のみならず玉露に使われることもあり、なおかつ”やぶきた”に似て収穫量も多いというまさに傑作品種です。
肥料や被覆栽培で旨味をたっぷりと乗せて作られることが多く、クセがないため合組(ブレンド)にも使いやすく、今後に大きな期待がかけられている品種です。
寒さには強いが霜に弱い
“さえみどり”は強い耐寒性を持つ反面、霜の被害に弱く、また耐病性もあまり強くありません。
山間部や北部などの寒冷地では、新芽が出る4月ごろに霜が降りてしまうことがあるため、そういった地域には不向きな品種といえます。
温暖な地域を好む品種なので”さえみどり”ができた当時は、鹿児島県を中心とした南九州で栽培されていましたが、近年ではその高い品質から静岡県や近畿地方でも栽培が進んでいます。
早生品種
“さえみどり”の収穫期は”やぶきた”より5日ほど早く、新茶は4月中旬~5月上旬に収穫される早生品種です。
一般的に新茶時期の茶市場は、流通が早ければ早いほど高値がつく傾向があります。
鹿児島県など南の暖かい地域では3月下旬に収穫が行われる年もあり、品質が高く、他の品種に先駆けて早く作れることから、温暖な気候に恵まれた地域ではより好まれる品種なのです。
“さえみどり”の味わい
味のバランスが良い”やぶきた”と、甘味と旨味が強い”あさつゆ”の味をうまく引き継いだ”さえみどり”
香りや味は比較的さっぱりしていますが、苦渋味が少なく、濃厚な甘味と旨味が楽しめます。
力強く濃厚な味わいのお茶を好む人は少々物足りなく感じるかもしれませんが、トロッと濃厚な旨味を感じられる上品で優雅な味わいは飲む人を贅沢な時間へいざなってくれます。
また、水色も青みがかった美しい緑色なので、大切なお客様へのおもてなしにもおすすめです。
日本のお茶の産地|鹿児島県
鹿児島県の2020年のお茶の生産量は全国第2位。しかもその生産量は年々増えており、静岡県に迫る勢いです。2020年の生産量は23,900トンと、国内生産量の約34%にあたります。
品種としては、”やぶきた”を筆頭に”ゆたかみどり”、”さえみどり”、”あさつゆ”、”おくみどり”などが栽培されています。中でも”ゆたかみどり”は、鹿児島県が最大の生産地であり、日本全国で”やぶきた”に次いでシェア第2位の品種です。
今回は、そんな鹿児島県のお茶づくりの歴史や産地をご紹介します。
鹿児島県のお茶の特徴
鹿児島県では、色々な種類のお茶が県内の至るところで作られています。
地域によって差異はありますが、毎年日本全国数十件の生産者とお会いする私たちが感じる鹿児島のお茶の特徴をご紹介します。
被せ・深蒸しの旨味のお茶
鹿児島県のお茶の特徴を一言で表すなら、「被せ・深蒸し」です。
特に、日本で最大の生産量を誇る市区町村・南九州市では、広大な平野部を活かしたお茶作りが行われており、長い日照時間からお茶の葉が厚く、苦渋味の強いお茶に育ちます。
そのため収穫前には被覆栽培を行い苦渋味を抑え、蒸しを長く行うことでまろやかな味わいに仕上がる深蒸し煎茶の生産が主流となりました。
鹿児島県の新茶は日本一早い?
本土最南端のお茶どころである鹿児島県では、その温暖な気候と日照時間の長さから、新茶の出荷が日本で一番早いことも特徴です。
通常静岡や京都では4月の中旬から5月上旬にかけて収穫がされるのに対し、鹿児島は4月上旬から、種子島では3月下旬から、収穫が始まります。
この新茶は「走り新茶」または「大走り新茶」とも呼ばれ、最も早く市場に出回るお茶となります。
一般的に新茶は、市場に出るのが早ければ早いほど高値が付く傾向にあります。
日本で最も早くお茶が作られる鹿児島県では、そのスピードを求めて”ゆたかみどり”、”さえみどり”、”あさつゆ”などの早稲品種が多く作れらています。
“ゆたかみどり”の一大産地
国内の生産量シェアで、”やぶきた”に次いで2番目に多く生産されている緑茶向け品種”ゆたかみどり”は、そのほとんどが鹿児島県内で生産されています。
旨味が濃く、同時に渋味も強いこの品種は、被覆栽培で旨味をしっかりと蓄えさせ、深蒸しで渋味を抑えて作ることで、非常にバランスの良いお茶に仕上がります。
また、温暖な気候を好む早稲品種でもあり、新茶としてのスピードが求められる鹿児島という産地にぴったりの品種なのです。
打倒静岡?国内生産量1位になる日も近い
長らく、国内最大のお茶どころとして君臨してきた静岡県ですが、近年は山間部でこ農作業の効率化が図れないことと後継者不足から、その生産量は伸び悩んでいます。
それに対して後発地域としての利点を最大限に活かし、大規模で効率化された茶生産が盛んな鹿児島県の生産量は急速に伸びており、2020年の生産量は、静岡県が25,200トン、鹿児島県が23,900トンと肉薄しています。
2021年には、この順位は逆転するとも言われており、茶産地として鹿児島県が日本一に輝く日も近いかもしれません。
鹿児島県のお茶づくりの歴史
鹿児島県でお茶の栽培がはじまったきっかけには、いくつかの説があります。
ひとつは、鎌倉時代の初期、平家の落人によって金峰町阿多・白川に伝えられたという説。もうひとつは、室町時代に、宇治からお茶の種を取り寄せて吉松町(いまは合併により湧水町)に蒔いたという説です。
その後、島津藩政時代にお茶の栽培が奨励されるようになりましたが、本格的なお茶の栽培や生産がはじまったのは、第二次世界大戦以降のこと。
後発地域としての利点を生かし、機械化による低コストかつ大量生産の設備を早期から導入し、その生産量を大きく伸ばしました。平坦な栽培地が多いのも、機械化が大きく進んだ要因の一つです。
農業の法人化も進んでいて、大規模な農家が多いことも鹿児島県のお茶栽培の特徴といえます。特に南九州市は、茶農家一人当たりの平均農耕面積が日本で最も大きいく、機械化の恩恵を大きく受けた茶産地といえます。
鹿児島県のお茶の産地とブランド茶
九州の南端にある鹿児島県では、温かい気候と長い日照時間を生かして、多くの地域でお茶の栽培が行われています。
特に南九州市は、茶の生産量が静岡県の市区町村を抑えて全国1位の市であり、日本最大のお茶どころとなっています。
鹿児島県で作られるお茶を、総称して「かごしま茶」と呼び、その中でもブランド茶として有名なのが「知覧茶」です。
広大な平野部で作られる深蒸し茶「知覧茶」
元々は南九州市知覧町で作られるお茶のみを示す「知覧茶」ですが、平成29年の市町村合併により、別々のブランド茶であった「知覧茶」「頴娃茶」「川辺茶」をまとめて「知覧茶」として扱うようになりました。
温暖な気候と日照時間を活かした「被せ・深蒸し」のお茶が盛んに作られる、国内最大のお茶どころです。
かつては他県の茶商に買われ、他県のお茶と混ぜてブレンド茶として販売されることも多かったものの、近年では品質も上がっており、ブランド茶としての評価が高まっています。
香りを活かした山のお茶「霧島茶」
鹿児島空港のすぐ側、高千穂峰の麓に広がる霧島市は、その地名の通り「霧」が深く立ち込め、厳しい寒暖差と恵まれた土壌から、美味しいお茶が作られています。
標高が高く、気温の低い霧島市は、摘採時期が南九州市と比べて2〜3週間ほど遅く、新茶としては若干出遅れてしまうため、品質にこだわったお茶が多く作られる地域です。
近代的な大規模茶園が広がる志布志市
志布志市は、鹿児島県で南九州市に次いで2番目に生産量の大きい地域です。
その背景には、機械メーカーとの協業により実現した、作業効率を極めた超大規模な茶園があります。ドローンによる摘採時期の見極めや摘採の全自動化など、広大な平野部を活かした近代的なお茶作りが行われています。
まだまだブランド茶としては無名な志布志のお茶ですが、茶業の未来をかけた実験的な農園に、近年注目が集まっています。
日本茶の歴史|栄西
「茶祖」と呼ばれる栄西。しかし、日本に初めて茶を持ち込んだ人物は、栄西ではありません。では、なぜ栄西が「茶祖」と呼ばれるのでしょうか?その理由を「禅」と「茶」の関係を通して解説します。
栄西とは
栄西(1141~1215)は、10代から天台宗の教えを学び始め、より深く禅宗を学ぶため2度に渡り宗を訪れました。帰国した栄西は、臨済宗の日本における開祖となります。
同時に宗で茶の素晴らしさに触れ、その種を日本に持ち帰った栄西は、臨済宗の布教と同時に茶の栽培方法や茶にまつわる文化を広めました。天台宗からの迫害を受けつつも、臨済宗の布教に努め『興禅護国論』『一代経論釈』などの書物を残しています。
「茶祖・栄西」の功績
この章では禅僧である栄西が、どのように茶と関わった人物なのかご紹介します。
茶の文化を日本に持ち帰り広める
茶は、栄西が生まれる以前から日本に持ち込まれていました。ではなぜ栄西が、日本の「茶祖」と呼ばれるのでしょうか。それは、栄西が、茶の文化を初めて日本に持ち込んだからです。
ちなみに、このとき栄西が持ち込んだ茶は、中国で親しまれていた碾茶(挽く前の抹茶)です。その製法と喫茶法を日本に伝え広め、それまで飲まれていた餅茶に変わり碾茶が飲まれるようになり、緑茶文化の基礎となりました。
しかし中国ではその後、権力の交代などにより碾茶は廃れていきます。
さらに、栄西は禅宗の飲茶の礼法「茶礼(されい)」を持ち帰りました。修行の合間や就寝時、1日に数回1つのやかんに用意された茶を分け合って飲むというものです。心を1つにして修行に当たるという意味があります。さらに大きな行事では、参加者全員が一堂に会し茶を飲む「総茶礼」が行われました。この茶礼が、後に茶の湯へとつながることとなります。
本格的な茶の栽培のきっかけを作る
栄西は、本格的な茶園が作られるきっかけを作りました。
栄西は、宗からの帰国時に茶の種と茶の栽培に関する知識を持ち帰り、寺院での茶栽培を広めます。なぜなら、茶の覚醒作用が禅宗の厳しい修行に取組む際、非常に有効だったからです。
そうやって広められた茶の種と知識が、京都・栂尾の明恵上人に伝わり、本格的な茶園に発展するのです。この茶園の茶は、「栂尾の茶は本茶、それ以外は非茶」と呼ばれるほどの人気を博しました。
日本で臨済宗を広める
栄西は禅宗である臨済宗を広めると共に、茶の栽培や文化を広めました。そして、茶と禅は深く結びつき、禅の思想は茶の歴史を作った人物に多大な影響を与えたのです。
村田珠光と一休宗純(いっきゅうそうじゅん)、武野紹鴎と大林宗套(だいりんそうとう)、千利休と笑嶺宗訢(しょうれいそうきん)。これらの茶人と臨済宗の禅僧の関係は、茶の湯の歴史を語る上で欠かせないものとなりました。
日本初の茶の専門書「喫茶養生記」を書く
栄西は、茶を広めるために『喫茶養生記』を書いています。
上下二巻のこの書物は、日本で最初に書かれた茶の専門書で、宗で学んだ茶の医学的効能はもとより、栽培に関することまで詳しく記されています。
また栄西は、深酒の癖のある将軍・源実朝に、二日酔いによく効く薬として茶をすすめた際に『喫茶養生記』を献上したと『吾妻鏡』に記されています。
平安から鎌倉時代の喫茶文化
平安時代の茶は、宮廷の宗教行事や儀式で用いられていました。茶は、僧侶や貴族階級だけが飲むことができる特別な飲み物であり、薬でもありました。
その後徐々に、和歌や連歌を詠じる場で飲む「楽しむもの」へと変化していきます。
鎌倉時代に入ると、栄西が中国から持ち帰った「茶礼」という喫茶儀礼が、禅宗寺院で行われるようになり、一方では武士階級にも社交の道具として喫茶が浸透します。茶を飲むために集まる「茶寄合」が行われ始め、鎌倉後期には茶の産地を当てる遊び「闘茶」が流行します。しかし、闘茶と同時に賭け事が行なわれ、ついに幕府が闘茶を禁止するまでの盛り上がりを見せたのです。
日本に茶を持ち帰ったのは、栄西が初めてではありません。しかし、栄西が中国で学んだ禅と茶を日本に持ち帰り、広めたことでそれらが結びつき、現在の茶の湯に発展するきっかけを作った人物です。このことが、栄西が「茶祖」と呼ばれる由縁なのです。
日本茶の歴史|千利休
戦国時代のカリスマ茶人「千利休」。利休は生涯をかけて何を追い求め、どんな人生を送ったのでしょうか。カリスマの一生をそのエピソードを交え解説します。
千利休の一生
千利休(1522~1591)は、堺の豪商の家に生まれました。当時の堺は、貿易で栄え商人が自治を行う町でした。
利休は、17歳から茶を習い始め武野紹鴎に師事します。商人として家業に励み財をなす一方で、茶の道を追求し、笑嶺宗訢(しょうれいそうきん)に禅を学びます。
利休が50歳の頃、織田信長が堺の財力に目を付け直轄地とし、利休と他2名を茶頭(茶の湯の師匠)として起用します。信長没後は、豊臣秀吉に仕え、秀吉の関白就任を記念した「禁裏茶会」で親町天皇に茶を献上し「利休居士号」を下賜され、名実ともに天下一の茶人となりました。秀吉の弟・秀長の「内々の儀は宗易(利休)、公儀の事は宰相(秀長)存じ候」という言葉からは、利休が幕府の中心にいたことが分かります。
しかし、その後秀吉の逆鱗に触れ、切腹という形でその生涯を閉じることとなります。
茶室「待庵(国宝)」にみる侘び茶の完成
利休が完成させた侘び茶の精神は、利休の設計した茶室「待庵(国宝)」に凝縮されています。「待庵」は、利休の考える美学を基に、不要なものを極限までそぎ落とし作られた二畳の茶室です。
なかでも利休が大切にした茶の湯の精神は「にじり口」の作りに表されています。「にじり口」は間口が狭く低位置にある入り口です。
たとえ身分の高い武士であっても、刀を外し頭を低くして、這ような体勢にならないと中に入ることができません。茶の湯に集う人は皆、身分の差なく平等の存在だということを「にじり口」は示しているのです。
武士社会の中の「茶の湯」
信長は、家臣達へ茶の湯を奨励しました。許可を与えた家臣にのみ茶会の開催を許し、武功の褒美に高価な茶碗を与えます。名物茶器を持ち、茶の道に精通することが武士のステータスとなるよう仕向けたのです。
その結果、名物茶器の価値は一国一城にも、武将の命にも値するようになりました。ある武将との戦で有利に立った信長が、その武将が持つ名物の茶釜を渡せば命は助けると伝えたところ、その武将が「茶釜だけは渡せない」と、茶釜に爆薬を入れ自爆したと言う信じられない話も残るほど、茶の湯が武士のステータスとなったのです。
エピソードから浮かび上がる「千利休」
利休には数々のエピソードが残され、そのエピソードが千利休の人となりや茶の湯に対する考え方を伝えてくれます。
「侘び茶」の変えられるもの・変えられないもの
利休に茶を点てさせた信長が、利休の茶の点て方が簡略化されていることに気づきます。「何故か?」と問うた信長に、「古法の通りにやっていたのでは、現代の人は根気も無いので嫌がるでしょう。そう思い簡単な作法にしました。」と答えたといいます。
時代に合わせて、侘び茶の作法を変化させることを厭わない柔軟な姿勢と、侘び茶の求める美学やもてなしの心といった精神性には一切の妥協を許さない姿勢を考え合わせると、利休が「侘び茶」において重要視したものが見えてくるのではないでしょうか。
朝顔の茶会
ある初夏の朝、利休は秀吉に「朝顔が美しいので」と、茶会に招きます。秀吉が満開の朝顔を楽しみにやって来ると、庭の朝顔が全て無くなっていました。残念に思いながら秀吉が茶室に入ると、床の間の光が差し込む場所に一輪だけ活けられた朝顔が。一輪だからこそ際立つ朝顔の美しさと、それを見事に演出した利休のセンスに秀吉は感服したといいます。
利休七則(200)
弟子に「茶の湯とは何か」と問われた利休は、のちに「利休七則」と呼ばれる答えを返します。
「茶は服のよきように、炭は湯の沸くように、夏は涼しく冬は暖かに、花は野にあるように、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ」
これに弟子が、それくらいは分かりますと返すと、利休は「もしそれが十分にできるなら、私はあなたの弟子になりましょう」と答えました。当たり前のことこそ難しく、おろそかにしてはならないとする利休の真摯な姿勢が伝わります。
カリスマ茶人「利休」の誕生
秀吉の関白就任を記念した茶会において親町天皇から「利休」の号を下賜された利休ですが、その後「北野大茶湯」を取り仕切り、名実ともに「天下一の茶人」の立場を不動のものとしました。
「北野大茶湯」は、秀吉の権力を示すために開かれた茶会で、農民から身分の高い者まで、身分を問わず茶碗1つで参加でき、参加者には秀吉・利休・その他2人の茶頭が茶をもてなし、1日で1000人近くが参加したといわれています。
切腹
秀吉に命じられ切腹した利休ですが、最期の言動にまで徹底した茶の湯の精神が表れています。
秀吉の「切腹せよ」との言葉を伝えに来た使者に、利休は「茶室にて茶の支度ができております」と伝え、茶を点て、もてなした後に切腹したと伝えられています。
さらに、切腹前にある人へ宛てた手紙には、「心だに岩木とならばそのままに みやこのうちも住みよかるべし(心さえ岩や木のように感情を殺していれば、都も住みよかったのに)」と書かれていました。「私は心(茶の湯の精神)を偽ることができません、それならば死を選びます。」という心情を、歌にして送ったのです。
日本茶の歴史|村田珠光
絢爛豪華で単に楽しむためのものだった茶会を、精神性を追求する「茶の道」へと変化させる基礎を見いだした、村田珠光をご紹介します。
村田珠光とは
村田珠光(1422~1502)は大和国(現・奈良県)に生まれました。珠光は、成長し浄土宗・称名寺に入寺しますが、出家することを嫌い京で能阿弥に師事します。そこで茶の湯・和漢連句・能・立花・唐物目利きを習い、能阿弥の推薦で足利義政の茶道師範となったといわれています。また、臨済宗の僧・一休宗純とも交流があり、彼から禅を学びました。
そして、これらの経験を基に「侘び茶」の基礎となる精神を見い出しました。
珠光の時代は、舶来品を愛でながら茶を楽しむ豪華な茶会(殿中の茶)が中心でしたが、珠光が見いだした「新しい茶の湯」の精神が、珠光の死後も弟子に受け継がれ、やがて今日の茶道へとつながっていくのです。
村田珠光が目指した「侘び茶」
珠光が残した言葉から、珠光の目指した「侘び茶」をみてみましょう。
「物」に関する言葉
珠光は「和漢のさかいをまぎらかすこと肝要」という言葉を残しています。
唐物だけを良しとした風潮に対し、日本の焼物のもつ素朴な美しさにも関心を寄せることが肝心だと主張し、新たな美意識を茶の湯の世界にもたらしました。そんな珠光が残した茶道具は「珠光名物」と呼ばれ、そのうちの1つの茶碗を千利休が使用していたとの逸話も残されています。
また「月も雲間のなきは嫌にて候(光輝く満月よりも、雲の間に見え隠れする月の方が趣があり良い)」という言葉からは「不足の美」を良しとする、「新しい茶の湯」の姿が見えます。この美意識は茶室を作る際にも影響し、珠光は茶室を四畳半という狭い空間に区切り、装飾を排することで現れる美を目指したのです。
「心・精神」に関する言葉
禅の影響を受けた珠光は「物を極限まで排することで現れる美」を追究しました。そして、物の不足を「心の豊かさ」で補うことを目指したのです。
茶の湯の「心・精神」を重視した珠光は、茶の湯の道にとって最も大きな妨げとなるのは「慢心と自分への執着」であるとし、どんなに上達しても人には素直に教えを請い、初心者にはその修行を助けることを説いています。
さらに、珠光が弟子に宛てた一節に「心の師とはなれ、心を師とせざれ。」があります。「移ろいやすい心に振り回されず、自分が心をコントロールする立場になりなさい」という意味です。
珠光は茶の湯を、心をコントロールし自分自身と対峙する「精神修行の場」とすることを目指したのです。
村田珠光に影響を与えた人物
いかにして珠光の考え方が作られたかのか。珠光に強く影響を残した、2人の人物をご紹介します。
能阿弥
能阿弥との出会いなくして、珠光の新しい発想は生まれませんでした。
能阿弥から学んだことは、茶の湯・和漢連句・能・立花など、当時の一流の文化です。それらを学ぶことにより審美眼を磨き、後述の禅の思想が融合することで、珠光の目指す茶の湯が作られました。なかでも和漢連句には、強く影響を受けたと思われます。和歌と漢詩の受け答えを繰り返す和漢連句に親しむことにより、「和漢のさかいをまぎらかす」との考えが生まれたことは、容易に想像できます。和と漢どちらも知った上で融合し、さらに新しいものへ発展させるという考えがここから生まれました。
禅僧・一休宗純
珠光は、「一休さん」として有名な禅僧・一休宗純からも大きな影響を受けています。
禅僧・一休宗純は自由を追い求め、反骨精神にあふれた禅僧でした。珠光は、「無駄を排する禅の教え」や「何ごとにもこだわらず、本質を追い求める心」を一休から学んだのです。
侘び茶は珠光により完成された訳ではありません。しかし、珠光は「佗び茶が目指し、進む道を示す」という重要な役割を果たしたのです。その後、珠光の考えは富裕層の支持を得て広まり、弟子達が研鑚を重ねたことで茶の湯文化の完成につながっていくこととなります。